どこにでも狂気はある2
「っっっっぁぁぁあああああたあああおああおあああ!!!」
「喚くな。転がるな。痛がるな。」
男は男子生徒の頭を掴み地面に叩きつけた。
その痛みと衝撃で脳が揺れて視界がおかしくなり、声を出せていなかった。
「一体全体どうなってんだよ。全員か?出てきたのは」
男は生徒のいる方をざっと見渡した。
「おい、そこのホース持ってるお前」
指名された葵はすぐさま身構えた。
「てめぇがそいつらを外に出したってのか?」
男は葵を直視した。
ひしひしと伝わる恐怖なのか、威圧なのかはわからない何かが上から押さえつけられているように感じた。まるで蛇に睨まれた蛙のように動くことも、話すことさえも出来なかった。
「こんなやつには無理か」
男は頭を掴んだままの男子生徒の喉に向けてナイフを降ろそうとした。
「藤山に変わってお仕置きよ!っと!」
葵のポケットに入れたままのナイフを抜き取り男の方へと放り投げた。放り投げたと言っても運動神経抜群の音守の投擲だ。放物線を描いて飛ぶわけではなく、レーザービームのように一直線に飛んでいった。
飛んできたナイフを振り下ろす途中のナイフで方向を急転換させて上に弾いた。
「おお、気の入ったナイフだなぁ、おい」
下ろす途中だったナイフを容赦無く振り下ろした。
男子生徒の口から血が溢れ出てきた。
刺したナイフはそのままにし、上に弾いて落ちてきたナイフを手にとった。
男はその光景を見ながらにやりと笑い、葵と音守の方を見た。
「ナイフを投げたのは初めてか?結局死んじまったなぁ?」
口や喉から溢れ出る血を見ても葵や音守、その他の生徒たちも特に微動だにしなかった。
もう感覚が狂ってきているのだろうか。
「あぁ?妙に大人しいな」
「イネスとかいう胸のちっこいやつに散々色々見せられたからな!」
男は目を見開き、吹き出し腹を抱えて笑い始めた。
「あっはははは!てめぇあいつに胸のこと言って何にもなかったのか?やるじゃねぇか。やっぱ顔がいいと違うってのか?あっはははは!」
男は散々笑っていた。そのすきに逃げたり反撃したりしようと考えたが、なぜかできなかった。先ほどと同様に全員動けずにいた。
「あぁ笑った笑った。てめぇのことは気に入った。無視してやる。それ以外は今ここで焼け死んでもらう」
男が動き出した。
だが全員動けずにいる。
男はナイフ一本を手に持ち走り出し、一番近くにいた生徒の足の腱を切った。
生徒が「ぎゃっ」と叫び崩れ落ちていく間に次の生徒へと走り同じように腱のみを的確に切っていく。次へ、また次へと切っていった。
音守を無視すると言ったのは本当のようで音守は何もされず近くにいた葵を切ろうと走ってきた。葵も動けずにいたが辛うじて指先が動けるようになった。動く指を全力でホースの先を潰し高出力にして男の方に向けた。男は一歩でその水を避けホースを切断して止まった。
「てめぇもなかなかいい、とっさの判断は一般にしては優れているぜ。あいつの次にだがなぁ」
ナイフをクルクルと回しながら走り出し、再び切り始めた。廊下に何人もの生徒が足から血を流し転がっていた。
全員切り終えた後どこからか灯油を取り出し転がっている生徒たちにかけ始めた。
「さぁーてと、ライターライターっと。てめぇら離れとけよ、臭いし、うるさいしで最悪だぜ」
躊躇うことなく火をつけた。
火が灯油に触れた瞬間生徒たちが燃えた。
叫び声が至るところから聞こえる様は地獄のようであった。昔の火刑であれば立っている状態で縛られて燃やされるので火傷で死ぬわけではなくほとんどが煙による窒息死、またはショック死になるが今生徒たちは廊下に寝転がっている状態で燃やされているため、煙が肺に入ることはなく息を吸えば火が直接肺に入るため息を吸うこともできず、ただ叫ぶばかりだった。
少しすると叫び声が減ってきてパキ、パキと枝が折れるような音がし始めた。燃えている人の体が変な方向に曲がり始めていた。それは焼かれた筋肉が収縮し、骨がへし折れている音だった。
叫び声が完璧に聞こえなくなり、骨がへし折れる音だけが廊下に響いていた。そして全員が焼死体となった。
「これで終了っと。ああそうそう。てめぇらのなんていうんだ?」
二人とも何も言葉を話さなかった。
だが男は「話さないなら同じように死ぬかぁ?」とナイフを回しながら詰め寄ってきたので答えた。
「音守潤に、藤山葵。よーし、多分覚えたぜ。生きたたら会うことがあるかもなぁ」
「お前はなのらないんかい!」
「なんで弱ぇやつに教えなくちゃなんねぇんだよ」
男は名乗らずそのまま廊下を歩いて行った。
姿が見えなくなってから葵は走り出したがすぐに音森が止めた。
「おいおいどこにいくんや。今は動かんほうがええで」
「あんなのがこの学校に、全ての教室にいるなら!葵京を、妹を助けに行かないと!」
「そりゃそやな」
葵は再び葵京の教室へと音守とともに走り出した。
他の教室は全て閉まっており、中から声もなにも聞こえず、大した騒ぎにもなっていないようだった。
気になり何個かの教室の扉に手をかけ開けようとしたが先程と同様に扉が動くことはなかった。
空いていない扉のなかにさっきの男や、イネス見たいな残虐な女が同じように、同じことをしているのではと考えると余計葵京が心配になり足取りは早くなった。