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悠久の想いは時を超える  作者: 立花柚月
過去編
9/40

7 出発

背景色などを変えてみました。

次の日。アリスは、魔法機関に戻るための支度をしていた。列車の発車時刻は夕方なのだが、アリスは余裕を持って準備しておこうと思ったのだ。なるべく丁寧に持ち物をかばんに詰める。そこまでたくさん荷物を持って来たわけではなかったので、中に少し隙間ができていた。アリスは、かばんの口を閉じた。

「こんな感じでいいかな。これでたぶん、忘れ物はないはず…」

アリスは荷物を持ち、自分の部屋をぐるりと見渡した。またしばらく、この部屋を使うことも、見ることもないのだ。そう思うと、アリスは少し悲しかった。

(もうちょっと長い休みをとれば良かったなー…。今度は一週間くらい、お休みしようかな。…あ、でも、そうすると逆に、魔法機関に戻りたくなくなっちゃうかも?…とすると、五日くらいがいいかな…)

そんなことを考えつつ、アリスは、ぱたん、とその部屋の扉を閉め、廊下に出た。廊下は、天気が曇りのせいか、朝なのに少し暗い。列車に乗るまでにすることを考えつつ、ゆっくりと歩く。

「とりあえず、午前中にパン屋さんに行こうかな。それをカロンとルナへのお土産にして…。ついでに、自分の列車でのご飯にしようかな。それから一旦戻ってきて、お昼ごはんを食べてから、駅に行けば余裕で間に合いそうだよね!」

アリスは、今日は仕事が休みで、家にいる両親にそれを伝え、外に出た。隣町までの少し長い道をのんびり歩く。人通りはまだ少ない。なので、アリスは街の人たちのことをほとんど気にせずに歩くことができた。穏やかな風が吹いていて、心地よい。しかし、街の様子を観察すると、気になることを見つけた。

(…昨日も思ったけど、やっぱり、活気がないな。前はこの時間でもたくさん人がいたのに。それに、どこか様子がおかしい…?自分でも何に引っかかっているのかはっきりと言えないけど…、何なんだろう?外見は、全くおかしくないのに…)

アリスは、この街の状況を詳しく調べてみたい、と思った。しかし、時間が経てば、今は静かなこの道にも人がたくさんやって来てしまうだろう。それに、午後には列車に乗らなければならない。そう考えたアリスは、先を急いだ。

(もし、今度帰ってきた時もおかしかったら、その時はリヒトも巻き込んで、一緒に調べようかな…)


「おはようございまーす。今日の午後、魔法機関に戻るので、挨拶に来たのとパンを買いに来ました!」

アリスはその店に入った瞬間、そう言った。午前中のまだ早めのこの時間は他の客がそこまでいないので、ゆっくり話ができる。それを知っていたアリスは、あえてこの時間を選んだのだ。

「もう?早いねー…。まだ三日くらいしか経ってないのに…。とりあえず、気をつけて戻りなさいよ。それに聞いた話じゃ、アリスちゃん、色々な場所を巡ってるんだろう?大丈夫かね?事故とか、怪我とか、本当に気をつけてよ。そして、また、元気な顔を見せとくれ」

「ありがとうございます、気をつけます。あの、私、機関の先輩にパンを買って行きたくて…。どれがいいでしょうか…。美味しいパンが多すぎて、とても迷いますね…」

「そりゃあ、アリスちゃんが好きなものを持って行けば、その子たちも喜ぶんじゃないのかい?午後に行くってことは、どうせまだ時間はたっぷりあるんだろう?ゆっくり、でも、ちゃんと選んでいってちょうだいな」

アリスはじーっとパンを眺めた。どのパンもまだ作り終えたばかりなのか、湯気がほわほわとあがっている。アリスは三十分ほどどれを買うか迷い、ようやく決めることができた。

「それじゃあ、お元気で。また、戻ってきた時に買いに来るので、待っててくださいね!」

パンが入った袋を受け取ったアリスは手を振って、老婆に別れを告げた。老婆も、アリスに温かいまなざしを向け、手を振り返してくれた。

アリスが外に出ると、何故かそこにはリヒトがいた。

「何でここに???私、リヒトに行先言ってない気がするんだけど。そもそも今日は一度も会ってなかったよね?本当に何で?もしかして、魔法でも使った?」

「使ってないけど。でも、一昨日、一緒にここに来た時、帰りに買って行こうかな、とか何とかアリスが言ってたから、そうなのかな、って。当たって良かった」

「もし私がここにいなかったらどうしてたの?ここじゃなくて、私の家に行ってた方が確実に私に会える気がするんだけど…。というか、どうしたの?わざわざ隣町まで来たってことは、何か用でもあった?」

