3.マヒルと出会いと研究室
「…喋れる。」
完全に目が覚めた俺はベッドの上に起き上がり呟いた。
時計もどきは15を指している。
「あと1時間…くらいか?」
どれくらいで針が進むのか、イマイチ分からない。
でも5分前行動って言葉もあるくらいだし、早めに向かっておくか…。
そう思って立ち上がると改めて自分のいる部屋を見回した。
俺の想像してた異世界転生と違う。めちゃくちゃ和風の部屋だった。床は畳で、壁には掛け軸がかけられていた。なのにも関わらずベッドにナイトテーブルだ。どうやら設計者は日本を知らないらしい。
そんな事を考えていると部屋の隅の鏡に目がいった。
もちろん自分の姿が映っている。…のだが。
水玉柄のパジャマを着た自分が立っている。
こんなガキンチョパジャマ持ってないぞ。
それになんだか身長が縮んでいる気がする。
「…高校生、くらいか?」
そんな事を思った途端、
「そのとーーり!ここに連れて来られる人は17歳の時の姿に統一されるんだ。よく気付いたね!」
聞いたことのある声が部屋に響いた。
……監視されてんのかよ。
「起きているなら私の部屋においで!一足先に説明をしてあげよう。きっとすぐには理解できないだろうし。待ってるよーん!」
二度寝する前に長官だと名乗ったお姉さんの言葉の通り、俺は部屋を出た。
―のと同時にさっきは気付かなかったことがもう一つ。
…ふすまなのに自動ドアかよ。
部屋を出ると近未来感が溢れる廊下が左右に広がっていた。
ますます和室の理由がわからない。
全面金属感丸出しの床と壁で、小さい頃に何度か想像したことのある宇宙船のような感じだ。廊下の両脇にはたくさんの扉がついていた。
これだけでも建物の広さが想像つくが、今は左の突き当たりの部屋に行ければそれでいい。
それに、俺が迷わない理由がもう一つある。
「…キュリー。」
俺は突き当たりの部屋の扉にデカデカと書かれた文字を思わず読み上げた。
最新の日本文学に精通している俺にはわかる。
おそらくマリ・キュリーと名乗ったあのお姉さんは本当にあのマリ・キュリーだ。キュリー夫人だ。
ここは異世界だ。歴史上の偉人が出てきてもなんら不思議はない。
天才に変人が多いというのは、どうやら本当らしい。
俺は一応、周りに誰もいない事を確認して扉の前に立った。近づいて初めて気付いたが、身長の2倍近くの高さがある扉から中の部屋の大きさが予想できる。
何を思ってこんなにデカく自分の名前を書いたんだよ…。
そして何となく予想は出来ていたが、だんだん聞き慣れ始めてきた声が、どこからか聞こえてくる。
『パンはパンでも、食べられないパンはなーんだ?』
…10分くらい経った。と思う。
一向に扉が開く気配がない。
答えないとダメなのか。今この状態もどうせ監視されていると思うと余計に恥ずかしくなってきた。
ラチがあかないから答えるしかない。
俺が意を決してあの五文字を言おうとしたその時だった。
「もしかして、あなたもあの人に呼ばれてここに来たの?」
その声に振り返ると、そこには綺麗なブロンドの髪を肩には届かないくらいの高さで切り揃えた女の子が俺の顔を覗き込んでいた。
可愛い。
この子も何処ぞの偉人なのだろうか。
10分前から見られていたなんて事はないだろうから、あの子が話しかけてくる直前にいきなり「フライパン!」とか言わなくて良かった。
本当に良かった。
「私もさっき起きたところなの。1人だったらどうしようかと思ってたから誰かいてくれて良かった!私は水島咲紀っていうの。よろしくね!」
凄い勢いで自己紹介をしてきたこの子に脳の処理が追いつかない。
「お、俺は川上真昼。よろしく…。」
