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魔王、情報収集する

マリーと勇者パーティの面々が再会した翌日。


「こんなところで立ち話もなんなので店に入るが、よろしいかな?」

噴水のそばで聖女と賢者の2人と待ち合わせた魔王は、大通りに面した落ち着いた雰囲気のカフェに入り、一番奥にある小さな庭に面した個室に案内される。ここも魔族の者が営む店だ。


聖女が真っ先に尋ねる。

「あの後、あの子はどうなりました?」

「帰宅してすぐに意識は戻った。体調も問題はなさそうだったが、念のため今日は部屋で休ませておる」

聖女が安堵の表情を浮かべた。

「さて、我から話そうと思うが、まずは正体を明かしておくかの」

本来の姿に戻った魔王を見て賢者と聖女は思わず息を呑む。大きな角がその存在を主張している。

「・・・まさか、魔王?」

聖女がつぶやく。

「左様。久しぶり、とでもいうべきかの?」

魔王はニヤリと笑った。



「さて、さっそくだが本題に入ろうかの。人間の勇者だが、瀕死の状態であったところを部下が見つけた。とうに勝敗の決した戦で敗戦の将を・・・ましてや瀕死の子供にとどめを刺すのも憚られたので保護した。一命は取り留めたが、記憶をなくして自分の名も勇者であることも覚えてはいなかった。ゆえに今はそちらのことも何も覚えてはおらぬ」

「何か・・・ほんの少しでも覚えていることはなかったのですか?」

聖女が尋ねる。

「1つだけ答えたものはあるが、身元に関わるものではなかったな。それはさておき、こちらの魔法による治癒が効かなかったので、治療にはずいぶんと時間がかかった。呼び名がないと不便なので我が『マリー』と名づけ、治って動けるようになったら本人が働きたいというので、うちの者達と相談の上メイド見習いとした。愛想がよく、仕事もすぐ覚え、手先も器用なので使用人達にかわいがられておるぞ」


賢者が口を開く。

「あの娘は人間界の勇者だ。返して欲しい。条件があれば可能な限り対応する」

「条件なら1つだけある。あの娘が心穏やかに過ごせることだ。せっかく救った命を無駄にされるのは好かんのでな」

賢者と聖女は言葉に詰まる。

「そもそも人間界に戻すことがあの娘にとって本当に幸せであると言えるかの?勇者の紋がある以上、またいつか戦に駆り出さることもあるのではないのか?」

賢者が口を開く。

「だが、あの娘は勇者として選ばれし者だ。人々を救うという役目を果たさねばならない」

「本人の意思はお構いなしというのが人間のやり方かの?」


少しの沈黙の後、魔王が口を開く。

「まずはこちらの状況は話した。我はそなたらに聞きたいことがある。あの娘の好きな食べ物や嫌いな食べ物、好きな色や花などを教えてもらえぬかの?長らく一緒にいたのなら当然知っておろう?」

賢者と聖女は顔を見合わせて再び言葉に詰まる。

幼くして勇者として大神殿に召し上げられてからは修練に明け暮れ、何一つ自由にできることなどなかったのだから。

「まさか本当に何も知らぬとは・・・」

魔王はため息をついた。

「今日は無理だが、近いうちにそなたらを我が城に招待しよう。マリーがどのように暮らしているか、その目でよく見てから考えるとよい」

この日の話し合いはこれで終わった。

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「名前のない物語」シリーズ
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