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メモリー  作者: syara
#01 消えない縁
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夢見た力

「・・・・さい。・・・おきなさい!」

「うぉ!?」

 強く揺さぶられ目を覚ます。目が冴えてきて、揺すっているのがフィーナだとわかった。

「あなた、いったいいつまで寝ているつもり?」

「え、もうそんな時間?普段から、早朝には起きる習慣をつけていたんだけど」

「もう4時よ」

「早くない!?」

 え、フィーナどんな生活してるの!?朝4時でも遅いの!?

「早寝早起きは基本でしょ。明日からは3時には起きなさい」

「そんなに早く起きて、いったい何するのさ・・・・・」

「魔導士の研究所を勝手に使うのよ。・・・・・昼間は面倒なのがいるからね」

「そ、そうなんだ」

 フィーナが露骨に嫌そうな顔をしている。いったいどんな人なんだその人。

「とにかく、朝は早く起きること!いいわね!」

「・・・・・了解」





グランド王城1階 魔法研究室


 そこは、いかにもって感じの部屋だった。怪しい液体やら物体が棚に保管さえ、床には魔法式の書かれた紙が散乱している。

「すごいな。これは・・・・・雷を起こす魔法を簡略化したものか」

「あら、わかるの?てっきり魔法に関しては学んでいないのかと思ったわ」

「逆だよ。何か使える魔法がないか片っ端から試すために、いろいろ覚える必要があったのさ」

「なるほどね。でも、好都合だわ」

 そういって、フィーナは棚の一つを漁り始めた。そこから妙な液体を二本、そして注射器を取り出した。嫌な予感しかしない。

「さて、誰か来る前に出るわよ。どうせばれるでしょうけど、今見つかるよりましだわ」

「あ、やっぱり勝手に取ってるんだ・・・・」

「魔導士の習性ともいえるのだけど、自分のものを他人に取られるのを嫌うのよ。杖がないと戦えないように、魔導士は自分の所有物を体の一部のように扱うのよ」

「なるほど」

 わかる気がする。フィーナが“自分の眼”に執着したのもそれ故なのだろう。

「とりあえず地下室はダメだから、そうね。私の部屋でいいか」






グランド王城4階 フィーナの部屋


 フィーナの部屋は、思ったより女性っぽい部屋だった。全体的に明るい配色で、家具も揃っている。

「そこ、座ってくれるかしら」

 テーブルの傍にある椅子に座るよう促される。断る理由もないので言われるままに座るのだが・・・・・

「ごめんね、ハミル♪」

 座った瞬間、床に魔法陣が出現した。やばい、はめられた。

「体が動かないんだけど・・・・・」

「逃げられると面倒だから魔法仕掛けちゃった♪信用してないわけじゃないんだけど、他人に注射打つの初めてだから動かれない方が安全だし」

 嫌な言葉が聞こえた。つまるところ、僕は実験台ってことか。

「それじゃあ、今から麻酔打つから動かないでね。あなたの寝ている間に全部終わらせるから、安心して眠っていなさい♡」

 こうして僕はその目を赤く輝かせるフィーナに捕まったわけなのだが・・・・・

「まあ、なるべく痛みの内容に頼む」

「善処するわ♡」

 だめだ、フィーナはもう例の“調べごと”をすることしか頭にない。

 一瞬左腕に激痛を感じた気がしたが、その時にはすでに意識は闇の底だった。






「ぅ・・・・・ここ、は?」

「あ、起きたわね。協力ありがとう。興味深いデータが大量に入手できたわ。ふふっ♪」

「・・・・・それはよかった」

「まさかここまで理想的な数値が出るなんて♪あなたを見つけられたのはまさに奇跡だわ」

 左腕には注射した部分に包帯が巻かれていた。たぶん治癒系の魔法を使ってくれたのだろう。痛みはほとんど残ってなかった。

 それにしても楽しそうに紙を眺めている。遠目には文字と数値が羅列されていることしかわからないが、フィーナはとてもご満悦である。

「それ、いったい何のデータなんだ?」

「これはあなたの体内の魔力量の測定値と、適応魔力数値の記録よ」

「魔力量に関しては0だと思うから聞かないけど、適応魔力数値って何?」

