特別な日②
「・・・・・さすがに飽きた」
普通に考えれば、当たり前のことだった。何時間も政治経済の本ばかり読んでいれば飽きるに決まっている。普段は仕事が終わってからの数時間だけ集中しているから出来るのであって、昼間から何時間も勉強は気が滅入る。
「外に出て、剣でも振るかなぁ・・・・・」
グランド王城 中庭
「・・・・・はぁ!」
独学で身に着けた短剣。そのため、型となるものがないため安定感がない。よく言えば自由、悪く言えば隙が多い、といったところか。
「精が出るね、ハミル君」
「あ、セドさん。お疲れ様です」
「今日は姫様の手伝いはいいのかい?」
「なんか、街に用があるらしくて」
「ふぅん・・・・・」
思い当たる節でもあるのだろうか。少し考えたのちに、納得したといった表情に変わった。
・・・・・そういえば、セドさんは暗殺者だったんだよな。戦闘の技術なら、いろいろ学べることがあるんじゃないか?
「あの、セドさん。僕に、戦闘の稽古をつけてくれませんか?見込みがないと思えば、すぐに切り捨ててくれて構いません」
「・・・・・僕に稽古を求めるとはね。ただの稽古なら、そこらの兵士に頼んだ方が余程いい稽古になると思うよ?」
「僕は、セドさんのように武器の使い方を飛躍させていきたい。この短剣一本でも、戦い方は一つじゃない。いろいろな戦い方を身に付けたいんです!」
「なるほど、武器の使い方か。でも、ついて来れるかい?僕たちの一族は、基本的に技の伝授方法はすべて実践。受けて学べのスタイルだ。その過程で死ぬやつだっている。それでもやるかい?」
「やります!レゾナンスに頼ってばかりではダメなんです。僕自身も強くならないと意味がない!」
「いい返事だね。わかった。この前もそうだったけど、僕は基本的に午前は空いている。君が訓練したいときに、僕のところに来るといい。城にいる間は、稽古をつけてあげよう」
「ありがとうございます!」
よし、これでセドさんの技術を身に着けられれば、戦闘の幅はさらに広がる。負担は増えるがやるしかない。
「あー、でも今日は遠慮してくれ。ちょっと厄介な話が上がっててね」
「厄介な話?」
「この世界にある四大陸についてはもう理解しているかい?」
「ええ。かつて封印された大罪人によって四つに分かれた大陸ですよね。それぞれに大国が一つずつ。あ、でもこのベネディクト大陸だけは別なんですよね。グランドとヘルで、決着のつかない戦争を続けているから」
「そうだね。でも、大陸内で争いが起こっているのは、ここだけではないんだよ。東の大陸、アスピレイト。あそこでは、数年前に国軍が行った、反逆者の掃討作戦のせいで、国軍と抵抗軍で内乱が起こっている。その抵抗軍が、近いうちに大きな作戦を行うらしい」
「えっと、他国の内乱とこの国に何か関係があるんですか?」
「僕から説明するのは容易いけど、それは自分で調べてみるといい。明日までの課題ってことにしようか」
そういえば、目的をもって調べごとをしたことはなかったな。これは、もう一度地下に籠る必要がありそうだな。
「あった。東方の大国アスピレイト。この国とは、昔から貿易相手としてそれなりに交流があったみたいだな」
歴史書を見る限り、さっき言ってた国軍の掃討作戦が行われたのは・・・・・4年前か。それ以降、貿易記録が残っていない。何故だ?
「アスピレイト関連の資料は・・・・・あれ、全然ないな。ここ数年のアスピレイトに関する記録がないのか?」
周辺の棚を漁っていくと、ある一つの資料に目が行った。
「アスピレイト抵抗軍、活動記録?」
抵抗軍って、例の掃討作戦の生き残りだよな。つまり、国家の反逆者たち。
ページをめくると、構成員のリストを見つけた。
「結成当時は、ヴァレン=ルーファスがリーダーだった。でも、3年前に死亡しているな。現在のリーダーは・・・・・エリス=グランド・・・・・?」
グランドってまさか・・・・・。気になった僕は、すぐにグランド王族関連の資料を漁った。その中から、エリス=グランドの名前を見つけるのにそう時間はかからなかった。
「国王様の、姉か。そんな人が、なぜ他国の抵抗軍なんて率いているんだ・・・・・」
そのあとは、抵抗軍の資料を漁った。国軍関連の資料がないのは、国軍ではなく抵抗軍と関係を持っているかららしい。確かに、国王様の姉の率いる組織が大きな作戦を起こす。グランド王国としては無視できない問題、ってわけか。
「それにしても、国軍はなぜ掃討作戦なんて行ったんだ・・・・・。そんなことをすれば、反乱勢力が生まれるのは必至だ。誰にも利益のない作戦のように思えるけど」
この反乱以降、変わったこと・・・・・。抵抗軍が生まれ、グランドとの国交が断絶された。これで得をするのなんて・・・・・。
「ひょっとして、ヘルか?グランドが大きな貿易を行えるのは、世界の構造上アスピレイトだけ。アスピレイトとの国交を絶ってしまえば、グランドの力は大きく削がれることになる」
そういえばフィーナが言っていたな。数年前まで、サーバーライトと国交があったって。アスピレイトの中継がなければサイバーライトとの貿易は不可能。つまり国交がなくなった原因はこれだったのか。
「こんな状態になっているのも、魔境のせいか」
渡航不可海域、またの名を魔境。球体上の世界の上下、北極と南極って呼ばれているらしいけど。地図上では便宜上、サイバーライトが北、このベネディクト大陸が南になっているみたいだけど。
とにかく、魔境はその名の通り航海が不可能な海域。常に原因不明の雷雨が降り注ぎ、近づく船を飲み込んでいく。まるで、その先にある“何か”に、人間を近づかせないために。
「ってのが資料の記述だけど、いったい何を隠しているっていうんだ。神話を信じるなら、片方には大罪人が封印されている。でも、魔境は北と南の二か所に存在する。もう片方にはいったい何が・・・・・」
・・・・・ここで考えても答えなんて出ないか。いつか、確かめてみたいけどな。みんなを見つけたその後で。