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メモリー  作者: syara
#01 消えない縁
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目醒めの時

 夢を見た。普段は夢を夢と認識することなんて出来ないのに、長い現実という悪夢のせいでこれが夢だと実感させられる。

 目の前に広がっているのは平和なユリア村の様子。あまりにも日常的な光景のため、これがいつかの光景なのか、僕の幻想なのか区別ができない。

 ただ一つわかるのは、これが夢だということ。村は、焼け切ったのだから。

なくなった村。炎の広がった森。あれを見てこれが夢でないといえるほど、僕は子供じゃない。


「夢から醒めても待っているのは悪夢の続き、か。でも、このまま醒めない夢を見るのも、それはそれで悪夢だな」


 目覚めたら、まず何をしよう。生きるためには、外の世界に行くしかないだろう。


「・・・・・こんな形で、外に出たかったわけじゃない」


 現実は非情で、何が待ち受けているか見当もつかない。でも、このまま夢に世界にすがるわけにもいか

ない。


「みんなの死体を見たわけじゃない。逃げ延びた可能性だってあるんだ」


 だから、悲しくない。希望はあるのだから。


「僕、行くよ。ここを出て、外の世界に」


 村に背を向ける。そして走り出す。


「絶対に、見つけるから」


 森の中を走る。前方から差し込む強い光。眩しいけど、止まらない。そこに希望があると信じて。





 目が覚める。気づくと、そこは森ではなかった。

 寝心地のいい、ベッドの感触。視線を巡らすと、そこが室内だとわかる。


「どこだ、ここ」


 見たことのない、少なくとも村の家とは雰囲気が違う。部屋には誰もいないようだ。


「外に出てみるか。・・・・いっ⁉たぁ・・・」


 足が痛む。上半身も、体が重く思うように動かない。体に意識を向けると、空腹感に襲われる。喉は渇き、体中の切り傷の痛みが思い出された。

 そういえば、あれから何日経ったのだろうか。二日続けてろくに食事もとらず、挙句そのまま寝ていたのだから、空腹に襲われるのは当然といえば当然か。


「痛いけど、ここがどこなのか確かめなきゃ」


 体に鞭打って、ベッドを降りる。ひとまず、外に出よう。そう思い、部屋の扉へ向かおうとした、まさにその時だった。

 扉が開き、その向こうには一人の少女がいた。

 長い白髪、赤眼と黒眼のオッドアイ。いろいろと、特徴的な外見の少女。歳は、僕と同じくらいだろうか。


「あら、起きたのね。ずいぶん長いこと眠っていたから、目を覚まさないものかと心配したのよ」

「あの、あなたは?」

「私?私はフィーナ。三日前、あなたを北の森で発見して、ここまで運んできたの。大きな怪我もないみたいでよかったわ」

「フィーナ・・・・・。そうか、あなたが助けてくれたのか。その・・・ありがとう」


 三日前、つまりあの火事から五日が経ったのか。それよりも、彼女の名前。偶然の一致だろうが、五日前のことを思うと心が痛むな。握りつぶしたフィーナの花を、火に投じたあの行為が。


「あの・・・・・」

「とりあえず、疲れてると思うけれど、食事をとったほうがいいわね。ずいぶんやつれてるようだし。あと、あの場所で何があったのかも聞かせてもらいたいし」


 ついてこい。そういうかのように彼女は歩き始める。何もかも、理解が追いついていない状態だが、食事という単語につられて彼女についていくことにした。・・・・・我ながら情けない。