反射的に上ずった声で返事をした俺は水島咲紀と名乗る女の子と目も合わせられない。
こんな自分が恥ずかしい…。
それとは裏腹に水島さんはどんどん話題を提供してくれた。
正直助かる。
「真昼くんって、名前からして日本生まれだよね?私も日本出身で道端で美味しそうなキノコを食べたらすぐに寝ちゃって、起きたらここにいたのよ!」
可哀想すぎる。
これはあれか?可哀想な死に方をした人が集められる施設かなんかなのか。
「俺は休日に階段降りてたら滑って…
たぶん死んじゃってここにいると思う。」
そう俺が伝えると、数秒考えた後に水島さんは吹き出した。
「ぷぷーっ!階段で滑って転ぶとか信じられない!超ウケる!人はそう簡単に死なないし、きっとすぐ帰れるわよ!」
俺がイラッとした気持ちを沈めながら、せめて異世界というものを知らずにまだ帰れると思っているコイツを哀れな目で見ようとしていた時。
「ところで、なんで扉の前でジッと立ってたの?さっさとフライパンって言って入ればいいじゃない。」
聞いてたのかよ。
「いや、こんな簡単ななぞなぞ答えなきゃダメかどうか悩んでたんだよ。水島さんこそいるならもうちょっと早く声かけてくれれば良かったのに。」
俺は思った事をかなりオブラートに包んで伝えた。
「いやー、もしかしてあの人フライパン知らないんじゃないかって気になってたらだんだん可哀想になって話しかけたのよ。ぷぷっ!」
なんなんだこの子は。
変な奴しかいないのかここは。
「っていうか水島さんとかじゃなくて、サキで良いわ。堅苦しいの好きじゃないし!」
サキはそう俺に伝えると突然大きな声を出した。
「キュリーさーん!答え!フライパンでしょー?早く中に入れてよー!」
すると目の前の扉が大きな音を立てて開き…
なんて事はなく1人分の大きさでくり抜かれてガチャっと音を立てて開いた。
いや、扉見せかけかよ。
っていうかこっち側ドアノブねぇじゃん。
そしてそこには見覚えのあるお姉さんが立っていた。
「正解〜!随分と時間がかかったね?もしかして真昼くんには難しかったかな?」
「もう、そういうことでいいです。」
「あはは、冗談冗談。さ、入って。ちょうど良く2人揃ったみたいだしね。」
そういってキュリーさんは俺と、俺をバカだと思ってさっきから笑っているサキを中へ招き入れた。
小さな扉とは対照的に中はいわゆるザ・研究室だった。広さも俺のいた部屋とは比較にならないし、よく分からないモニターや機械が沢山ある。
俺があちこちを見ていると、サキが部屋の隅の機械から紅茶のようなものを出して飲んでいた。
なんでそんなにすぐ順応出来るんだよ。
そんなサキは放っておいて俺はキュリーさんに質問する。
「あの、なんで―。」
「なんで、入り口に大きな扉の絵を描いているのか。かい?それは大きい方がカッコイイからさ。ものすごい研究室感があっただろう?…あ、それとも君の部屋の掛け軸の裏に食堂へ繋がる抜け道がある事に気付いちゃったかな?」
いや、そうじゃねぇよ。
っていうか何それ。
だから書いてある文字が『食堂』だったのかよ。
そんな抜け道いらねぇよ。
「えっと、俺なんでここにいるのかな、って。」
「あぁ、その話をするために呼んだんだっけ。よし。じゃあサキちゃんもこっちにおいで!」
「―今から、この施設の正体と、君たちが何故ここへ呼ばれたのかを説明しよう。」
こんにちは、YUmiです。
さて、早々に3話になりまして、アドミニの内部と新しい仲間が少しだけ見え隠れしました。
次の話ではこの施設の存在意義が少しだけ語られることになるかもしれません。
YUmi初めての小説まだまだ続きます。
少しだけお付き合い下さい。