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Βιβλίο【ヴィヴリオ】  作者: 青茶
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どこにでも狂気はある

炎は刻々と広がり、強く、熱くなっていく。


葵は椅子に縛られている生徒たちのインシュロックを落ちていたナイフで切断していった。


全員無事だったが一人は気絶していた。


「おい!大丈夫か」


顔を覗き込むと左目からかなり血が出ていた。


「うわぁぁ!」


驚いて尻餅をついてしまった。

なんでこの女子だけこんなことになっているんだ。


葵は驚きもしたが、すでに死んでいる先生を見て追加で拷問じみたことの詳しい説明まで聞かされていたので感覚が麻痺していた。


「痛いかも知れないが我慢してくれ」


インシュロックを切断し、ガムテープで固定された壺を剥がした。

ガムテープを剥がした時に髪の毛が抜けた痛みで女子生徒は目が覚め、再び嘔吐した。

そして見えている右目で周りを見渡すとあたり一面炎の海という状況についていけずまた気絶してしまった。



教室の生徒全員を解放し終えた時にはもう炎が教室を包んでいた。


「おいこの先どないしたらええんやろか」


「僕に聞くなよ。落ち着いているように見えるのは頑張ってこれを夢だと思い込んでいるからだし、あんなものを見た後じゃ逆に冷静になってしまってるだけだ」


「なるほどなあ」


「そういう音守。お前なんでそんなに落ち着いているんだよ」


妙に普段通りというか普段より大人しい音守を不思議に思った。


「お前と理由は刺して変わらんよ。それに俺は心臓に毛が生えてるからな!」


どんと自分の胸を叩いた。


音守のこういう明るい性格には心底助けられる。こんな状況でも何かいいことがありそうな気がしてくるし。


「とりあえずここから出ないとどうにもならない」


「そりゃそうやけどどうする気なん」


「僕が入ってきたところの扉は確実に空いているはずだ。火で何も見えないけど」


「ふむ。それで?」


「それでそこから僕が外に出る。外にある水道からホースでこの火を消そうと思う」


「おおめっちゃ現実的やん。火傷に気をつけてな」


音守は死体のそばにいき近くにあった熱湯、今はもうぬるま湯になっているものを取りに行き、葵にかけた。


「少量やけどあったらマシやろ」


ニヤニヤと笑う音守は気持ち悪かったが確かにマシになると思い素直に「ありがとう」と言い、勇気を出し炎の中に入っていった。



炎は非常に熱かったが少しかかってる水が葵を守り、所々火傷を負いつつも教室の外に出ることができた。


葵はホースを取りに行き、水を最大に出して再び教室まで戻ってきた。廊下は水浸しになっていたがそんなことを気にしている場合ではなく必死に水をかけた。



「どうなってるんだよ!」



確実に炎にあたっているはずなのに炎が弱まることはなく、火に油を注いだかのように炎の強さは増すばかりだった。



「藤山ー!むしろ強なって中水と火でやばいんやけど!」


「わかってるよ!全然消えないんだ!」


そう答えた後しばらく何も返事がなく、中の様子が心配になった。


「おい!なんか言ってくれよ!」


すると中から返事がきた。


「藤山!そのまま水をかけ続けてくれ!」


「でも消えない」


「ええからやり続けろ!」


言葉を被せてきたので水をかけ続けた。

すると、扉から転がりながら音守が飛び出てきた。


「ひゃー。めっちゃ熱かったわあ」


「大丈夫か!」


葵は音守の方を見ながら水は止めずに聞いた。

音守は身体中水でびしょ濡れになっていた。


「藤山がこっちに水をかけてくれてたやん?火は一切消えてへんかったけど水はこっちにきてたから水かかりながら火の中通ってきたわけなんやわ」


葵に説明を終えると音守は立ち上がり教室に向かって「通れたぞ!」と一声あげると、次から次に生徒たちが出てきた。

始めは男子ばかりだったが次第に女子たちも出てきた。


「一体どうなってるんだ」


「はやく逃げようよ」


「隣のクラスに彼女がいるから気になるんだけど」


各々好きに発言し、勝手に動き出していた。学校から出ようとする者。警察に連絡しようとする者。戦うとか突拍子もないことを言い出す者。動かずに呆然としている者。


「いやいやみんな勝手に動いたらヤバイんとちゃうん」


「知るか!みんな勝手にしてるからいいじゃないか!」


音守が気にしてまとめようとしていたが周りがそんな雰囲気ではなかった。


彼女がいると言っていた男子が隣の教室に手をかけた。


「あれ?開かないじゃん」


何回か扉を押したり引いたり、横に引いたりしてみたが動くことがなく、後ろの扉も下の小さな扉も同様に動くことはなかった。


「なんだよ。意味わかんないんだけど」


悪態をつき扉をガンガンと蹴り始めた。


葵は物に当たるのは良くないと思いその男子を止めようと声をかけようとした。


「意味わからねぇのはこっちだよ」


扉が急に開き中から少し小さめの男が出てきた。

その男は身長こそ一般の男性より小さく小柄だがドンとした態度だった。



「ものを蹴ったり壊したりするのはダメって学校で習わなかったのかよ」


「なんだよこのチビ。ここは高校だぜ。親はどこにいるんだよ」


小さい男の頭を撫でようと手を伸ばした。


「小さいね……」


伸びてきた手をつかんで男は続けた。


「気にしてねぇけど舐められるのは腹が立つ」


小さい男は相手の腕から手を離し、すぐさま相手の手を握り、掌が上に来るように捻じりながら自分の方に引っ張り膝で肘を下から蹴り上げた。



関節が外れ砕ける鈍い音がした。

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