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メモリー  作者: syara
#01 消えない縁
10/46

レゾナンス

 セドさんは、暗殺者という話にはそぐわない普通の剣を持っていた。ならば、僕は小回りの利くことを武器に戦うしかない。

「・・・・・っ!?」

 セドさんは一瞬で間合いを詰めてきた。そして剣を突き出すように振ってくる。

「うっ・・・くぅっ!」

 剣をいなすも、一度詰められた間合いはそう簡単に離れない。

 ・・・・・でも、この動き。もしかして。

「これならっ!」

 短剣の峰で剣を抑えるように鍔迫り合いまでもっていく。

 やっぱりだ!セドさん、このサイズの剣の扱いに慣れていない。

・・・・・手加減のつもりか?だったら遠慮なく肉弾戦に持ち込ませてもらうが。・・・・・でも、あり得るのか?明らかに隙だらけの動き。そう、まるで。

「っ!?」

 セドさんが右足を蹴り上げる。その靴先には小さな刃が顔を出していた。

 反射的に、後ろに飛ぶ。ギリギリのところを避ける。

「やっぱり、罠でしたか」

「よく反応できたね。こっちは、あのまま斬るつもりだったんだけど」

 ・・・・・ぞっとした。先ほど蹴り上げられた剣先に、一切の迷いはなかった。おそらく、本当に斬るつもりだった。

「その大振りの剣は誘い込むための餌ってわけですか」

「そうだね。でも、僕がやろうとしていることがわかったのなら、次は決められるだろう?」

「・・・・・」

 見え透いた罠だ。セドさんは話の通りの暗殺者。体の至る所に暗器を隠し持っていると考えた方がいい。

 向こうがいくつも武器を隠し持っているのなら、こちらもまだ見せていない武器を使うまで。

「フィーナ!レゾナンス、いけるか!」

「いつでもいいわ!やりたいように要求しなさい!」

「火と水の複合魔法で霧を発生させる!」

「わかったわ!」

 フィーナの返事とともに、魔法式を構築する。あとはフィーナと信じて、右手を前に突き出して待つだけ。

「っ!?いったい何をっ!」

 セドさんの反応より早く、指輪は光を放った。そして、周囲を一瞬で霧が覆いつくした。

「・・・・・すごい」

 生まれて初めて、自分の構築した魔法が発動した。夢の一つが叶ったといってもいい。

 後でフィーナに感謝しなきゃな。

「さて、視界のない世界は僕の舞台だ!」

 森の中では、霧が発生することも少なくなかった。魔法が使えない分、人間的な直観を鍛えた僕にとって、視界はあくまで補助要素。

「フィーナ!火の玉3つ!」

「ちゃんと同じ魔法式構築しなさいよ!」

 フィーナの心配は杞憂に終わり、指輪の周囲に3つの火の玉が出現する。

「さあ、いけっ!」

 腕を振り火の玉を放つ。標的はセドさんじゃない。これはあくまで、一瞬注意を引くための罠。人は視界が悪くなれば、極端に明るいものに注意を奪われてしまうものだ。

 まあ、セドさんもそれくらいわかっているだろう。だったら・・・・・。

「フィーナ!次は治癒系統!再生じゃなく、促進だ!出来るか!?」

「誰に向かって言ってるのよ!」

 さすがはフィーナ。僕の思い描いた通りの魔法を発動してくれる。肉体活動の促進魔法を足にかける。

 これなら、普段よりも速く走れる。たぶん、後で痛みに襲われると思うけど。

「行きますよっ!」

 飛び回る火の玉の隙間を駆ける。

 後ろを取った!これならっ!

「甘いよ、ハミル君!」

 いつの間にかセドさんの手に先ほどの剣はなく、代わりに短剣が握られていた。それも、一本じゃない。何本もだ。それを、的確にこちらに投げてくる。

 こちらをはっきり捉えてはいないだろうに・・・・・。暗殺者って恐ろしいな。

「大振りな剣より、そっちの方が慣れてそうですね!でも、僕だって接近するためだけにこの魔法を使ったわけじゃないですよ」

 とにかく駆ける。飛んでくるナイフに当たらなければそれでいいのだ。

 短剣はあと一本。

 腕の振りを予想して方向を変える。でも、その読み合いはセドさんの勝ちだった。

 最後の一本を投げなかったのだ。一気に勝負を決めるためにセドさんの方を向いた僕に、真正面から短剣を投げつけてくる。

「その武器を落としてしまえば、それで終わりさ!」

「っ、ぐぁっ!」

 その最後の一本は、見事に短剣を持つ僕の右手の甲に直撃する。あまりの痛みに、右手から短剣が落ちる。

「武器なしで近づいてくれば、僕がどう出るかわかるだろう。勝負ありだ・・・・・えっ!?」

 さすがのセドさんも予想外らしい。武器を落とした僕が降参するか、よくて逆の手で短剣を拾うと思ったか。

「武器ならまだあるでしょう!僕らには合わないやつがね!」

「っ!しまっ!?」

「遅いです!」

 僕が足の働きを促進させた理由。一つは、先ほどのような飛び道具を避けるため。もう一つは、セドさんが捨てた普通の剣を、セドさんに気付かれる前に拾うため。

 予想通り、あの大振りの剣はセドさんからしたら捨てても差し支えない武器だったのだろう。たくさんの武器を使うようだし、一つ失ってもさほど問題ないのだろう。特に、普段使わない武器ならなおさら。