「適応魔力数値っていうのはね。簡単に言ってしまえば指紋のようなもの。すべての人間が、まったく違う値を持っている。保有魔力量に関係なくね」

 初めて聞いた。適応魔力数値か。

「魔力量に関係なくってことは、僕にもそれはあるんだな」

「そうよ。過去の実験でわかったことなんだけど、この数値が近い人間同士の魔力は移流が可能だということよ」

「移流?」

「戦場で出血した兵士に、別の人間の血液を流し込み死亡を防ぐことがあるんだけどね。これは特定の血液型の相手としか行えない。逆に言えば、特定の相手の血液でなら、不足した血液を補える」

 わかったような、わからないような。医学は学んだことがないからイメージが出来ないが。今の話からすると、同じことが魔力にも言えるってことか?

「でも、残念ながら魔力を他人に流し込む方法はまだわかってないのよね」

「え、じゃあその数値って何の役に立つんだ?」

「よく聞いてくれたわ!」

「うわぁ!?」

 急に近づいてきて顔を寄せてきた。そんなに話したかったのか・・・・。

「この値が近いほどね、強い共鳴現象を起こすのよ!」

「共鳴、現象・・・?」

「そうよ。互いの魔力は共鳴して、引き合う。そんな現象を利用して、ある道具を作ったの」

 そういって、フィーナは化粧台の鍵のかかった引き出しから何かを取り出した。

「これよ」

「これって・・・・・指輪?」

「そうよ。基本的な構造は私の魔眼と同じ。違うのは用途ね」

 フィーナの手にある二つの指輪。宝石部分には、フィーナの目と似た輝きを放つ赤い宝石。

「これ、片方してみて」

「えっと、これでいい?」

 適当に、右手の人差し指を指輪に差し込む。すると・・・・。

「・・・・・光が、強くなった!?」

「そう、その指輪は私の適応魔力数値に反応する。私が付けたら、その力を発動するようにね。そして、奇跡に近い確率なのだけど、私とハミルの適応魔力数値はほぼ同じなのよ。だから、その指輪はあなたに反応する」

「・・・・・でも、これがあっても僕自身に魔力がないと魔法は使えないんじゃないか?」

「いい質問ね。実は、同じように見えるこの二つの指輪にはそれぞれ役割があるの。私がつけるこっちの指輪は、魔眼と同じ魔法の発動媒介。でもね、実際に発動するのはこの指輪じゃなく、あなたがしているその指輪。これはね、魔力の共鳴現象によって引き合う力を利用して、魔法の発動媒介を転移させる道具。私は、この共鳴現象を“レゾナンス”って呼んでる」

 えっと、つまり・・・・・。フィーナが指輪を杖代わりにして魔法を発動すると、その魔法は僕がつけているこの指輪で発動するってことか。

「この技術、日の目を見る日はないと思っていたの。私の適応数値に近い人は、いつまで経っても見つからないのだもの。でも、あなたに出会えた。これって、すごいことだと思わない?」

「そう、なのかな」

 悪い気はしない。お互いを必要とする僕たちには相応しい力なのかもしれない。

「でも、これを使うには互いに同じ魔法式を構築する必要があるわ。だから、私の発動する魔法をあなたが理解できなければ、成立しないの」

「なるほど。学ぶことは多いって、そういうことか」

 フィーナは、最強の魔導士を自称するほどだ。きっと、僕が知らないような魔法をいくつも使えるのだろう。

「使いこなしてみせるさ。僕も、君と一緒に戦いたいからね」

「期待してるわ。それはそうと、あなたがどの程度戦えるのか、私もわかっていないのよね」

 確かに、こっちに来てから一度も剣を振っていなかったっけ。僕自身、どこまで今までの戦い方が通じるのか試したい気持ちはある。

「実践できる相手、誰かいるのか?」

「うーん、そうね。お父様は強すぎるし、魔導士と剣士じゃ実力を見るには条件が悪いし・・・・・。セドはどうかしら?あいつ、最近戦場出てないから鈍っているはずよ」

「そう、なの・・・?」

 昨日の、気配もなく突如現れたあの技術。とても鈍っているようには思えないんだけど・・・・・。

「でも、強い人と戦ってみたいってのはあるな。すぐに呼べるのか?」

「ええ、私が呼べばすぐ来るはずよ。まあ、おまけがついてくるかもしれないけど」

 ・・・・・おまけ?





