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悠久の想いは時を超える  作者: 立花柚月
過去編
5/40

3 不穏な事件

アリスがその日、机で資料の補足を書いていると、カロンが話しかけてきた。

「あれ、今日だったっけ?アリスが久しぶりにお家に帰る日って?」

「そうだよ。すごく楽しみ!ただ、かなり遠いから、一日くらいは移動で潰れちゃうんだよね…」

魔法機関がある、コーデル国はカーシア国の東に位置する。しかし、アリスの故郷の町はカーシア国の西にあるため、とても遠いのだ。転移魔法を使えばすぐに着くのだが、基本的に国と国を魔法で超えることは禁じられている。なので、移動には列車を使わなければならない。

「そもそも、これから事件の調査をしてから帰るから、どっちにしろ遅くなるんだよね…」

「あー、そういえばそうだったね。面倒だなあ…。でも、そろそろ時間だよね?」

カロンはいかにも面倒そうに立ち上がった。ルナもそんなカロンを見て苦笑いしつつ立ち上がる。

「そうですね。それでは、行きましょうか。忘れ物はありませんよね?」

アリスとカロンはその質問にうなずき、三人は仕事部屋を出た。


「ところで、今回の事件って、どんな内容でしたっけ?」

そう尋ねたルナにカロンが答える。

「場所はこの近くの、魔法資料館。禁術とか、世界中の魔法とか、魔法具とか、とにかくそういうのが色々所蔵されてるところ。そこで、盗難事件が起こったんだって。具体的に何が盗まれたのかは聞いてないけど、あたしたちが呼ばれたってことは、相当大事なものがなくなったんじゃない?」

「でも、禁術の書いてある紙が盗まれてたら大変だよね?もし、それを悪用されたら……」

アリスがその後の言葉を濁すと、ルナがあっさりと続きを言ってしまった。

「この世界が滅びるんじゃないんですかー?」

「何でそんなにのんきに言ってるのよ?!声の感じと言ってる内容が全然噛み合ってないんだけど…」

カロンがそうつっこんだが、ルナには自覚がないらしくきょとんとしていた。


魔法資料館の入り口の前では、職員と思われる男が立っていて、アリスたちを待っていた。三人の姿に気付くと、丁寧にお辞儀する。だが、彼がどこか怯えたような、不安そうな、複雑な表情をしていることにアリスは気付いた。

「わざわざお越しくださり、誠にありがとうございます」

男はそう言ってアリスたちを中へと案内した。

中はどこかひんやりとしていた。そして、人の数が驚くほど少ない。でも、何となく人の気配は感じられる。恐らく、隠れて様子を伺っているのだろう…。

(魔法機関って、そんなに危険なところだと思われてるのかな?それとも、来たのが女だから、驚いてる、とか?なんか…、変な場所だな、ここ…)

「で、盗まれたというものは一体何ですか?それと、どういう状況で奪われたのでしょう?」

恐らくカロンも、魔法資料館の、どこか異様な雰囲気に気付いているのだろう。それでも表にそれを出さずに対応できるカロンはすごい、とアリスは思った。

「盗まれたのは、滅びの禁術についての資料です。状況については、その時、そのあたりにいた者が現場におりますので、その者にお聞きください」

どこかぶっきらぼうに、男はそう言った。しばらく歩くと、大きな扉の前に着いた。男はゆっくりと扉を開ける。その先には、たくさんの紙の資料…。

(一つくらい無くなっても分からなさそうだけど…、何で盗まれたって分かったんだろう?)

すると、そこにいた一人の女性が振り返った。恐らく、証言者だ。女性は丁寧にお辞儀をした。顔は無表情だったが、少なくとも男よりは好印象だ。

「はじめまして、わたくしはセイと申します。本日は、わざわざご足労頂き、誠にありがとうございます。早速、お話ししてもよろしいでしょうか?」

「ええ、そうですね、お願いします」

カロンがそう言うと、セイと名乗った女性は小さくうなずき、話し始めた。

「わたくしがその不思議な現象に遭遇したのは、一昨日のことでした。。上司に調べてほしい物がある、と頼まれたわたくしはこの部屋に入り、その書物を探しておりました。しかし、なかなか見つからず…。でも、何となくこれかな、と思った紙を引っ張りだしたその瞬間、風が吹いて、わたくしが取ったその紙を窓の方へ運んで行ったのです。わたくしは驚いて紙を目で追いました。すると、その紙は、窓のところにいつの間にかいた人の元へと行きました。そして、その人は何も言わず、その場から消えていってしまったのです。盗まれた、と思ったわたくしは、すぐに上司に報告しました」

「あ、あの、盗まれたのは、滅びの禁術だったんですよね?どうしてそれだと分かったのでしょうか?」

アリスがそう聞くと、セイはあっさりと答えた。

「前に、見たことがあったのです。それに、この辺りにある資料は、禁術関連の物が多いので…。案外、すぐに分かってしまうんですよ」

アリスはなるほど、とうなずいた。…が、何かが引っかかる。何かがおかしい。考え込むアリスの横で、カロンも冷静な表情で何かを考えていた。そして、しばらくすると、一つうなずいた。

