2.マヒル異世界への道
―2019年2月のある日のこと。
人よりも少しばかりアニメやマンガが好きな俺は、
白い息を吐きながらも近所のアニメショップへ向かって歩いていた。
昨晩雪が降ったせいで余計に寒く感じるが、新刊の発売日だけは逃さない男だ。俺は。
俺の名前は川上真昼。
どこにでもいる普通の大学生。
歴史モノのマンガのおかげで普通より歴史に興味があるくらいで、あとは本当に普通だ。
「はぁ。寒っ…。」
そんな事を呟いて歩道橋の階段を降りていた時だ。
突然視界が上を向いたかと思うとすぐに辺りが暗くなった。
え、え、嘘。何これ。
そんなのあり?
常日頃から旅行中に事故るなら行きじゃなくて帰りがいいとあれほど言っていたのに。
これからコタツで新刊読む予定だったんですけど?
いってきますって言ったっけか。
そんな事も覚えてない。
みんなも覚えておいたほうがいい。ホント、突然起こる事ってある。
しかも特に何にも考えてない時に限って。
そんなくだらない事をしばらく考えていた。
どれくらい時間が経ったのかわからないが、なんだか懐かしい目を覚ます感覚と共に眩しい光を感じた。
「…ーぃ、おーい…おーい!」
「目、覚めたかい?」
若い。同い年か1つ上くらいの女の子が仰向けの俺を揺すっていた。
だんだんと光に目が慣れて、その子の顔が見えてきた。
可愛い。
いや待て。誰?
その前に、どこ?
っていうか、喋ろうとしても―。
「声が出ないと思うから先ず自己紹介だ。私の名前はマリ・キュリー。今日から私が君の長官。そんでもって君が今寝てるこの部屋とその他諸々を含めたこの場所が、『Institution of Administrator』通称IoAだ。可愛くないので私は"アドミニ"って呼んでいるがね!」
よく分からない事を延々と口走るお姉さんは、そう言って俺に微笑んだ。
ここで一般人ならパニックに陥ったりするのだろうが、日本での予習が万全な俺はすぐに気付いた。
これは俗に言う異世界転生だ。と。
とはいえ、慌てていようがいなかろうが声が出ない。
必死に声を出そうとしているのがわかったのか、お姉さんは俺に言った。
「慌てなくていいよ。明日には声も出るようになるし、まだ頭もボーッとするだろうから。今日はしっかり寝て、また明日ゆっくり話そう。」
確かに、まだ眠いような感覚がある。
「まぁ正確に言うと、明日っていう概念はここにはないから、君の枕の隣にあるそれが16を指したら私の部屋に集合だ。私の部屋はここを出て左に進んだ突き当たりだ。よろしく頼むよ!」
そう言ってお姉さんは部屋の自動扉から出て行った。
俺は横を向いてナイトテーブルを見ると、その上には時計…のような何かが置いてあった。
文字盤が24個に分割されている。
あぁ、だから16を指すとか言っていたのか。
ツッコミどころ満載の時計に妙に納得した所で、俺の意識は遠のいていた。
早速2話目です。
日本でのマヒルの紹介も程々に、異世界に突入しました。
次で人も少し増えます。…たぶん。
この回で明らかになりましたが、タイトルは
『人類管理施設現地調査員川上』
です。
至らない所ばかりですがよろしくお願いします!