表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡最弱魔王様!  作者: 不破
1/13

こんにちは、メアリ・スー

ある日私は頭を強かに打ち付けて、前世の記憶を取り戻した。普通の女子大生だった私はいつの間にか、本当にいつの間にか、気づけば物語の中の登場人物になっていたのである。全てを思い出した私は7歳で、物語通りに成長すれば10年後に破滅する予定の悪女だった。


……と、言うと、なんだか漫画かネット小説のようだけれども、これが事実なのだ。悲しいことに。まず、順を追って物語を説明していきたいと思う。


私が転生したのは『完全無敵王子様!』という小説の世界である。恋愛ごとに冷めた気持ちしか持てない、ちょっと変わった辺境伯令嬢マリア・ゴールデンをヒロインに、剣と魔法のファンタジー世界の貴族社会で様々なカップルが成立するまでを書いた物語だ。舞台は光の国と呼ばれるリュミエール神王国。もちろんタイトル通りにメインヒーローのクーは完全無敵の王子様で、マリアとクー王子がくっつくまでが軸になっている。もとはネット小説だったのだが漫画化してからというもの、多くのオタクに読まれることとなった、まあそういう作品だった。


マリアとクーがくっつくまでにはやはり様々な困難が待ち受けているのだが、そのうちの一つが公爵令嬢メアリ・スーと魔王リチャードの結託だ。なんと、メアリとリチャードはどちらもクー王子に惚れ込んでいて、どんどん王子との仲を縮めていくマリアをあの手この手で排除しようとするのである。ちなみに余談ではあるが、リチャードはこの設定があってか一部の熱狂的なファンが着いていた。2人はのちのち彼女たちが愛したクー自身の手によって破滅させられてしまうのだが……。


私が転生したのは、その悪役公爵令嬢メアリ・スーなのである。


「完……ッ全に、詰んだわ……!」


頭を打ち付けて気絶した私が飛び起きて開口一番そういったものだから、メイドはいっそう驚いたようだった。……まあ、それはそうだろう。今までの私だったら「完全に詰んだ」なんて言わない。「わたくしとしたことが、抜かりましたわ……!」くらいであれば、言ったかもしれないけれど。作中のメアリ・スーは才色兼備の完璧な御令嬢なので。全てを思い出す前の私の口調もそんな感じだったのだけれど、7歳なので背伸びしたおませさんにしか見えなかったことだろう。なんだか恥ずかしい。


「どうなさったのですか?お嬢様。」

「……ああ……なんでもないのよ。なんでも……」

「左様ですか。とにかく、今すぐに旦那様をお呼びしなくては。しばらく横になってお待ちくださいませ。」


メアリ付きの……すなわち私付きのメイドのアーニャは優雅に一礼して部屋を出ていった。言われた通りに横になって辺りを見回す。公爵令嬢とあってものすごく豪華な部屋だ。調度品なんか、一体何円するのか考えたくもない。布団もふかふかで、寝巻きなんか肌触りがさらさらしていて洗濯しまくってごわついたTシャツとは全然違う。今までは気にもとめなかった自分の生活環境がいかに恵まれているか実感出来る……7歳の子供にはもったいないくらい金のかけようだ。


「すごいなー……」


こんな生活をしていれば、私ならすっかりだらけてしまうけれど、原作のメアリは決してそうはならなかった。とにかく彼女は努力を怠らないのである。そしてこうと決めたら絶対に曲げない。だから彼女は一途にクー王子を射止めようと躍起になって、余計に嫌われた。その上、クー王子にふさわしい才女であろうと生きた女であるから女王や領主としては慕われたかもしれないが、目的のためになんでもやる様子は苛烈すぎて恋する乙女としては全く支持を得られなかったのである。ファンからは自分を曲げない我儘一途ガールとして人気を勝ち得ていたのだが。


思うに、メアリはちょっと手を抜くくらいでちょうど良かったのだ。それでも王子を射止められたかは分からないが……嫌われて追い落とされるなんて惨めな最期を迎えることはなかっただろうに。とにかくどうしてこんな破滅確定乙女になってしまっているのかしら、私。原作通りにクーとマリアの仲を邪魔しなきゃいけないのかな。クー王子に対してそれほど情熱を抱けないのだけれど。


(私、クー王子単体じゃなくて、クーシトユリトリオ推しだし……)


そもそも私はユリア推しだし、もっと言うならクーとマリアよりクーの幼なじみのシトリとユリアの絡みの方が好きなのよね、私……。おっとりと愛らしくてまさにヒロインって性格のユリアと普段はぼんやりした騎士のシトリのふわふわしたかわいいやり取りが一番好き。クー王子もシトリたちと一緒にいる時だけは口調が幼げに緩むのも良い。クーとメアリのカップリングも、まあ見るだけなら……というか……あの二人の会話はものすごくどぎつくて、あんまりキュンとは来ないのよ……あ、もしかして私、推したちのやり取りをナマで見られるかもしれないのかしら。それはちょっといいかもしれない。破滅は嫌だけど。


半ば現実逃避気味に推しカプや推しトリオに思いを馳せていると、いきなりドアがババーン!と開いた。ドアの向こうにはなかなかハンサムなおじ様。メアリ・スーの父親のベンジャミン・スーだ。その後ろには私より少し大きいくらいの背丈の少年が隠れていて、彼はメアリの兄のジェイムズ・スー。母親の姿は見えないけれど、彼女は交友関係が広くてあちこちで毎日忙しくしているからそのせいだろう。


「メアリ、目が覚めたのか!」

「ええ。ご覧の通り……」

「よかった、メアリ、2日も眠ってたんだよ。」

「ふ、2日ぁ!?」


ちょっと強めに頭を打ち付けたくらいでそんなに……いや、取り戻した記憶を整理していたからかもしれない。すっかりことの重大さに恐れおののいていると、ジェイムズが良かったねえと間延びした声で言った。はて、良かったねえ、とは。


「あ、あの、お兄ちゃん、ちがった、お兄様。わたし、じゃない、わたくし、そんなに危機的な状況でした?」

「んー?あれ、覚えてない?明日のこと。ギリギリで間に合いそうで良かったねえってことだよ。お前、楽しみにしてたでしょ。」


明日、ギリギリ?はて……メアリ・スーが楽しみにしていることとは。ううむ、嫌な予感がするな。


「そうだよメアリ。明日は王城で茶会があるじゃないか。クー王子のお披露目を兼ねてね。なんだ、頭をぶつけてすっかり日付感覚が飛んでしまっているのかい?」


ニコニコとそういったベンジャミン氏、すなわち父親の言葉に、私は頭が真っ白になった。クー王子のお披露目イベント……冷静に考えるなら、メアリがクー王子と直接対面する初めての茶会だ。ここからメアリはクー王子に対する恋心と執着心をより強めていくのだ。ということは、なんとまさか───破滅カウントダウンイベントが明日に迫っている!?


ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし面白いと思っていただければ評価ボタンを押していただければ幸いです。

不定期更新となりますが末永くお付き合いいただければと思っております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