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メモリー  作者: syara
#01 消えない縁
15/46

特別な日⑤

「・・・・・これで話はおしまい。どう、満足した?」

「やっぱり親子なんですね、あの二人。考えることもやり方もよく似ている」

「だからこそ、ネロは姫様を心配しているの。自分と同じ危険な人生を歩むんじゃないかとね」

「なるほど。貴重な話を聞かせてくれて、ありがとうございます」

「いいのよ。それより、姫様のこと、大切にしてあげなさい。あれでも、かなり無理をして今まで過ごしてきた、可哀想な子よ。きっとあなたのこと、本当に気に入っていると思うわ」

 そうなのだろうか。ここ数日、用があるからと突き放されてばかりなのだが。






「先代の王、フラウ=グランドか」

 歴代のグランド王の中でも、その活躍は目を見張る。前の代で壁を奪われながらもヘルの侵攻を防ぎ、文字通りその命を使い壁を奪い返した。歴代で唯一、戦場で死んだ王らしい。

 アイさんの話を聞いた限り、ネロ王は先代からかなり信用されていたらしい。それを考えれば、ネロ王が即位したのも頷ける。

「そういえば、王妃のカタリナ様にはまだ会ったことがないな。いったい、どこにいるんだろう」

 明日にでも、フィーナに聞いてみようか。

 そういえば、フィーナが明日は空けておけって言ってたな。いったい何の用なんだか。






翌日

「ハミル、今日は街に出るわよ。あなたも一緒にね」

「え、いいのか!?」

「ええ。あなたに会わせたい人がいるの」

 昨日までは連れて行ってくれなかったのに。いったい何の用だろう。会わせたい人っていったい・・・・・。






「おおっ!」

 僕たちはグランドの中心街に来ていた。そこは活気に満ちていて、いろいろな店が通りに連なっていた。

「この国へ来た時は、ゆっくり見る時間なんて無かったからな。すごい、見たことないものがたくさん・・・・・」

「気に入ったようで何より。でも、ひとまずついてきてちょうだい」

 そういってフィーナが向かったのは通りのちょうど真ん中あたりにある大きな建物だった。看板には・・・・・『魔装具研究所』

「あなたに会わせたい人もここにいる。さあ、入って」

 木製の綺麗な装飾が施された扉。その中に広がっていたのは、一見すれば装飾店かと思うような品の数々。

「ここって、装飾品の店なのか?」

「半分正解ってとこね。正確には魔装具。杖の代用として身に着ける装飾品を作っている店よ。本来、加工すると効力が激減すると言われている魔石の加工に成功した人がいるの」

 魔石・・・・・。杖の先端に付いてるやたら光るあれか。その純度に応じて、魔法の質も上がるらしい。

「で、会わせたい人なんだけど・・・・・。作業中かしら。呼んでくるから待ってて」

 そう言い残し、奥の作業場と思われる部屋に入っていった。

「装飾品ねぇ・・・・・」

 そういえば、僕には縁のない品物だな。今まで宝石の類を身に着けたことはない。装飾品って言っても色々あるようで、ブレスレットやチョーカー、イヤリングに指輪まで。

「ブレスレットや指輪はわかるが、イヤリングで魔法を発動するってどうなんだ・・・・・」

 まあ、目で魔法を発動している人間が身近にいるから、そこまで不思議ではないのだけど。

 魔法、か。そういえば、フィーナが書いたあの魔法式。仮に制御できるとして、フィーナが言っていた欠陥って何なのだろうか。超圧縮して実在しない次元をこじ開け、そこを通り別の地点へ移動する。

「あ、そういうことか」

 出口がないのだ。あの理論では、入り口を作ることができても出口が開けない。なら、同時に出口を作ることができれば・・・・・。

「・・・・・ぇ。ねぇ、ハミル!」

「えっ!?」

「何ぼーっとしてるのよ。ほら、連れてきたわよ」

 考え込んでいて、周りが見えていなかったらしい。気づけば、そこにはフィーナと、穏やかな雰囲気の女性がいた。

 長い白髪、落ち着いた表情。アイさんと同じくらいの年に見えるが、雰囲気は対照的だった。

「あなたがハミル?娘が迷惑かけてるみたいでごめんなさいね」

「娘って・・・・・」

「フィーナの母、カタリナです。わがままな娘だけど、仲良くしてあげて」

「お母様、余計なこと言わなくていいから」

「あら、本当のことじゃない。ふふっ」

 外見はフィーナに似てるけど、性格は真逆みたいだな。

「お母様は、年中ここで魔装具を作っているから城にはいないの。だから、一度連れてこようと思っていたのだけど、何の用事もなしに呼ぶのも時間の無駄でしょ?でも、今なら丁度いいじゃない?」

