その日
それからの私は、自分でもびっくりするぐらい毎日が満ち足りてイキイキと過ごしていた。
体の内側からキラキラとしたエネルギーのようなものが湧き出てきて、一日一日、一分一秒とも無駄にしない勢いで自分磨きをしていた。
ダイエットやメイク、ネイルなんかの美容関係もそうだけど、誰かと話をする時も自然と相手の顔をしっかり見てちゃんとリアクションしたり、無意識のうちに他人の話に興味を持って聞くようになった。
パート先の同僚もその変化に気付いたようで、色々な人にこう言われることも増えた。
「最近マナちゃん、変わった?なんか綺麗になった感じするー」
「なんか最近、イキイキしてない?っていうか前より喋りやすい気がする」
ダイエットや美容以外では本当に無意識にしていた事だから、そんな自分の変化に驚いた。
『恋って凄いな。ひとの性格まで変えちゃうなんて……』
そう感心すると同時に、何か俯瞰の目線で浮かれている自分を見ていて、恥じているような私も常にいるのだ。
でもそれに抗えない。
今だけはこの心地良い感情に溺れていたい。
そう、寄せては返す波のように、私の感情は揺れていた。
もし彼と同じような歳だったら、こんなに罪悪感を感じなくて良かったのかな。
どうしてよりによって今、出会っちゃったんだろう……
考えても仕方ないことが時折頭をかすめながら、それを無理矢理振り払ってまた幸せな期待と妄想に耽る、そんな一ヶ月だった。
そしていよいよ『その日』がやってきた。
私は駅前の噴水のある広場にあるベンチに座って、完全に緊張している。
彼に合わせて若作りしないように、でも年寄り臭くないようなファッション――
ーーシルバー色の、控えめにラメが入った繊維の半袖ニットに大きめのシルバーネックレス、そしてボトムスには黒く、それでいて軽やかな、流れるような形の素材のロングスカート。
それだけだと地味な印象な気がしたので、赤いバッグを差し色にしてみた。
髪型は……どうしたらいいのか分からなくて、結局ロングの髪をゆるく巻いただけに。
でも、どうしよう……
緊張を通り越して怖くなってきてしまった。
「もう帰ろうかな……」
そう呟くが早いか、
「あれ、もしかしてマナさん?」
左斜め前方から、聴き慣れたあの声が近づいてきた。
ーードキン!!
恐る恐るその声のする方を見てみると、やはり彼だった。