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第51話 夢の終わり

 エーヴィヒが先頭を行き、俺とトーマスが後ろに続く隊列で、コロニーの街道を進む。目指す先は壁に覆われたご主人様の住処。

 道中で、空き時間を利用したブリーフィングが行われている。データリンクで送られてきた半透明な立体図が、ご主人様の家と、その付属施設らしいが。随分と広い。


「二人だけじゃ持て余すだろう」

「実際ほとんどの空間は使用されていませんね。それはさておいて、進行ルートを表示します。まあ、最短ルート、正面突破になりますね」


 ルートは一直線。最終目的地までの最短距離。


「障害は?」

「防衛設備がありますが、すべて対人用です。アースに乗っていれば問題ありません。脅威となるのは最低五機のアース。しかし、これまでの戦場を生き抜いてきたあなた達なら何の問題にもならないでしょう」


 エーヴィヒが機体から降りて、門前にある端末を操作すると、門が開く。その先には、コロニー内ではほぼ見ることのない自然が少しだけ残っている。前見た時と変わらない、優雅な暮らしぶりだ。だがそれも今日で終わる。


「行きましょう」


 そして中へ。きっとご主人様は、俺たちが死んだものと思って安心しているのだろう。自分の支配は盤石だと思っているのだろう。そんなおめでたい野郎に一発食らわせることができる。

 そう考えれば、これまでの鬱憤も晴れるというものだ。


『エーヴィヒ。一度に三機も戻ってくるとは珍しいね』

「通信機の不調が出たものが二機です。受信はできますが送信ができない、ということです。修理のため、先導して戻ってまいりました」

『ご苦労。では工場へ送り、任務に戻りたまえ」


 全く違和感のない応答に舌を巻く。これに加えて、一世紀かけて積み上げた信頼だ。嘘を言っていると誰が疑うだろう。


「では話の続きを。最低五機の中身はご主人様です。私よりも戦闘経験のない人ですから、蹴散らすのは容易でしょう」

「重要施設の防衛にしては手薄すぎるな……いや、そのための戦争か」

「その通りです。あとはコロニー内の治安維持のためという名目で払っています」


 それがなければ、大量のアースの群れに正面から突撃することになっていたのか。いや、そもそもエーヴィヒが自殺を考えなければ、全ての問題は起きなかったのだが……。


「さあ二人とも。敵討の時間ですよ」


 楽しげな声を出して、エーヴィヒのアースが武器を構えて走り出す。つられて俺たちも同じように。


『その先は工場じゃないぞ、なぜ武器を構えている』

「ごめんなさい。私は嘘をつきました」

『なんだと』

「よう糞野郎。地獄から舞い戻ったぜ」

『トーマス・ビルギンソン……馬鹿な、あの状況から生還しただと』

「俺もいるぞ。おかげで片腕吹っ飛んで死にかけたがな……今お前の大事な脳みそをぶっ壊しに行ってるところだ。待ってろよ」


 右腕の分の憤りをぶつけるために、手ごろなカメラに発砲する。


『エーヴィヒ! そいつらを殺せ!』

「お断りします。彼らは私が呼び込んだのですよ。私を完全に殺してもらうために」

『クソッ!』


 苦し気な悪態と共に、防衛設備が起動する。しかしそれは対人用。アースの装甲に当たったところで、カンカン耳障りな音を立てるだけで、何の障害にもならない。

 手持ちのライフルで一個ずつ壊していき、前へ、前へ。奥へ。


「アースを止めるには、弾のでかさが足りねえな」


 トーマスが煽るようにライフルを肩に担ぐ。あの屑は部下に裏切られ、防衛部隊はもぬけの殻。侵入者を食い止めるための設備は役に立たず、敵の侵攻をただ見ていることしかできない。

 あの屑の心境を考えるとワクワクする。

 ここでいかにも堅牢そうなシャッターが下りて行く手を阻むが、一分足らずでブレードで解体される。

次のフロアでは有毒ガスが注入されたが、NBC汚染下で運用される想定のアースには無力。完全に無視して前進し、ついに施設の最深部に到達した。


「嗜好がよくわかる部屋だな」


 壁にびっしり並んだ筒の中には、エーヴィヒのスペアが収納されている。しかも裸のまま。ご主人様はこれを見て興奮していたのだろうか。気持ち悪い。部屋の真ん中で、アースが横一列に並んでこちらを待ち受けているのも。最後の砦気取りで、気持ち悪い。