 全力疾走しながら、剣を拾う。そのまま、セドさんが次の武器を取る前に背後から峰で背中を打ち付ける。

「ぐぁっ!」

 斬らなかったにせよ、それなりの強さで打ち付けた。予想通り、セドさんはそのまま前に倒れた。

「・・・・・僕の、勝ちです」

「ははっ、参った。まさか君みたいな若者に負かされるとは。また、鍛錬する必要がありそうだ」

 セドさんはそのまま後ろに倒れ寝転がる。その表情はやけに生き生きしていた。

 なんというか、おじさんが久しぶりに運動して汗をかいた、くらいに見える。本気じゃなかったんだな、今の。

「お疲れ様、ハミル。初めてなのに、上手く使うじゃない」

「いや、フィーナが僕の使いたい魔法を完璧に作ってくれたおかげだよ」

 フィーナはすぐに、僕の右手に治癒魔法をかけてくれた。フィーナの目が光ると同時に、傷はどんどん治っていく。その回復速度は村の魔導士よりはるかに速かった。

「さて、姫様。説明してくれるかしら?さっきのは何?」

「フィーナ、俺にも説明願おうか。あの技術は何なんだ」

 アイさん、そして国王様が矢継ぎ早に問いかけてくる。フィーナはめんどくさそうな顔をしながらも、説明を始めた。当然、その説明には僕が魔法を使えなかったことも含まれるわけなのだが。







「適応魔力数値、ね。魔力の質に個人差があるのは知っていたけど。・・・・・共鳴現象か」

「それは、他の人間でも使える技術なのか?それとも、フィーナとハミル君だけが使えるものなのか?」

「質問は一人ずつしてくれないかしら・・・・・」

 めんどくさそうにしつつも、フィーナは二人の質問に答えていく。その様子を見ていた僕に、セドさんが話しかけてきた。

「君が昨日隠していたことはこれかい?」

「ええ。魔法が使えないなんて、情けないでしょう?」

「そんなことはないさ。誰しも長所があれば短所がある。君は魔法が使えない分、剣術や肉弾戦が得意なようだしね。短所は長所で補っていけばいいのさ」

「そうですね・・・・・。でも、剣術も肉弾戦も特別秀でているというわけではないですし。長所といえるものがないんですよね・・・・・」

「そんなことはないさ。君はさっきのような緊迫した状況下でも、相手の予想に反した考えが出来るようだしね。君は軍師向きかもしれないな」

「軍師?」

「まあ、軍師っていっても様々だけどね。戦場を見渡せる場所から兵に指示を出す者もいれば、自身が戦場に立つ者もいる。どちらにせよ、並外れた判断力がなければ務まらない仕事だよ」

 軍師か・・・・・。正直なところ、どのような役割なのか実感が湧かないが、覚えておこう。

 隣ではフィーナがアイさんへの説明を終えたようで、今は国王様と話していた。

「そういえば、セドさんもアイさんも、部隊をまとめる立場らしいですね。こう言っては失礼かもしれませんが、仕事とか大丈夫なんですか?」

「まあ、僕らはあくまでそれぞれの部隊をまとめるだけだからね。この国の兵士は優秀だから、僕らが口を出さなくても各々が働いてくれるのさ。・・・・・最近の僕の仕事なんて、もっぱらネロの尻ぬぐいだからね」

「た、大変そうですね」

「せっかくの機会だし、彼女も紹介しておこうか。アイ!ちょっと来てくれ!」

 セドさんに呼ばれたアイさんは、ちょっとむっとした表情を見せてこちらにやってくる。

「彼女の話はすでに聞いているみたいだけど、一応紹介しておくよ。彼女はアイ=マギア。魔導士の部隊“マギ”を率いる部隊長だよ」

「説明どうも。・・・・・あなたがハミルね。ご紹介に預かった通り、私がマギの部隊長のアイよ。よるしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 やけに露出の多い服を着ているなこの人。少し目のやり場に困る・・・・。

