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勇者、勉強する

「マリー!そろそろ行こうぜ」

魔王城の使用人用の食堂で昼食を終えたばかりマリーに声をかけてきたのは、厨房の見習いである犬の獣人の少年。マリーが入るまでは城で働く者の中で彼が最年少だった。記憶がないマリーの正確な年齢はわからないが、使用人達からは2人はだいたい同い年くらいと見なされている。

「うん、今行くね!」

毎日ではないけれど、2人は昼食後から午後の魔王のティータイムまで勉強を教えてもらっている。

教師は使用人達が交代で務め、各々の得意分野を教える。そのため読み書きや計算の他に工具の使い方や裁縫など内容は多岐にわたる。

2人とも物覚えがよい上に手先も器用なので、使用人達にとって教えがいのある生徒であるらしい。


今日の午後はエルフの薬師から庭の片隅にある薬草園で薬草の見分け方を学んだ。

植物はよく似ているものも多く、注意深く観察してみてもなかなか難しい。

嗅覚に優れた犬の獣人の少年は、葉の形状だけでなくほんのわずかな香りの差でも識別していて、マリーは少しだけうらやましかった。

「おや、もうこんな時間でしたか。今日はここまでにいたしましょう」

マリーが楽しみにしていた薬草の使い方はまた次回ということになった。


「・・・あのさ、マリー」

勉強が終わって仕事に戻る前に犬の獣人の少年が話しかけてきた。

「なぁに?」

「お前さ、菓子職人さんに時々お菓子作りを教えてもらってるだろ?あれ、もしできたら俺も一緒に参加したいんだけど・・・ダメかなぁ?」

マリーは魔王が外出して午後のティータイムがない時にお菓子作りを教わっている。

「お菓子、作りたいの?」

小首を傾げてたずねるマリー。

「うん。俺、見習いだからまだ洗い物とか簡単なことしかやらせてもらえないだろ?だから自分でちゃんとしたものを作ってみたいんだ」

マリーはニッコリ笑った。

「わかった!今度先生に聞いてみるね」

犬の獣人の少年は、そんなマリーの笑顔を見てなぜか自分の顔が熱くなるのを感じていた。

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