【幕間】勇者のいない勇者パーティ(2)
街に転送された聖女は、宿に戻るなり賢者に詰め寄った。
「私がいない間に何があったのよ?!」
「魔王に問われた。求めるのは勇者か?それともあの子か?と」
「それでなんて答えたのよ?」
「・・・答えられなかった」
パシン!
聖女が賢者の頬を思い切り平手打ちした。
「どうしてよ?!貴方だってあの子のことが大事だったんじゃないの?」
「もちろん大事には思っている。だが、同時に私は勇者奪還という役目も担っている」
「・・・奪還?」
ずれた眼鏡の位置を直す賢者。
「ああ、魔王も知っていたようだが人間界の勇者はこの世に1人しか存在し得ない。だから、もしも当代の勇者がもう使えないようならば抹殺せよと」
ドシン!
賢者は最後まで言うことなく壁に叩きつけられていた。
殴ったのは聖女だった。
さらに続けて殴ろうとするも、同じ室内にいた戦士と魔術師に力ずくで止められる。
「あの子を殺す気だったっていうの?!何が賢者よ!馬鹿じゃないの?!」
「記憶がない上に力を封じられているのならば勇者としては使えないだろう・・・だが、あんなに楽しそうな笑顔を見て、その命を奪えるほど私は冷酷にはなれなかった」
賢者はゆっくりと身体を起こす。
そして聖女はため息をついた。
「私も魔王に問われてとまどったわ。私達、あの子の好きなものとか何も知らない。戦うことしか教えてこなかった。今のあの子の方がよほど人間らしい暮らしをしてるわよね」
「魔王が『記憶を失ったあの娘が1つだけ覚えていたことがある』と言っていたのを覚えているか?」
床に座ったままの賢者が聖女に問う。
「ええ、そういえば内容はまだ聞いてなかったわね」
「燃える花畑に人影が見えたそうだ」
「あ・・・」
聖女の頭の中でもその時のことが鮮やかによみがえっていた。
「しかも言い当てられた。初めて誰かを殺めた時だろうと」
修練の一環として幼い勇者に初めて1人で戦わせた。
その出来事は深く刻み込まれていたのだろう。他の記憶をすべて失っても残るほどに。
「・・・私はあの子に関して魔王と連絡を取ることを許されたの。貴方は当代の勇者を抹殺しろとか言う馬鹿どもを何とかしてちょうだい。もしできないというのなら私は今後独自で動くわ」
床に座ったままの賢者を見下ろして聖女が言い放った。
「わかった、何とかしよう。幸い今すぐに勇者が求められる状況でもないからな」
聖女が紙袋をテーブルの上に置いた。
「これ、おみやげ。あの子が作ったクッキーよ」
甘いはずのクッキーが勇者パーティにはなぜかほろ苦く感じられた。




