表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリー  作者: syara
#02 動き出す鼓動
19/46

最強の戦士

「嘘、だろ・・・・・」

 よく考えれば、当たり前だった。さっき倒したヘル兵は、あくまで先遣隊。彼らが無事に攻め込めば、壁の奪取を確実なものとするためにさらなる兵力を送り込むことなど当たり前。夜とはいえ、遠くから戦闘の規模くらいは計れる。少数の兵しかいないのであれば、その強さは関係ない。百で駄目だとしても、千なら問題ない。そう考えるに決まっている。こちらが少数ならば、ブレイカーが陽動に掛かったのは間違いないのだから。

「ここで退いたら、確実に壁を奪われる。でも、戦ってところで勝ち目なんて・・・・・」

「ハミル!大丈夫!?」

 状況を察したのだろう。フィーナはこちらに駆けつけてくれた。僕と同じように、視界の先に見えた光景に驚きを隠せないようだが。

「・・・・・僕たちに残されている選択肢は2つだ。このまま急いで撤退して、グランド領に危険を知らせるか。このまま奴らと戦って1秒でも時間を稼ぐか。前者なら壁を奪われ、後者なら僕たちはまず助からず、高確率で壁も奪われる」

「・・・・・最善の選択肢は前者かしら。でも、私はそれを選ぶ気はないわよ。まだ、選択肢はあるでしょう?」

「・・・・・ああ。このまま壁を奪われるのは、僕としても都合が悪い。・・・・・だから、悪いけど付き合ってもらうぞ、フィーナ」

「私を傷物にしないって、お母様と約束してなかったかしら」

「するわけないだろう。フィーナは、絶対に僕が守る。だから、頼む」

「命を賭けて私を守ってくれる騎士に出会えるなんて、まるでお伽噺のお姫様ね。いいわ、付き合ってあげる」

 お互いに目を合わせ、頷く。まあ、それだけで十分だろう。

「我が専属補佐官ハミルに命ずる!私と共に、前方のヘル兵を殲滅せよ!ただし、死ぬことは許さない!」

「了解!援護頼むよ、フィーナ姫様!」

「上等よ!ハミルこそ、私に合わせなさいよ!」







「な、何なんだこいつら!」

「短剣使いのガキは後だ!先に魔導士の娘を殺せ!」

「それよりガキを数で抑え込め!敵はたった二人だぞ!」

 僕は全力で敵を斬り殺しながら駆け抜ける。フィーナは、もはや僕に防壁魔法を要求するのをやめた。それこそ、僕に魔法が当たることなど意にも介さずに。

 だが、それでいい。むしろ、魔法に翻弄される兵士の中など、魔法嵐に比べたら余程走りやすい。フィーナの魔法を避け切った後は一瞬の余裕ができるため戦いやすい。




 しかし、兵力差は圧倒的だった。奥へ進めば進むほど、敵の数は増えているのではないかと錯覚するほどの威圧感を受ける。いや、実際に増えている可能性すらある。

「はぁ・・・・・。はぁ・・・」

 避けながら戦っているとはいえ、無傷というわけにはいかない。少しずつ、切り傷は増えていく。

あと、どれだけ持つかわからない。壁の襲撃があったから、あれで誰か感づいて村の人を避難していたりは・・・・・無いな。希望的な推察はやめよう。だって、僕らがこいつらをここで殲滅すればいいのだから。

「いつまでだって戦ってやる。フィーナに了解って言っちゃったしな。最後まで、戦い抜いてやる」

 短剣を握りしめ、再び敵へ向かう。一歩一歩を踏みしめるように歩き、一気に駆けだそうとした、その時だった。

 誰かがそっと、僕の肩に手を置いた。

「よく、ここを守ってくれた。・・・・・下がっていろ」

「え・・・・・」

 そう言い残した男は、一本の刀を持って敵の中に駆け込んでいった。同時に、一度止まったせいか疲労が爆発し、僕はその場に座り込んでしまった。




「うちの新入りどもが世話になったみたいだからよ。隊長が責任をもってお礼させてもらう。感謝の気持ちだ、受け取れよこのクソ野郎ども!」

 男が恐ろしい勢いで剣を振ると同時に、剣に埋め込まれている宝石のようなものが光った。そのまま剣を振ると、剣の真下の大地が抉れ、周辺のヘル兵を巻き込み吹き飛ばしていく。

「・・・・・すごい」

 その男の力は圧倒的だった。一切敵を寄せ付けず、剣の一振りで何十という兵を薙ぎ払っていく。

「・・・・・生きてる?」

「ああ、何とかな。・・・・・僕らで殲滅するって命令は守れそうにないな」

「生きていればそれでいいわ。それにしても運がよかった。このタイミングであいつが来るなんて」

「あの人って、もしかして・・・・・」

「ええ。この国最強の化け物、アズマよ」

 やはりか。それなら、あの圧倒的な力も頷ける。こんな人が壁を守っていれば、確かに心配ないのかもしれない。






 恐ろしいことに、アズマさんはたった一人で敵軍を壊滅させた。一部逃げた兵がいたものの、大半の兵は地に伏している。

「終わったぜ。お前さん大丈夫か?・・・・・あれ、姫様じゃん。何してんだ、こんなとこで」

「相変わらずね、あんたは。感謝しなさい。彼と一緒に、ここを守ってあげたんだから」

「おお、そりゃあ感謝しなきゃな。ありがとよ」

 引き上げてきたアズマさんは、そういって僕らの後方に視線を移す。その表情は、怒りとも悲しみともとれる複雑なものだった。

「無能な隊長のせいで、新兵を死なせちまった。ちゃんと、弔ってやらなきゃな」

「そうしなさい。彼らがいなかったら、私たちも間に合っていたかどうか・・・・・」

「お前らにはいろいろ聞きたいことがある。とりあえず、壁まで戻るか」

アズマ=ロンド(44)

 二十代だった当時、奴隷狩りに遭い売られる直前、その場を襲った”何者か”によって窮地を脱する。逃げ延びたアズマは、国境で戦っていたネロに合流し、共闘してその場を脱した。ともに奴隷狩りに遭い、離ればなれになった兄を探している。

 現在はブレイカーの隊長を務めており、その実力はグランド最強ともいわれている。ただ、頭の回転が悪いため、部下に支えられている部分が多い。彼も部下を信用し、また部下も彼の実力も信頼しているため、部隊内の関係は極めて良好である。

 副隊長であるナギ=ヒイラギをよく口説いているが、いつもあしらわれている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