「なるほど、ありがとうございました。あたしたちはこれで失礼します」

すると、今まで一切表情を変えなかったセイが目を丸くした。アリスとルナも驚く。まだそこまでセイから話を聞いていないのに、なぜもう帰るのだろうか?すると、カロンは小さく何かをつぶやいた。その瞬間、明るい光がその場を照らし、三人の姿が掻き消えた…。


「カロン!?何で、帰ってきちゃったの?まだ何も聞いてなかったのに…」

アリスがそう尋ねると、ルナもこくこくうなずく。さっき、カロンが使ったのは転移魔法で、三人は魔法機関の仕事部屋に戻ってきていたのだ。

「何で、って…、誰が滅びの紙を盗んだのか分かったから、かな?案外単純だったけど、何かなー。今あたし、すごく複雑な気分。もやもやするなぁ…」

「早すぎません?!でも、どういうことです?そもそも、今、禁術の紙はどこにあるんですかー?」

ルナがそう聞くと、カロンはどこかうかない顔で話し始めた。

「とりあえず、あたしが気付いたことを話すね。…あたしが最初におかしいと思ったのは、一番最初。依頼書が来た時からおかしいと思ってたのよ…」

「そんなに前から?!でも、何で?変なところ、あったっけ?」

「あー…。アリスは来たばかりだから分かんないか…。あの依頼書にはね、紙が盗まれた、としか書いてなかったのよ…。普通、あたしたちみたいな魔法機関の魔法使いを呼ぶ時って、かなり細かくそういうのを書かなきゃダメなのよ。依頼内容とか、状況とか…。でも、あそこに書いてあったのは、内容だけ。しかも、ほとんど詳しく書かれてなかった。それでも、魔法機関に依頼が通ったのよ。おかしいと思わない?」

そう言うと、カロンは魔法で自分の机に置いてあった依頼書をふわりと持ち上げ、アリスとルナに見せた。依頼書の内容は、確かにかなり簡潔だ。アリスもルナもそれを見て、カロンが違和感を感じたことに納得した。前に、他の依頼書を見せてもらったことがあったのだが、その時は紙が文字でぎっしりと埋まっていたのだ。こんなに白い依頼書を見たことはなかった。カロンは話を続ける。

「恐らく、これは、どこかの国が関わっていると思う。どこの国かは知らないけどね…。そして、魔法資料館自体がこの事件に大きく関係しているわ」

「それって、つまり、…資料館の方たちが禁術の紙を盗み出すことに協力したってこと、ですか?!」

ルナが信じられない、というような表情でそう言うと、カロンは難しい顔でうなずいた。

「恐らく、そうね。でも、そろそろ資料館にあたしたちみたいな機関の人たちが入って、点検を行う時期でしょ?だから、その時に深くあたしたちにこのことを調べられないように、今のうちにとりあえず言っておこうと思ったんでしょうね…。ま、それを指示したのは黒幕でしょうけど。だから、魔法資料館の人たちはこっそり様子を伺っていたのよ、きっと」

「でも、何で滅びの禁術を?もしそれを使ったら、自分たちも滅びてしまうかもしれないのに…。そしたら、意味がないよね…。それなのに、どうして…」

「さあね?何でかしら?それはあたしには分からない。でも、一つだけ確実に言えることがある。…この世界が、滅びるかもしれない。それに、もし魔法の印章を書き替えられたら、印章に込められた力が強くなったり、変化したりするかもしれない…」

その場に沈黙が落ちた。しばらくして、カロンが言った。

「ごめん、時間取っちゃったね。アリス、そろそろ列車の時間でしょ?報告書を作るのはやっておくから、行って。遅れたら次の直通列車は一週間後でしょう?」

「そうだけど…。でも、どうするの、この事件。色々危なさそうだよ…?」

「たぶん、大丈夫。恐らく、これは、魔法機関の上層部も分かってる話だと思うから。そっちとも相談しながら書類にまとめるから。あと、対策もね」

「でも…」

アリスがためらっていると、カロンはにこっと笑った。

「いいからいいから。こう言うのは先輩たちに任せておいてよ、ね?」

その瞬間、眩しい光がアリスを包み込んだ。そして、アリスは気付くと、列車の駅にいた。

「カロン、転移魔法で私をここに飛ばしたのかな…。というか、絶対そうだよね」

時計を見ると、時刻は列車の出発まで30分になっていた。今から機関に行くと、列車には絶対間に合わない。どうやら、かなりぎりぎりの時間だったようだ。

「ある意味、カロンに魔法で飛ばしてもらって良かったのかも…」

アリスが乗る予定の列車は既に駅に着いていた。アリスは、持っていた鞄を持ちなおし、駅の改札へと向かった。

「切符を拝見します」

駅員にそう言われたアリスは、鞄のポケットに入れていた切符を取り出し、駅員に見せた。

「ありがとうございます。右側へお進みください」

アリスはうなずいて言われた通り、右側に向かった。そこには階段があり、そこを進めば列車があるホームへとたどり着けるようになっていた。アリスは一瞬、立ち止まる。

(目的の駅にたどり着くまで、20時間か…。辛いなー…。でも、我慢すれば家族にもリヒトにも会えるし)

アリスは列車へと歩きだした。

読んで下さり、ありがとうございました。

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