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平凡最弱魔王様!  作者: 不破
12/13

貴方のお名前、なんですか?2

勧められるままふかふかの椅子に座ると、ごろごろとワゴンを引いてメイドたちが準備に取り掛かる。ケーキスタンドに小さなケーキやクッキー、お洒落な陶磁器のカップにポット、銀のスプーンにフォーク。お土産に持ってきたジャムを取り分けた小皿が5つ並べられ、机の上に全ての準備が整って、カップに紅茶が注がれる。メイドは用事があればベルを鳴らすように言って部屋を出ていった。多分隣の部屋か、さもなければ廊下で待機しているのだろう。


ジャムもケーキ用のお皿もティーカップも、全て5人分だ。首を傾げていると、ぴかりと窓の外が光った。慌ててそちらに目を向けると、開いたカーテンから除くバルコニーに、2人分の人影が見える。白いスーツに白いケープのクー王子と、つるりとした銀の仮面で顔の上部を覆ったリチャードだ。思わずさっと立ち上がって右手を左胸に当てる。いつの間に、というか、どうやって?ここは2階なのだけれど……。


「驚かれました?クーは転移も得意なのですよ。」

「て、転移……。」


転移、といえば、神霊級の魔法である。将来のメアリも、流石はラスボスの前に陣取る悪役だけあって行使できるようになる予定だが、さすがに今は使えない。クー王子本人は大したことは無いよなどと言っているが、普通に大したことある。


「こんにちは、メアリ。どうやら魔眼の後遺症などは残らなかったようだね。ほら、あれ、加減を間違えると廃人になってしまうだろう?」

「こ……こんにちは、王子殿下。お陰様でわたくしは大事なく……。」


廃人!?ほら、って聞いたことないけど!?私がびくついている間にクー王子とリチャードは余った席に着いている。ユリアがどうぞお好きに召し上がって、と微笑むのだが、シトリはもう随分前に飲み食いし始めているらしかった。ジャムなんかもう少しも残っていない。気に入ってくれたのだろうか。それなら嬉しいのだが、と思っていると、まあ楽にしたまえと王子が言うので、私ももう一度座ることにした。早速王子はジャムと紅茶を見比べて、ふむと頷く。


「これは姉上がよくやっているな。姉上はあれで面倒臭がりで、交互に口に入れるのがまだるっこしいとかで混ぜて飲んでいるようだが。」

「そうなのですか。でも、クリスタ王女殿下の飲み方も間違ってはおりません。ジャムを砂糖の代わりにするというのもおすすめの飲み方なのですよ。」

「そうなのか。では私もそうしてみようかな。」


クー王子はジャムを匙ですくってカップの中身をくるくる混ぜる。そして一口含んでこれは良い、と笑った。フレーバーティのような香りが気に入ったのか、何度か息を吸っては吐いてを繰り返す。一息ついたらしい、改めて王子が口火を切った。


「改めて、こちらはレヴィエ伯爵家のリチャードだ。今回はメアリも招かれると聞いたからね。前回はあまり良いファーストコンタクトだったとは言えないのがどうしても残念で、無理を言って参加させてもらうことにしたのだよ。」

「……僕は、頼んでないし。」


クッキーをもそもそと、それでも上品な仕草で食んでいたリチャードはぶすくれている。無理やり連れてこられたのだろう。そもそもあまり良い人間関係を組めていないリチャードにとっては茶会だかパーティだかに参加することそれ自体が苦痛であるはずなのだ。


「ディック。」

「だってどうせ……いや、ちがうな。皆、君みたいにはなれないよ。ほら、リリィ嬢だって怖がって、いっそ嫌っているみたいだし。し。アンは何を考えてるか分からないけどさ。」

「そ……そんなこと。私、別にあなたの事を嫌ってなんて、」

「取り繕わなくたっていいんだ。いつもの事だよ。僕がいると、いつもみんなそうだ。そういうものだよ、人間って。スー嬢もきっとそうじゃない?誰だって死にたくないもんね。」


ユリアは瞳を揺らして何か言いかけたけれど、そのまま口を閉じて俯いてしまった。シトリはぼうっとリチャードの横顔を見ている。リチャードはカップの中身を一息に飲み下すと席を立った。


「美味しかったよ。ご馳走様。」

「あの、どとらへ?」

「庭のそのあたりにでも隠れているさ。終わったら呼んでくれよ。」


スタスタと窓の方へ歩いていったかと思うと、彼はバルコニーを飛び越えて飛び降りてしまった。……なんでこの人たち、普通にドアから出入りできないのかしら。

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