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定期的に投稿できないけど、書ける時にはまとめ書きして投稿します!
「おい、本当に大丈夫なのか?」
鼻くそ王子の声で我に返る。
やだわ~。 3次元、やだわ~。
髭剃り跡と鼻息にそよぐ鼻くそを思い出し、ブルっと身震いする。
「ええ、大丈夫ですわ。 私は大事を取ってこのまま帰らせて頂きますので、殿下は先に会場にお戻りください。 あ、その前に……」
そっとハンカチを取り出し、鼻くそ王子に渡す。
ちょんちょん、と自分の鼻を触ると、鼻くそ王子はその意味を察したらしく、私の絹のハンカチで遠慮なく鼻をかんで、そのハンカチを返してきた。
いらねえよ!
「では送っていこう」
「いえ、結構です!」
王子の申し入れを速攻で拒否する。
何故ならこのパーティーは、梅ちゃんとジークフリート王子の大事な出会いの場なのだ。
装飾に見とれ、上を向いて歩いていた梅ちゃんが、王子とぶつかってしまう。
その際に王子の持っていたワインが私のドレスにかかり、激怒した私が梅ちゃんを責め、王子がそれを庇い、あまつさえ私に頭を下げ、私が恐縮して怒りを収める。 梅ちゃんは王子にお礼を言って名前を聞くが、王子は名乗らずに立ち去る、という流れだ。
大事な大事なシーンなのだ。
そして明日になったら梅ちゃんが正式に学園に転入して来て、二人は次第に親しくなり、恋に落ちるのだ。
これがジークフリート王子のルートだったら、の話だけれど。
「いや、公爵に大事な話もあるから丁度いい。 送っていく」
「お父様にですか?」
そんな話は聞いていない。 父は今日は出かけているはずだ。 王子との約束を父が忘れているのだろうか?
王族に失礼があってはいけない。 すぐに父を呼び戻さなければ。
エイミーに目配せをすると、優秀な侍女はすぐにそれを察して席を外す。
私は少しでも時間を稼がなければならない。
「ジークフリート殿下が、父とそのように懇意にして頂いているとは存じませんでしたわ」
「いや、特に親しくは無いな。 だが、花嫁の父には挨拶に行くべきだろう」
私の父が……いや、聞き間違いだろう。
念のために確認する。
「ジークフリート殿下、私の父が、……何ですか? 鼻くその父?」
「鼻くその父では無い。 花嫁の父、だ」
本当に聞き間違いだった。
「誰の、花嫁ですか?」
「もちろん俺のだ」
我がスペンフォード公爵家には3人の兄がいる。
一人娘の私を、父は蝶よ花よと可愛がってくれて……。
私は一人娘で……。
私は、一人娘だから・・・・・・。
「ひ、ひどい! 不潔! 不潔だわ! お父様!! あんなに平和な、あんなに幸せな家庭だったのに、全部偽りだったのね! よそに女を作って、娘までいるなんて! 私、お父様が好きだったから、今まで加齢臭も我慢してきたし、髪が薄くなってきたのも黙っていてあげたのに。 許せないわ、あのエロガッパ!」
泣き叫ぶ私を、王子が宥める。
「落ち着け。 エロガッパが何かは知らないが、公爵は無実だ。 俺の花嫁はお前だ」
冤罪だった。
しかし、聞き捨てならない。
そんな設定はゲーム内にも無かったし、この世界で私に縁談が持ち上がっているという話も耳にしたことは無い。
「誰が、いつ、どこで、何時何分何秒に、地球が何回回った時にそんな事決めたのよ!」
昂った感情のままで王子に不敬な口を聞いてしまう。
「俺が今ここで決めた。そして地球は回ってなどいない」
天動説の世界だったか。
いや、それはどうでもいい。
ゲームをプレイしている時には確かに、ジークフリート王子にドキドキきゅんきゅんもしていた。
が、この世界に転生して来てからは、王子と接点など無かったはずだ。
せいぜいが社交辞令の挨拶を交わすくらいの間柄だ。
王族にプロポーズされて断るような女性は滅多にいないが、プロポーズをされた覚えも無ければ、それを受けた覚えも無い。
「なぜ、私なのですか?」
確かに、ゲーム内で悪役令嬢である私は、今は地味にしているがなかなかイケてると思う。
母譲りの美貌で、毎日のお手入れで肌もプルプル髪もサラサラだ。
こんな財力も権力もある美少年に密かに想われていたのならば、それはそれでまんざらでもない。
アリ寄りのアリかな、とも思う。
少し頬が緩んでしまう。
「うむ、叔父上が言っていたのだが、妻は地味で大人しく、出しゃばらず控えめな者が良いそうだ。 好きな女ができれば愛妾にすれば良いし、そんな妻であれば愛妾の10人や20人囲ったところで文句も言うまい、と。 その点、お前は合格だ。 思っていたよりも大人しくは無いかもしれないが、先程ハンカチを出した気遣いなどは非常に良い」
「お断りします」
とんだエロガッパだった。
いや、悪いのは王弟殿下か。 チョイ悪オヤジっぽくてモテるもんなぁ。 奥様の尻に敷かれてるけど。
「お前、俺が結婚してやると言っているのに断る気か! こんな恥をかかされたのは初めてだ。 いいか、逆らえばお前の家がどうなるか、わかっているのか?」
「陛下に言いつけてやる。 王妃様にも。 権力を笠に着て結婚を迫るなんて、みっともない」
「ず、ずるいぞ! 父上と母上に言いつけるなんて! 無しだ、今のは無しだ!」
まるで子供の喧嘩だ。 まあ、まだ14歳だし、子供よねぇ。
ちなみに、前世の記憶が戻った私の精神年齢は24歳。
現世で育った分はノーカンです。
たとえお家取り潰しの憂き目に遭ったとしても、生計を立てる術はいくらでもある。
隣国に逃げて、前世の知識をフル活用してフルパクりすれば、家族くらいは養っていけるのではないかと思う。
贅沢はできなくてもね。
王子は私をジト目で睨みながらウーウー唸っている。
あらお可愛らしい事。
「見てろよ、お前、絶対俺に惚れさせてやる! そうなってから結婚して欲しいって言っても無駄なんだからな!」
「はいはい、わかりました。 その時はせいぜい悔しがる事にしますから。 そろそろパーティー会場に戻りましょうか」
「お前、頭大丈夫か?」
失礼な事を言われた気がするが、多分、私の怪我の事を心配してくれているのだと善意に取ってあげます。
いたいけな少年をあまり虐めてもかわいそうなので、運命の相手に出会わせてあげる事にしましょう。
会場に戻るには、髪は乱れているし、先程泣いたせいで化粧も崩れている。
エイミーは出て行ってしまったし……。
「ちょっと殿下、侍女貸して、侍女」
「……俺の扱い、雑になってないか?」
王子のお付きの侍女は化粧道具を持っていなかったので、侍女ネットワークでどこかの令嬢の化粧道具を借り、化粧を直して髪を整えてもらった。
かなり派手な化粧になったが、元が悪役令嬢なので、我ながら似合っている。
廊下で待っていた王子が、私を見て目を丸くした。
「お前……案外見れる顔だったんだな」
もっと素直に褒めてもいいのよ。