「丁度いい?」

「あなた、やっぱり忘れているわね。火の月蒼の週、あなたにとっては“特別な日”でしょう?」

「・・・・・ああ、そういうことか」

 明確に何日、という括りじゃないから忘れていた。火の月蒼の週は、俺の誕生日がある週だっけ。

「先週、個人情報書かせたばかりじゃない。気づかれていると思ったわ」

「だって蒼の週っていっても七日間あるだろ」

「まあ、何日目に生まれたかは特に意味を持たないからね」

 火水風地光闇の六つに分かれた月。それぞれの月に、緋蒼翠橙紫琥珀白黒。各七日の八つの週。最後に、30日間の無の月。

 月は自然を司る神を、週はかつてこの地に生きていた八つ首の魔龍の特徴を示しているのだとか。無の月はよくわからないが。

 例えば僕の場合は、火の神の加護を受けた蒼の力を持つもの。そんな感じで出生を示すから、蒼の週の何日目に産まれたのかはたいして重要視されない。七日間のどこかで祝われる、実に曖昧な誕生日なのだ。

「お母様、例のものは出来ているわよね」

「もちろん。あなたが魔装具を欲しがるのは初めてだから、腕によりをかけて作ったわよ」

「ありがと。お代は、お父様にでも請求してちょうだい」

「娘が男に贈り物するんだから、お代取るなんて野暮なことはしないわよ。ふふっ」

「だ、か、ら!違うって言ってるでしょ!」

 フィーナはカタリナ様が持っていた木の箱を乱暴に奪い取り、僕に向けて突き出す。

「ほら、私から誕生日の贈り物よ。誕生日おめでとう。礼はいらないから、黙って受け取りなさい!」

「あ、ああ。ありがとう」

「フィーナ、いくら友達いなかったから贈り物したことないからって、その渡し方はないわよ・・・・・。お母さん、あなたがいつハミル君に捨てられるか心配で仕方ないわ」

「うるさいわね!悪いのは全部お父様でしょ!」

「ネロはあなたのことを心配していたのよ?」

「じゃあ、あの異常なナルシストや、私に頭を下げるしかない執事を押し付けてきたのも私のためだっていうの!?」

「だって、あなた普通の人を付けても『話が合わない』ってすぐ嫌いになっちゃうじゃない」

「だからって、あんな頭のおかしい連中はもっと嫌よ!」

 ・・・・・なんか唐突に親子喧嘩が始まった。フィーナから受け取った木箱を手に、僕は立ち尽くすしかなかった。

 それにしても、贈り物か。村でも、短剣以外にもらったことはなかったっけ。

 これも魔装具みたいだけど、すこし重いな。いったい、なんの装飾品を模しているのだろうか。

「フィーナ。これ、開けてみても・・・・・」

「だいたい、お母様こそ自分の心配したらどうなのよ!月に一回しか夫婦が会わないとか、ひょっとして嫌われてるんじゃないのかしら」

「ネロは私にメロメロだから、そんなことはあり得ないわよ。男を落とすテクニック、教えてあげましょうか?」

「結構よ!」

 仲いいな、この親子。お嬢様みたいな話し方をするフィーナだけど、感情的になりやすい一面もある。それに対して、カタリナ様は常に余裕の表情を崩さない。普通なら言い合いになんてならないような組み合わせだけど、それでも言いたいことを言い合えるのはやはり親子だからなのだろう。

 ・・・・・言いたいことを言い合える親子、か。幸い、僕は両親と口喧嘩したことは一度もない。お互いに不満なんてなかったし、平和な暮らしがただただ幸せだった。

 いや、一度だけあったか。妹のミアが行方不明になり、消息を絶った時。いつまでも森を探す僕を、父さんは無理やり止め村へ帰した。子供の僕が森にいることが危険だということはわかっていたのだが、それを理解できなかった当時は父さんに散々罵声を浴びせたっけ。

 そうだ、僕の大切な人たちは、いつも突然いなくなる。ミアも、父さんも母さんも、村のみんなも。

 ・・・・・もしかしたら、フィーナも。いつか突然いなくなって、僕の手の届かないところへ行ってしまうのではないか?

