自撮り
それからしばらくは、彼とLINEでチャットみたいな事はしていなかった。
特に用事もないし、向こうからも連絡はしてこなかったから。
「連絡先交換しただけ、ってやつだったのかな……」
ちょっとだけガッカリしたのを通り越して、もはやLINE友達になった事さえ忘れかけていた。
ある時、いつもの通りインスタグラムに趣味の風景写真を投稿した私は、いいねの通知に埋もれている一つのコメントが来ているのにふと気付いた。
「コメントなんて珍しいな。誰だろ?」
見ると、なんとあの彼ではないか。
その名前を目にした瞬間、胸が、いや胸から頭からもう全身がドキリとして、そんな自分に驚く。
『わー、すっごい綺麗な海だね!マナちゃんの家の近くにこんな場所あるの?俺も早くバカンスしたいよー(泣)』
バカンス……
『いいでしょー!天気良くてすっごく綺麗に撮れたよ。うちの近くの穴場のビーチ。レンくん、最近忙しいんだ?』
("レンくん"とは彼のこと。)
そうコメントの返信欄に入力すると、光の速さでまた返信が来る。
『学校の課題がめっちゃいっぱいあってさー、しかもテストもあるしもう死ぬー!』
あらあら……なんて思っているうちに、またしても光の速さで今度はLINEが届いた。
それから「忙しい」なんて言いながらも現実逃避なのか……そして私も今日は仕事が休みで時間があるので、オンラインチャット状態で2、3時間、話をしていた。
他愛もない話だった。
『ねぇ、マナちゃんの写真送ってよ。そういえば見たことなかったよね』
というメッセージが脈絡もなく届いたと思ったら、次の瞬間にはもう
『今、俺、焼きそば食べてる♡』
という、焼きそばを食べてる自撮りが送られてきた。
は、はや……。今時の子はレスポンス早いわ。ちょっと付いていけない感が……。
と思うと同時に、その焼きそばを食べる彼が凄く可愛くて、またドキドキしてしまった。
(何か本当にアイドルを独り占めしてる感じ……とりあえずこの画像は宝物にしよう)
ハッ!今、私の画像送ってって言ったよね!?
どうしようかなぁ、まあ二人きりだしいいか……とりあえずこの一番盛れてる自撮りを送っておくか。
送信。
はい、思ったよりオバさんでしょ(修正はしてるけど)。ガッカリしたでしょ…、
『えっ、めっちゃ美人!!びっくりしたー、こんな綺麗だと思わなかった!もう死にそうになってたけど、お陰で凄い癒されたよ。今度、通話でもしようね!』
思い掛けない返事が返ってきた。