特別な日④
訓練を終えた僕は、今日も地下書庫に籠っていた。結局、あの後何回も試したが、落とせたのは4発目まで。リアーナさんに尋ねたところ、氷は全部で12回射出しているらしい。まだ3分の1かと思うと先が長い。
「さて、エイジについて調べますか。国内関連の資料は・・・・・あれ、全然ない」
一応、調べるうちにわかったことはあった。壁は十数年前までヘル側のものだったこと。エイジはヘルの占領下にあり、それを奪還したことが壁の奪還に大きく貢献したこと。
しかし、その奪還に関する経緯が一切ない。作戦の施行日、作戦を行った部隊。それらに関する情報が一切載っていなかった。
「そういえば、この時期って今の国王様が王位に就いた少し前、だよな」
さっきセドさんは、ネロ王にあったのはおよそ20年前だと言った。その時期から、ネロ王が王位に就くまでの、ネロ王に関連する資料。それらがどこにもないのだ。
「わざわざその資料を抹消した?でも、なんで・・・・・」
また、わからないことが増えた。たぶんセドさんに聞いても教えてくれないだろうし・・・・・。
「そういえば、まだちゃんと話したことがない人がいたな。明日、会いに行ってみるか」
翌朝
「セドから聞いたわよ。ずいぶん無茶な訓練しているらしいわね」
「情報早いなぁ・・・・・」
まあ、隠すつもりはなかったからいいのだが。せっかくだから、魔法の中を走り抜けるのを見せて驚かせてみたかった。
「けがはしないでよ。あなたが動けなくなるのは私としても痛手だからね」
「それで、今日は何か仕事あるのか?」
「ないわね。私はもう一度街に出るから、今日も自由に過ごしてちょうだい。それと、明日の夜のこと、忘れないでよ」
「わかってるって。どうせ、予定なんてないんだし」
「ならいいわ」
今日もセドさんの指導のもと訓練を行った。と言っても、撃ち落とせる氷の数が5発に増えただけなのだが。短時間の訓練のはずなのに、疲労の溜まり方が恐ろしい。
訓練を終えた僕は、前に一度だけ訪れた魔法研究室に来ていた。理由は、アイさんと話をするため。セドさんと違って感情に左右されやすいタイプみたいだし、話が聞き出しやすそうだからというのが理由なのだが。
「失礼します・・・・・って、すご・・・・・」
ノックして反応がなかったので中を覗いてみると、そこでは大勢の魔導士が実験を行っていた。特に、中央で何人もの魔導士が行っている魔法は、僕が見たこともないようなもので興味をそそられた。
「・・・・・何してるの?」
「うわぁ!?」
中を見るのに必死になっていたためか、後ろにいたアイさんに気が付かなかった。
「誰かと思ったら、姫様のお気に入りじゃない。魔法に興味あるの?」
「ええ、まぁ多少は。それより、今日はアイさんとお話ししたいなぁと思ってきたのですが」
「あら、君みたいな若い子に口説かれるなんてね。いいわよ、入りなさい。私もあなたの話はいろいろと聞きたいしね」
テーブルに向かい合い、軽い自己紹介を含めた談話をした。アイさんに至っては、聞いて
もいないのに歳のことを話だし、そろそろ結婚したいという愚痴を聞かされた。
「悪いわね、私のことばっかり話しちゃって。わざわざここへ来たってことは、聞きたいことがあるんでしょう?」
「はい、国王様のことです。僕、よそ者なんでまだ国王様がどんな人なのか全然わからくて・・・・・。それで、国王様と仲のよさそうだったアイさんに話を聞きに来ました」
嘘は言っていない。僕の中であの人は親バカという印象しかない。せっかくだから、その印象を払拭してもらいたいものだ。
「ネロのことねぇ・・・・・。一番知っているのは、やっぱりカタリナ様かセドだろうけど。いいわよ、私の知っていることでよければ教えてあげる」
「え、いいんですか?」
「聞いたのはそっちでしょう?」
「いや、そうなんですけど。国王様関連の資料が全然ないので、もしかして触れちゃいけないことなのかと思って」
「ああ、そのこと。それは、あの親バカがやったことよ。まったく、少しは娘を信用してやればいいものを」
親バカ、ってことは、やはり国王様自身がそのことを隠したのか。
「いい?これからする話、姫様には内緒よ。・・・・・」
「は、はい。気を付けます」
「よろしい。じゃあ、始めましょうか。今や英雄と呼ばれる親バカの、若かりし頃の物語を」
ネロの軌跡
国王ネログランドは、23歳の時に単独で部隊”アーク”を立ち上げ、様々な功績を残した。国境の町エイジでは、ヘルからの脱走者セドと共に洗脳された村人を解放し、生贄にされそうになっていたカタリナを救い出した。
国内でも、前線部隊と魔道部隊の対立を治めるなど、軍の中心となっていた。
前国王フラウ=グランドが戦場で死去し、後を継ぐ形で国王の座に就いた。アークは解散したが、その部隊員は今もそれぞれの部隊に散って活躍している。
著書 Historic Grandあらすじより抜粋