 そう考えたとき、胸の奥がずきっと痛んだ。もう、大切な人を失いたくない。家族を失って、仲間を失って。

 きっといつか、みんな取り戻せる。だから、今は目の前にいる大切な友達を手放さないように。彼女を守れる力を手に入れなければ。

「・・・・・なによ、ハミル。こっちをじっと見て」

「いや、何でもない。なあ、これ開けていいか?」

「いいわよ。大したものじゃないから期待しないことね」

 了承をもらい、木箱の蓋を外す。そこに入っていたのは、綺麗な蒼く輝く魔石の埋め込まれた短剣だった。その形状には既視感があり、宝石があることを除けば、僕の短剣と瓜二つだった。

「いいのか、もらっちゃって。魔石とか、高いんじゃ・・・・・」

「そういうのは気にしなくていいの。私だって、それを作るためにあなたに迷惑かけたし」

「それってどういう・・・・・あっ、もしかして短剣がなくなったのって」

「その短剣の型を取るために、こっそり拝借したの。隠していてごめんなさい」

「フィーナがいきなり、短剣の魔装具を作ってくれと言ってきたときは驚いたわ。戦闘に用いる魔装具なんて、長剣の根元に魔石を埋め込むくらいしかやったことなかったのに。この子ったら、大切な人に贈るためのものだから綺麗に作れってうるさかったのよ。魔石も、ハミル君の誕生日の蒼の週に合わせて、一番純度の高い蒼い魔石を使えって・・・・・」

「ああ、もう!余計な話はしなくていいの!・・・・・それより、どうかしら。やっぱり、そんなキラキラした武器は嫌かしら・・・・・」

「そんなことないぞ。もともと使っていた短剣を型に作ってくれたみたいだから、持った感じに違和感もないし、魔石の色もとても綺麗だ。ありがとう、フィーナ。最高の誕生日プレゼントだよ」

「そ、そう。ならよかったわ」

 僕から視線を外し、小さな声でそう返してくれた。

 それにしても、二本目の短剣か。フィーナの言う通り、予備として使うのもいいが、せっかくなら・・・・・・。

「ハミル君、ちょっといいかしら」

「は、はい。何でしょう、カタリナ様」

「そんな堅苦しい呼び難しなくていいわよ。何なら、フィーナみたいにお母様って呼んでくれてもいいのよ?」

「えっ!?」

「お母様、そういう冗談はいいから」

「あら、私は本気よ?」

 だめだ、つかみどころが無さすぎる。そこに吹いているのに、決して掴むことのできない風のような人だ。

「ハミル君、さっきも言ったけど、フィーナをお願いね。昔から他人を避けて、それでいて目を離すと一人で無茶をする子なの。そんなこの子が連れてきたあなただから、お願いできるの。この子が無茶しそうになったら、あなたが止めてあげてちょうだい」

「・・・・・お母様」

「私もネロと同じ。子供が心配な一人の親なの。フィーナの考えを尊重してあげたい。でも、それでこの子の命が脅かされるのは見逃せないわ。だから、お願いできるかしら?」

 子を思う親の気持ち。それは、国王様と話した時も感じていた。その思いはとても人間的で素晴らしいもの。

 それを知っているから、僕の答えはすでに決まっていた。

「嫌です」

「「えっ・・・・・」」

 予想外だったのだろう。二人は困惑していた。カタリナさんは、こちらの意図がわからないといったような感じだ。フィーナは、まるで見たことないものを見る子供のような、そんな驚き方。

「僕はフィーナの友達です。だから、いつも隣でフィーナを支えたい。フィーナが無茶をするなら、僕もその無茶に付き合います。絶対に、フィーナを守れるように」

「・・・・・・」

「カタリナさんの考えもわかります。でも、フィーナだって人間だ。やりたいこと、知りたいこと。そういうものが山ほどある。当然、それらを得るために危険が付き纏うかもしれない。だから、僕がその危険からフィーナを守ります!」

「ハミル・・・・・」

 少しの間沈黙が場を包む。何かを思案するような表情のカタリナさんは、突然笑みをこぼした。

「ふふっ。そこまで言われたら、私から言えることは何もないわ。フィーナ、あなたいい人を見つけてきたわね」

「私もそう思うわ。こんなやつ、世界中探しても他にはいないでしょうから」

「褒めてるのか貶しているのか、どっちだよ・・・・・」

「当然、褒めてるわよ」

「ふふっ、ハミル君、フィーナをよろしくね。娘を傷物にしたら許さないわよ」

 責任重大だな、これは。威勢のいいことを言ったが、よくよく考えればフィーナの方が僕より何倍も強いはずだし。

「あ、そうだ。ついでに伝言を頼まれてくれないかしら。『例の件は、私も仕事があるから厳しい』と、セドに伝えてちょうだい。それで伝わるはずだから」







#01 消えない縁 END

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