グランド王城 中庭

「げっ!?」

 フィーナの言うおまけとは、国王様のことだったようだ。昨日のこともあり、可能な限り距離を取る。

「というわけで、ハミルの相手をしてちょうだい。遠慮はいらないわ」

「いいんですか?若者をいじめる趣味はないのですが」

 ・・・・・なめられてる。いや、当然か。聞いた話じゃ、昔から国王様と戦場で戦っていたという話だ。戦闘経験もたいしてない僕なんて、なめられて当然あろう。

「ハミル、あなたも全力でやりなさい。・・・・・“レゾナンス”を試したければ、私に合図して。あなたが指示した魔法を、すぐにこちらでも組むわ」

「余裕があれば、だな」

「じゃあ、行ってきなさい。応援してるわ・・・・・あれ、この魔力反応。まさか・・・・・」

 フィーナの表情が一瞬で青ざめる。ちょうど、僕たちがいる位置と反対の扉を凝視しながら。その扉は、すぐにとんでもない勢いで開かれた。

「見つけたわよ姫様!また他人の薬品勝手に持ち出したわね!」

「ああ、ごめんごめん。あとで補充するから邪魔しないでくれない?」

「嫌よ!いったい何回言ったらわかるの!?他人の研究材料を勝手に持ち出さないで!」

 ああ、納得。フィーナが言ってた面倒な魔導士ってこの人か。

「だいたい、どうして魔導士の研究に加わらないのよ!研究がしたいならうちに入ればいいじゃない!」

「紹介するわ、ハミル。このうるさい女が、昨日話した魔導士の部隊の隊長、アイ=マギアよ」

「無視しないでよ!」

「その辺にしてくれないかな、アイ。これから彼と実践なんだ。騒ぐなら向こうでやってくれ」

 セドさんが静止する。が、あまり意味がないようで。

「セド、あんた最近マギに回す資金減らしてない?研究資金が足りないって、うちの魔導士たちが困ってるんだけど!」

「それは君たちが研究に没頭するあまり、資金を使いすぎるからだろう」

「もともとの金額が少なすぎるのよ!私たち魔導士がどれだけ飛び回ってるかわかってる?ちゃんと労働に見合う報酬を用意しなさいよ!」

 どんどん収拾がつかなくなっていく。そこへ、黙っていた国王様が近づいてきた。

「お前たち、そのくらいにしろ。若者の前でみっともないぞ」

「「すぐ酔って迷惑かけるネロにだけは言われたくない!」」

「お前ら・・・・・」

 国王、よっわ・・・・・・。

「はぁ・・・・・。仕方ない。あなたに私の研究結果を見せてあげるわ、アイ。だから、少しおとなしくしていてくれないかしら」

「姫様の研究?いったいどんな?」

「気になるのなら見てなさい」

「・・・・・・」

 新しい魔法に興味はあるのだろう。それ以降、アイさんは黙ってこちらを見ていた。

「静かになったみたいだね。それじゃあ、始めようか、ハミル君」

「はい!よろしくお願いします」

「それじゃあ、二人とも初めてちょうだい。そうね、どちらかが膝をつくまでやりなさい」

 限界まで戦えってことか。容赦ない友達だ、まったく。

「それじゃあ、いくよ!」

アイ=マギア(39)

 魔導士の部隊”マギ”を率いるグランド随一の魔導士。その実力は本物で、若いころからネロ達とともに戦場で活躍していた。

 生まれ持った魔力が多いというのも隊長を務める理由の一つだが、それ以上に新しい魔法を作り上げる発想力が国中から買われている。グランドの村や町を覆う無限防壁も、フィーナの魔力がなければ発動できないとはいえ、その基礎構造を作り上げたのは彼女である。フィーナとの相違点は、”守ること”に重きを置いていることであるといえる。

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