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魔王と勇者、星を眺める

海辺にある南の離宮での夕食を終えてから、魔王は夜の散歩にマリーを連れ出した。

魔王が作り出した炎の玉が2人の足元を照らす。

昼間に訪れた岩場のあたりまで来たところで一休みすることにして、魔王は灯りとして使っていた炎の玉を消した。

今夜は3つある月のうち一番小さい月しか出ておらず、夜空には無数の星がまたたいている。

「星ってこんなにたくさんあるんですね・・・」

空を見上げてため息をつくマリー。

「ああ、今宵は雲もないのでよく見えるな」



「あの、魔王様。1つ聞いてもいいですか?」

夜の波の音だけが聞こえる中、ふいにマリーが口を開いた

「なんじゃ?」

「昼間、『大厄災の怪物』のお話を聞いた時に気になってたんですけど、昔は人間と魔族が共存してたって本当なんですか?」

「ああ、そうだ」

「どうして今みたいに別れてしまったんですか?」


しばしの沈黙の後、魔王が話し出す。

「人間達は自分達と異なる外見や力を持つ者を恐れた。そして人間と共存できないと悟った魔族達は辺境の地へと移り住んだ。まぁ、これは魔族側から見た場合であって、人間側から見ればまた異なる見方があるやもしれんがな」

「でも別れて住むようになったのに、なぜ人間と魔族は争うのですか?」

「人間同士、魔族同士でも揉め事はある。人間と魔族でも多少のいざこざはある。だが、実のところ魔界側から組織立って人間界に攻め入ったことはない。魔王討伐などと称して攻めてくるのはいつも人間側だ。なぜだかわかるかの?」

しばし考えるマリー。

「・・・魔王様が怖いから?」

「それもあるだろうが、一番の理由は人間にとって共通の敵が必要だからなのだろうと我は思う」

「敵・・・ですか?」

マリーは小首をかしげる。

「そうだ。人間にとっての敵という存在があることで、いくつもの国に分かれる人間達はなんとか1つにまとまれる。それと同時に人間同士や国同士など人間界内部の問題から目を逸らさせることで利を得る者もいる、ということだな」

少し困ったような表情になるマリー。

「・・・ちょっと難しいです」


「そうだな、まだよくわからんかもしれんのう。だが、人間として生まれ、魔界に暮らすマリーは、両方を知ることができる貴重な立場であろう。これからさまざまなことを知り、自分自身でよく考えてみるとよい。ただ人も魔族も各々に考えがある。そのためにどちらも間違っておらずとも相反することもある。すべての者が納得いく形で収まるのはかなり困難なことではあるがな」

「・・・みんな仲良くできたらいいのに」

「ああ、本当にそのとおりだな」

それからしばらく魔王とマリーは波の音を聞きながら夜空の星を眺めていた。


翌日は魔王と小船で少し沖まで出てみたり、砂浜で貝殻を拾ったり、海辺の風景をスケッチしたりして、マリーは海を堪能した。

「いつかまた、ここに来たいです」

帰り間際、普段あまり自分の要望を口にしないマリーがめずらしく魔王に言った。

「そうだな、また来よう」

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