と、リヒトは空中に手をかざした。すると、その場に一枚の紙が現れる。そして、それをアリスの方に向けた。アリスは、そっとそれを手に取る。

「これ、昨日渡せなかった、薬草茶の作り方。これがあれば、たぶん作れると思う。何回か練習した方がいいと思うけど…。それと、分量を量るとき、本当に気をつけてね」

「あー!ありがとう。確かにこれがないと作れないよね。助かった。…というか、紙一枚くらい、自分で持って来たら?魔法の方が便利なことは便利だけど。リヒト、魔法に頼りすぎ…。それに、一応ここ、道の真ん中なんだけど…?」

アリスは少し呆れてそう言ったが、リヒトは聞き流していた。でも、リヒトがアリスの言葉を聞き流すのはいつものことなので、アリスはそこまで気にしていない。と、リヒトがさりげなくアリスが持っていた、パンの入った袋を持って言った。

「ということで、戻ろうか。あまり遅すぎても、ご両親が心配されるよ。それに、アリスだって列車に乗れなくて困るんじゃない?」

「…話題をずらされた気がするけど、確かにリヒトの言う通りだね。でも、荷物、持たなくても大丈夫だよ?特に重いわけじゃないし、それくらいは持てるもん」

「知ってる。でも、たまにしか会えないんだし。しかも、その度に色々口うるさく言われるから、少しは見返してやろうかな、みたいな」

「見返すための方法がすごく優しい…。リヒトって、人を恨もうとしても恨めなさそうな性格だよね!」

アリスがそう言うと、何故かリヒトは怪訝そうな表情をした。

「何か、例え方がすごく微妙…。それに、そんな性格ってあるのかな…。あと、それって褒めてるの?」

「た、確かに微妙な表現だったかもしれないけど、ちゃんと褒めてるから!そんな疑わし気な目を向けないで!」

アリスとリヒトは、街に戻るため、並んで道を歩いた。


その日の午後、隣町の駅にて。

「じゃあ、三人とも元気でね。これから寒くなるから、風邪とか特に気をつけて」

アリスは、見送りに来た、両親とリヒトにそう言った。そろそろ列車が来る時間だ。

「アリスも気をつけてね。ちゃんと三食食事をとるのよ!それと、体調には本当に気をつけて」

アリスの母が少し寂しそうに、そして、心配そうにそう言った。アリスはうなずく。すると、今度はアリスの父が尋ねた。

「今度はいつ帰ってくるのかい?」

「うーん…。分からないけど…、特に何もなかったら年末には帰れるんじゃないかな?でも、もしも忙しくなっちゃったら、年明けになると思う…。なるべく年末に帰れるように頑張るね」

「頑張りすぎて無茶しないようにするんだぞ」

「はーい。あ、リヒト、また手紙を送るね。そしたら、ちゃんと返信してね?あ、それと、徹夜しちゃダメだからね。あと、しっかり栄養も摂らないとだよ!あー、心配だなー…。大丈夫かな…」

本気でアリスがリヒトのことを心配していると、当の本人はこう言った。

「でも、それを言ったら、アリスの方も心配なんだけど。冬に外で調査するとか、絶対寒いんじゃない?アリス、すごく寒がりなのに…。僕の心配より、自分の心配をした方がいい気が…」

「もう…、何だかんだ、リヒトだって口うるさいよね…。あのね、リヒト、私にとって、リヒトは本当に大切な存在なの。あの時、助けてもらってから、ずっと…。だから、すごく心配なの!」

そう言った後で、アリスは少し恥ずかしくなったが、リヒトはいつものようにふわりと笑った。

「分かってる。でも、ちゃんと自分のことも大事にしないとダメだからね?」

リヒトはアリスの頭を優しくなでた。ちょうどその時、列車が駅に到着した。

「それじゃあ、また。帰る日が決まったら、ちゃんと手紙を送るから待ってて!」

アリスは三人の顔をしっかりと見てから列車に乗った。扉が閉まり、列車がゆっくりと動き出す。景色も少しずつ、流れていく。

(やっぱり寂しいな…。本当はもうちょっといたかったんだけど。残念…。でも、きっとまた、会えるはずだよね)

アリスは窓の外を眺めていたが、しばらくしてから窓に背を向け、空いている席に座ることにした。再び窓の外を眺めながら、考える。

(次に戻ってくるときは、景色はどう変化してるかな…。雪景色かな?でも、下手すると、一面の花畑になってるかも…?)

アリスはぼーっと景色を見ていたが、段々飽きてきた。しかし、何もすることがなかったので、アリスは、リヒトにもらった「薬草茶の作り方」の紙を見ることにした。そこには、ものすごく丁寧に作り方が書かれている。

(意外と綺麗…。それに、ちゃんと絵が描いてある!…もしかして、私、料理ができないとでも思われてるのかな?すごく基本的なことまで書かれてるんだけど…?まあ、でも、細かい分にはいいかな)

アリスは少し笑って、その紙を丁寧に本の間に挟んだ。ふと空を見上げると、いつの間にか雲はなくなっていて、美しい青で染まっていた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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