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Βιβλίο【ヴィヴリオ】  作者: 青茶
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いつもじゃない日常へと



「藤山〜おはよう」

「おお、音守。おはよう」


いつも通りの道でいつも通りの挨拶。


「待ってよ!」


後ろから全速力で追ってくる葵京。

この坂道を全速力で上がってくるなんて一体どういう脚力をしてるんだか。


「おお、葵京ちゃん!ごふううううっ!!」


全速力で走ってきた葵京を腕を広げて受け止めようとした音守に体当たり、タックルといったほうがいいのか。

レスラーもびっくりの速度でタックルしたものだから物の見事に音守は吹き飛ばされた。

だが何事もなかったかのように音守は立ち上がり、葵京に手を差し伸べ体を起こした。

葵京はというと、差し伸べられた手をはじめは素直に取ろうとしたが、途中で止め周囲を見て、なんか恥ずかしいねとボソリと

頰を赤くしてはにかみながら言った。

そんな少し照れ気味の葵京が心に響いたのか、音守はその場に倒れた。


「朝からイチャつくのも大概にしてくれ。なんで家族のそういうのを見なきゃいけないんだよ」


二人は苦笑いをしながら立ち上がりなぜか音守はクラウチングスタートの姿勢に、葵京はスタンディングスタートの姿勢に。

ここで僕は、何回かもうすでに経験済みなのでなんでこのようになっているかは知っっているので、いつも通り両手を胸の高さにまで持ってきて言った。


「どん」


と同時に手を叩いた。


「ヒャッホウ!」

「よーい!よーいはどこへ言った!ずるいぞ!お兄ちゃん!」


どんの前にあるはずのよーいを飛ばして言ったため葵京はわめきながら走り出したのだが、音守はどんと聞いただけで走り出すとは。

相変わらずいい反射をしている。


「待て!潤先輩!」

「ここまできてみな、葵京ちゃん。俺はいつでも待ってるで」

「待っていてくれるなら、走らないでください!」


側からこの発言を見ていたらなんと微笑ましいと思うものもいるだろう。

だが想像してほしい。

アスリートも顔負けな速さで走っている二人が、ましてやフォームもほぼ完璧な二人がそのような会話をしていて誰が微笑ましいと思うのだろうか。

むしろ怖い。実際、二人はかなりいい勝負をしている。どちらも距離が縮まらずに坂を登っている。


「僕にもこんな脚力があったら参加してみたいよ」

僕はいつも通り坂道をゆっくりと歩いて登って行った。


教室につき、自分の席に着いたのだが音守の姿が見当たらない。

何であんなに早く走っていったのにどこにもいないんだ。


「出席とるぞ」


扉が開き、担任が入ってきた。


「珍しいな、あの騒がしいのが休みなのか」


教室を見渡して藤山の方を見て言った。


「藤山、お前音守と仲良かったよな。何か知らないか」

「いや、朝なんか猛烈に走って学校に行っていたはずなんですけど」

「本当か」


いや、本当なんですがと渋々言っても仲がいいためか疑われたままだ


「私も見ました、藤山君の妹さんだよね、一緒に走って行きましたよ」


と、フォローを入れてくれた。


「まあ委員長が言うならそうなんだろう。一度家に連絡入れてみるか」


担任はそう言うとじゃあ朝礼終わりといい扉から出ていった。


「ありがとう、助かったよ」


「いいよ、そんなこと。なんたって委員長だし」


委員長じゃなかったら助けてくれなかったと言うのだろうか。

そう思いながら席を立って葵京のところへ向かうことにした。


あいつも走っていったから何か知ってるだろう。




葵は1年の葵京がいる教室へと向かった。



「失礼します」


ざっと教室を見渡した。

見渡した限りでは葵京がいない。

トイレにでも行っているのだろうか。

葵は近くにいた一年生に問いかけた。


「えっと、そこの君。葵京って子知らないか」


「葵京ちゃんなら一回教室に入ってきて、またすぐに出ていきましたけど。何かあったんですか」


「別に何かあったわけじゃないんだ。教えてくれてありがとう」


「ちなみに、えっと、先輩、は葵京ちゃんとどういう」


目の前の女の子はなぜか顔を赤らめて僕をチラチラと見てくる。


この子は一体なにを勘違いしているんだ。


「ああ、ごめん。葵京の兄です」


その子は急にテンションが上がってものすごい笑顔で話してきた。


「お兄さんでしたか!いやあ葵京ちゃんがよく話していたんですよ。毎朝リモコンを取り合って遊んでるけど一向に勝てないって。いつも同じ時間に同じ占い番組を見てる訳がわからない兄だって。それでも話している時はすごい楽しそうなんですよ。それで……」


葵京にとってあのリモコン取りは遊びの部類だったのか。遊びにしてはいささか必死ではあった気がするんだが。



その子がすごい勢いで話し続けるので僕は少し引いた。

引いている僕を見てもまだ話し続けるので話を打ち切ろうとした。


「ああ、うん。そうです。ありがとう。もう教室に戻るよ」


「もし戻ってきたら伝えておきます!」


葵京の友達は元気な声で言った。



おかしいな、音守はともかく葵京までもいないとは。

なんだかんだ言って葵京は真面目で皆勤をとるような感じだったのだが。



葵は考えながら自分の教室へと戻っていった。

廊下を歩いていると何故か声が聞こえるような気がした。だが教室に近づくにつれて声が大きくなってきたため気のせいではなく実際に騒いでいるのだと確信した。


教室の前にきた葵はこの騒がしい状態の教室に入る気がせず、中の声だけ聞こえるようにとの近くに立って落ち着くのを待った。



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