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第5話 新人類たち

 猟犬から逃げてしばらく。追撃がないことを確信した頃合で、汚染地帯のど真ん中で機体を降り、不調を追加の応急処置でひとまずしのいだ。そこからはもう何の問題もない、野生のクマが出てきたり、野犬の群れが出てきたとしても機関銃を二、三発ぶちこめば死ぬか逃げていく。ひたすら歩き続けて数時間。霧の向こうにミュータントの集落らしきものが見えてきた。


 集落入り口の門は、コロニーのものとは全く違う。レンガか石か何かを積み上げて集落を囲うように壁を作り、一部を開口し入り口を制限するという形。野生動物の侵入を防ぐには十分なものだが、武装した人間相手は想像していないか。

 毎週の訓練で人間ぶっ殺す練習している旧人類より、新人類の方が平和的ということらしい。勘違いでぶっ放される心配はしなくてよさそうだ。

 まず自分の安全を考えていると、ミュータントのガキが急に走り出して、門の前でこちらを振り返り。腕を広げてこう言った。


「ようこそ! 私たちの村へ!」


 その後ろで住人の帰還を歓迎するように門が開かれたので、少女の横を通り過ぎて、集落の中へ。


「あ、待ってよ! 反応なし!?」

「うるさい。俺は早く帰りたいんだ」


 早く用事を済ませて、早く機体の修理をして、早く帰りたい。いくらアースの中でも、生存不能領域内で棒立ちというのは、安全と分かっていても気分が悪い。

 アンリも釣られて集落の中へ入る。すると、集落内の人……もといミュータントが集まり出して、少し騒がれる。群がられると鬱陶しい……

 

「退いて、退いて……」


 ほどなくして、人込みをかき分けて老婆が現れた。ついでにその左右を銃を持った男二人が固めている。銃口は下げられたままだが、安全装置は外れてるし引き金に指はかかっているし、歓迎にしては随分と物々しい。歩兵の銃ごときで抜ける装甲じゃないけども、おかげで気分の悪化が留まることを知らない。

 

「ああ……おかえりアンリ。お前だけでもよく無事に帰ってきてくれたねえ……!」

「おばあちゃん、ただいま……うん。何とか帰ってこれたよ」


 どうやら二人はかなり親しい間柄のよう。家族だろうか。路上で二人抱きしめ合って、涙ぐんでいる……のはいいんだが、護衛の男二人の顔が気に入らない。おかげで感動的な光景が台無しだ。小娘一人のために命を危険にさらして、こんな糞みたいな場所まで来てやったというのに、まるで罪人を見るような目で見られてはたまらない。

 

「再会の感動に浸っているところ悪いんだが、頼みがある。いいか」


 空気を読まず、二人の会話に割って入る。


「ええ、どうぞ……孫を生きて送り届けてくださったのです。何なりと申し付けください」

「アースの修理と充電を。膝のギアが壊れてる。応急処置だけ済ましてあるが、帰りは持たない」

「わかりました。部品があればよいのですが……」

「なければコロニーから取り寄せるから、無線機を貸してくれたらいい」

「ええ。ええ……ではまず、あちらで」


 老婆が指さしたのは、集落中央の一番大きな建物。ぼろっちいが、それでも他に比べればマシだろう。

 

「コロニーからの来客用に、旧人類の方でも生身で居られる部屋を用意してあります」

「そりゃありがたい」


 機体に乗ったまま修理をするわけにもいかない。その間外で生身で居ろと言われるのは、死ねと言われるのと同じことだ。だから、ちゃんと生身で過ごせる場所があるのは非常にありがたい。軽い感謝の言葉には、それ以上の重い感謝を含めているのだ。表に出すと舐められるから軽く言ってるだけで。

 銃を持った護衛は見ないことにし、先を行く老婆についていく。それから建物横のガレージに案内され、そこに入るとシャッターが閉まり、天井から滝のように水が降り注いだ。なるほど洗浄室、と納得し、待つこと数秒。水が止まり左右から強い風が吹きつけて水を飛ばす。

 風が止んだころにガレージ奥の扉が開いて、さっきの連中とは違うミュータントがやってきた。

 

「もう降りて大丈夫ですよ」


 そう言われても一応機材で確認しておく。外気チェック、汚染レベル2、皮膚の露出を避け、マスクをつければしばらくは生身でも大丈夫な程度だ。機体の正面装甲を開いて地面に降りると、水たまりを踏みしぶきが舞った。


「こちらへどうぞ」


 気分を害された詫びと、ガキを連れてきた礼として手土産の一つでも渡してもらえることを祈ろう。

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