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勇者、再会する

転移の拠点となっている商会へ戻る途中、魔王は偶然会った知人の魔族と話を始めた。

マリーは近くにある大きな噴水をよく見ようと魔王の了承を得て少し離れる。魔王城にも噴水はあるが、ここまで大きくはない。


「ローズ!」

背後から声がしてマリーはハッと振り返る。

なんで知らない名前なのに振り返ったんだろう?と自分でも不思議に思っていると、波打つ金髪を揺らしてとても綺麗な女性が駆け寄ってきた。

いきなり左手を取られて手の甲を確認される。

「ああ、本当に生きていたのね!私達、貴女のことをずっと探していたのよ」

女性が泣きながらマリーをぎゅっと抱きしめる。

わけがわからなくて女性から逃れようとするマリー。

「あ、あの、貴女はどなたですか?」

「・・・え?」

呆然とする女性。

「私のこと、知ってるんですか?」


マリーは背後から近寄ってきた魔王によって女性から引き剥がされ、肩を抱き寄せられた。

「当家の使用人に何か御用かな?」

「・・・使用人?」

「左様、この者は我が城のメイド見習いのマリーだ」

「その子はローズよ!その左手の甲の紋は間違いないわ」


そんなやりとりの間に金髪の女性の背後には3人の男性が駆けつけていた。

銀髪の眼鏡をかけた細身の男。

黒い長髪でローブを身に纏った男。

赤い短髪で大剣を背負った男。


金髪の女性と3人の男が揃った状況を見たマリーの脳裏には、燃える花畑の光景が浮かんだ。

その花畑の中で燃える人影も。

「いやぁ!」

短い悲鳴を上げたマリーは崩れるように倒れて意識を失った。

「マリー!」

「ローズ!」

魔王がとっさに支え、すぐに抱きかかえる。

「ローズを返してっ!」

縋り付こうとする金髪の女性を振り払う。

「今は返せぬ。だが、この娘について情報交換したい。そちらさえよければ明日のこの時刻にこの場所でまた会おう。ただし、来ていいのは女とそこの眼鏡の男だけだ」

魔王とマリーの姿は噴水のそばから一瞬で消えた。



勇者が欠けたままの勇者パーティは近くの宿に戻った。

「勇者と話したのか?」

賢者が呆然としている聖女にたずねる。

「・・・私のこと、誰だかわからないって。一緒にいた男は自分の家でメイド見習いをしているマリーって言っていたわ」

賢者が少し考える。

「記憶を失っているか、あるいは封じられているか、だな」

「でもさ、あの男って人間に化けてたけど魔族だよな?」

赤い髪の戦士が言う。

「そうだな。それもかなり高位の」

魔術師が答える。

「勇者の身柄が向こうにある以上、明日会わねばなるまい」

賢者が締めくくった。

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勇者は獲物を逃さない【連載版】
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「名前のない物語」シリーズ
人名地名が出てこないあっさり風味の短編集
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