 廊下を歩くと、ここがずいぶんと大きい建物だということが分かった。村長の家と、いい勝負なのではないだろうか。それと、もう夜のようで、窓の外は真っ暗だった。

 それにしても、部屋の数が多いな。どれだけ大所帯なんだ。


「あの、ここは何の建物なんですか?」

「何の、って・・・・・見ての通り、宿屋よ」

「宿屋・・・・・?」

「え・・・・・。まさか、わからないの」


 ヤドヤさん・・・の、自宅だろうか。ずいぶん変わった名前だな。


「ほら、ここよ」


 扉の先に広がっていたのは、これまた大きな部屋だった。そこにはいくつものテーブルと椅子があり、奥には厨房があった。

 変わった場所に視線を奪われていると、フィーナさんは厨房にいる人物と話を始めていた。


「彼と、ついでに私も。こんな時間で申し訳ないけど、料理を用意していただけるかしら。お代は、ここを出るときに払うわ」

「いえいえ。気にしないでください。フィーナ様の頼みとあれば、その程度お安い御用です」

「私はそんな大層な身分じゃないわ。まだまだお父様の力に頼る子供だもの」

「そんなことありません!フィーナ様の無限防壁のおかげで、国境付近の村は静穏を保てているのです。あなたの魔法の研究は、この国の誇りですよ」

「あれは私一人で作ったものではないわ。でも、ありがとう。料理、楽しみにしているわ」


 そういってフィーナさんはこちらへ戻ってきた。近くにあった椅子に腰かけ、僕にも座るように促してくる。


「さて、それじゃあ聞かせてもらおうかしら。あの森で何があったのか。それと、あなたのことについても」

「はい。えっと、僕はハミル、ハミル=レイって言います」

「畏まらなくていいわ。気軽に話してくれたほうが、私としても助かるし」

「そう、か。じゃあ、そうさせてもらう。えと、まずから話そうか・・・・・」





 それから、僕は彼女に村であったことを話した。突如として黒煙が上がったこと、村人が不自然な消え方をしたこと、二日間探し回ったけど誰も見つからなかったこと。


「そう、そんなことがあったのね。・・・・・人が消える、か。いや、まさかね」

「・・・・・?」


 一通り話し終えると、先ほどの料理人が食事を運んできた。村では見たことのない料理がいくつもある。


「・・・・・・・」


 食事に目を取られていると、視界の上方でフィーナさんがこちらをじっと見つめているのが気になった。


「あの、何か?」

「・・・・・いえ、何でもないわ。辛いことがあって大変でしょうけど、とりあえず食べなさい。おいしいわよ、ここの料理」

「僕、金持ってないんだけど・・・・・」

「気にしないで。さっきに話を聞いてあなたにお金を要求するほど腐ってはないから。というか、持ってないんでしょう」

「外の世界に出る必要がなかったからね。その、必ずお金は返すから・・・」

「いらないわよ。だから、冷めないうちに食べなさいな」

「それはどうも・・・・・」


 普段なら絶対断るところだが、今ばかりは空腹に逆らえない。


「・・・・・いただきます」


 その食事はとてもおいしかった。一度口に運んでからはもう止まらなかった。五日もまともに食べていないと、こうなるのか。・・・・・まったく、いい経験になった。





「その、こっちからも聞いていい?」

「何かしら?」

「なんで、僕にここまでしてくれるんだ?森からここまで運んで、置いていくだけでも良かったはずだ」

「・・・・・別に、たいした理由はないわよ。倒れていた人が無事だったか確認したかっただけよ」


 嘘だ。

 僕はこれでも、他人の感情の変化に機敏だ。彼女は間違いなく、何かを隠している。さっきから、こちらを観察しているように見ているのも何か関係しているのだろう。

 ・・・・・赤の他人とはいえ、隠し事をされるのは気分が悪いな。食事を終えたら、少し鎌をかけてみるか。


「・・・・・ごちそうさまでした。それじゃあ、僕はこれで」

「あら、どこへ行くつもりなの?行く当てがないんじゃないのかしら」

「村のみんなが逃げた可能性がありますから。探してみようと思います。まずはお金を稼ぐところからですが」

「路頭に迷うのがオチよ。・・・・・提案なのだけど、あなた、私のうちに来ない?しばらく泊めることもできるし、仕事も与えられるわ」


 来た。これが狙いか。いったい何を企んでやがる。

 いくら彼女がお人よしだとしても、僕を泊めて、しかも仕事まで与えることに一切の利益はない。絶対に、何か裏がある。少なくとも、それを聞き出すまでは信用できない。


「いやいや、さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないよ。気持ちだけ、いただいておくよ」

「・・・・・もしかして、何か疑ってる?別に、危険な仕事をさせようとか、割に合わない労働をさせようとか。そんなことはないわよ?」

「・・・・・じゃあ聞かせてくれないか?その仕事の内容とやらを」

「うーん、そうね・・・・・。あなた、戦闘の技術はある?」

「まあ、自分の身を守る程度なら」


 なんだ?何をやらせる気だ?・・・・・くそっ、もう少し外の世界の知識を付けておくべきだった。外の世界について知ってることなんて、戦争してる国があることと、金がないと生きていけないことくらいだ。いったいなんだ、戦闘の技術が必要な仕事って・・・・・。ちくしょう、守り人しか思い浮かばねぇ。


「まあ、あなたはそれなりに頭が切れそうだし、選択肢は多そうだけど。うちで一番確実に働ける仕事っていったら限られてくるわね。でも、あなたにとってもいい話だと思うわよ」

「僕にとってもいい話?それっていったい・・・・・」


 カップに注がれた紅茶に口を付けたのに、彼女は一拍おいて口を開いた。


「私があなたに与えられる確実な仕事。それは軍人よ。高い階級は与えられないけど、軍人なら国の様々なところに派遣されるから、いろいろな場所を探すというあなたの目的も果たせる。どうかしら、悪くない話でしょう」

「軍人・・・・・、って何するんですか?」

「噓でしょ⁉そんなこともわからないの⁉」

「す、すまん」

「はぁ、まあいいわ。軍職にもいろいろあるから、あとで説明してあげる。それで、どうかしら。ひとまず、うちに来ない?合わなかったらやめていいし」


 さて、どうするか今のところ、衣食住を保証してくれる代わりに得体のしれない仕事をさせられるということしかわかっていない。でもまぁ、軍人?というのが色々な場所をまわれるのなら、確かに悪い話ではない。このままここを出ても、彼女の言う通り路頭に迷う可能性が高い。それなら・・・・・


「詳しく話、聞かせてもらっていいか?」

「乗ってくれて助かるわ。私としても、助けた人がのたれ死ぬのは嫌だしね」


 何か隠しているのは間違いないが、少なくとも悪意は無さそうだ。それなら、しばらく世話になるのもありだろう。


「それで、ここからは個人的なお願いになるのだけど・・・・」

「え?」

「当然、軍人としての労役に見合う報酬は払うわ。それで、これはあなたを泊めるための交換条件みたいなものだと思ってくれればいいんだけど」


 両手を合わせ、上目遣いでこちらを見てくる。何故だろう、嫌な予感しかしない。


「あなたの体、調べさせてくれないかしら?」

「・・・・・・・え?」


フィーナ(17)

 素性をあまり喋らない少女。赤い右目と黒い左目。長い白髪はどこか高貴な雰囲気を醸し出す。彼女の目的はハミルを調べることにあるようだが・・・・・

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