 問答無用で銃を向けるが、トーマスに遮られる。何を考えているのやら。


「ようこそ……武器を下したということは、対話の余地があるとみていいのかね?」

「命乞いくらいは聞いてやろうと思ってな」

「命乞いはしない。だが、聞きたいことがある。エーヴィヒ、なぜ裏切った」

「そんなこともわからないほど、あなたは愚かだったんですね」


 ストレートな罵倒だ。賢者気取りにはよく効くだろう。装甲の下の顔を見てみたいね。


「この一世紀、ずっと一緒に居たじゃないか! ずっと命令に従ってくれていたじゃないか! どうして今日になって裏切ったんだ!」

「何度も死ぬのは苦痛で、苦痛から解放されたいと願うのは当然では? 元々、不老不死の実験台も望んでなったわけじゃない。従っていたのも、暴力が怖いからで自分の意志じゃありませんし。

ちなみにあなたよりも、クロードさんのほうが優しいんですよ。私のことを犯さない。生きたまま食べたりもしない。不必要な暴力はしない。それだけで、あなたより余程尊すばらしい人です」

「そんな糞野郎と比べられても嬉しくねえよ」

「まあそういうことで。皆さんどうぞ」


 指示に従い、機関砲を乱射する。まだ話を続けるつもりでいたご主人様らの機体はあっけなくスクラップに。


「物足りないな。少しくらい抵抗してくれれば、まだ楽しめたものを」

「楽に終われるんだ。喜べよ」


 残骸を踏み越えて進もうとするが、エーヴィヒは動かない。


「おいどうした」

「やっておきたいことがあるんです」


 そう言うとブレードを振り回し、筒に入った自分のスペアを破壊し始める。血肉と臓物が床に散らばって、ゴミ掃除をした後のような光景ができあがる。

 見慣れた光景だが、人が壊れるところを見るのはあまり気持ちのいいものではない。


「何をしている」

「私が間違って目覚めることのないように、すべて壊しておきます。もう少し待ってもらえますか」


 彼女の言う通り、しばらくスプラッタショーを眺める。すべて壊し終えたら、血まみれの機体から降りてこちらに。


「お待たせしました。そこが、サーバールームです。破壊してください」


 閉じたシャッターの向こう側が、目的地。シャッターを壊してその先へ。等身大の機械がいくつも並んでいる、この部屋がエーヴィヒとご主人様の脳なのだ。


「これを壊せば、私もご主人様も二度と生き返れません。さあ、早く」


 言うが早いか、トーマスはすべての装備を乱射しはじめる。テルミットの火が部屋を焦がし、徹甲弾が鉄板を貫通して火花を散らす。灯っていた電灯がパチパチと爆ぜる。

 ネジ一つ残さず壊す、そんな決意を感じる。俺も負けじと、持ってきた弾をすべて部屋の中にばらまいた。すべて燃やし尽くしたら、機体から降りて地面に座り込む。

 ……コロニーの統治者は死んだ。これから先のことは、どうでもいい。死人が気にすることじゃない。


『警告。データサーバーの破損を検知。データ抹消のため、施設を爆破します。施設内部の人間は直ちに避難してください。警告。データサーバーの破損を検知。データ抹消のため、施設を爆破します。施設内部の人間は直ちに避難してください。警告……』


 赤色の警告灯が回転し、天井のスピーカーから警報が鳴り響く。

 俺にはどうでもいいことだが、トーマスはどうだ。まだ生きていたいのなら、急いで外へ出なければいけない。


「どうする?」

「……消化不良だ。ここで死ぬつもりだったが、気が変わった。俺は帰る」

「急げよ。いつ爆発するかもわからん」

「お前は?」

「この体じゃどうせ長くないし、狂人どもには手ごろな獲物に見えるだろう。食われて死ぬより楽に逝きたい」

「そうか。じゃあな」


 トーマスは機体を反転させて、ローラーダッシュであっという間に視界から消えていった。

 残るは俺とエーヴィヒだけ。爆発までの時間を、のんびり待つことにしよう。


「クロードさん。あなたには多大なご迷惑をおかけしました。しかし、あなたが居なければ、この計画は成しえませんでした」


 目を閉じてその時を待っていると、エーヴィヒが話しかけてきた。


「あなたには、感謝しています。ありがとうございました」

「……」


 返事もせずじっとしていると、マスクを剥がされる。何をするかと思って目を開けば、彼女の顔が視界いっぱいに。白い髪が顔にかかる。


「自分からするというのは、気恥ずかしいものですね」

「礼にしちゃ安いな」

「これ以上何かするには時間が足りません。ですから、ここまでです」


 そういって笑う彼女の顔は、見とれるほど美しかった。


これにて最終話となります。皆様お付き合いいただきありがとうございました。

リメイク前と比べいろいろ削り落として圧縮して、35万字、100話越えを半分以下の13万字、51話にまですることができました。(おかげでポイントやら感想やらも半分以下ですが)

削り落としたはいいものの、取りこぼしたものも多い気がします。実験作だから仕方ないとしても、作者として少し不満が残ります。ですが次の作品では、この経験を活かして、より面白い作品を書けると思います。ですからどうぞ、皆様次回作もよろしくお願いします。


二次創作はご自由にどうぞ

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