「あ、ハミル君。アイは若作りしているだけで、僕と歳は同じだから変に緊張する必要はないよ」

「余計なこと言わないでよ!あんただって、その歳で未婚でしょうが!人のこと馬鹿にする前に女の一人でも見つけてきたらどうなのよ!」

「僕は外交で忙しいから、そんなことしている暇はないよ。君も、歳のこと気にするより研究とやらに専念した方がいいんじゃない?」

「相っ変わらず性格悪いわねアンタ!そんなこと、あんたに言われるまでもないっての!例の大魔法も、もうすぐ完成するんだから!」

 なぜだろう、昨日から大人の醜い部分ばかり見ている気がする・・・・・。でも、この国の最高位に立つ国王と、それを支える三部隊のうち二つの部隊長がこの場にいるのか。そう考えると、今この場にいることってすごいことなのかもしれない。

「はぁ、アンタと話してもストレスが溜まるだけだわ・・・・・」

「同意だよ・・・・・昔から思っていたけど、君とはどうも意見が合わない」

 不毛な争いを眺めていると、話を終えたフィーナと国王様がこちらへ来た。面倒な大人が増えただけな気もするけど、とりあえずこの気まずい空間はなくなりそうだ。

「ハミル、戻るわよ。今日中にやることがまだあるわ」

「ああ、うん。・・・・・いいの?あの二人放っておいて」

「いいのよ。あんなの日常茶飯事だから。いちいち気にしてたらきりがないわ」

「そうなんだ・・・・・」

 あれ、日常なんだ・・・・・。この城の人、苦労してるんだろうなぁ。






 中庭を後にしてフィーナが向かったのは昨日の地下書庫だった。その入り口まで来たところでフィーナはポケットから何かを取り出した。

「これ、あなたに預けておくわ。この扉を開ける鍵みたいなものだから、なくさないようにね」

 それは魔法式が書かれた札だった。それを受け取り、扉に近づけてみる。

 すると、昨日のように扉に魔法陣が浮かび上がり、その後開いた。

「サイバーライト、って言ってもわからないか。海を越えた遥か北方に、技巧国とも呼ばれるほど技術の発展した国があるの。数年前までは国交があったんだけど、その時にこの魔札の技術を教えてくれたのよ。特殊な紙だから数は多くないのだけど、あなたが自由にここへ入れないのは不便だから昨夜作ったのよ」

「ありがとう。つまり僕は何度もここへ来なきゃいけないわけだ」

「そうよ。何しろ、あなたは世界に関して知らないことが多すぎる。四大陸や魔境。外交の仕組みや敵国ヘルについても。あなたには知ってもらうことが山ほどある」

「この書庫に入り浸って、学べというわけだな」

「何言ってるの?あなたは私の補佐官なのだから、普段は仕事するのよ。ここへは、時間を見つけて自分で来なさい」

 なかなか理不尽な注文を付けてきた。いや、これからフィーナの手伝いをするのなら必要となってくることなのか。

「じゃあ、まず僕は何を学べばいい。さすがに、取っ掛かりがないとこの書庫は制覇できそうにない」

「そうね・・・・・。なら、ベネディクト神話から読み解きなさい。今のこの戦争は、神話の終わりと直結してる。皮肉にも、千年戦争なんて呼ばれているくらいだから、過去との因果は深いものよ。まあ、伝承だから全てが真実とは限らないのだけどね」

「ベネディクト神話なら知ってるぞ。村の書庫にもあったからな。天から来た神様みたいなやつが大陸と人を作ったってやつだろ?でも、自分で作った人に反旗を翻されたその神は、自分に従順な、心を持たない人を作って戦わせた。結局神は、自分の作ったその心を持たない人間を天界に奪われ、地上の人間に封印され、大罪人の汚名を天地双方から着せられた。そんな話だよな」

「ええ、そうよ。その後、封印された大罪人の強大すぎる魔力が、大陸を4つに分けた。いや、大罪人が封印されているという魔境を含めれば5つかしら」

「さっきもいっていたけど、その魔境って何なんだ?」

「それは、自分で調べなさい!」

 僕の背をフィーナが押す。そのまま、私はやることがあるからと言って地上階に戻っていった。

「こりゃあ、半端な覚悟じゃやっていけそうにないな」

 それでも、一度決めたことを簡単に曲げるつもりはない。なるべく最短で、胸を張ってフィーナの隣に立てるだけの知識を付けてやる。

ベネディクト神話

 遥か昔、古来古の時代。天よりの神来たれり。神は大地を作り、生命を作った。

 そうして作られたのが”グランドの民”。グランドの民はやがていくつもの国を作り、文明を繫栄させた。

 時を同じくして、神は新たな人の国を作った。しかし、この時既に、グランドの民が作った国の国王たちは、神を必要としていなかった。人の世の均衡を保つため、強大な力を持つ神を殺すことを決めたのである。

 しかし、神も無抵抗ではなかった。ヘルの民、また新たに作り上げた強大な力を持つ”人”を、グランドの民と戦わせた。結果、ヘルの民は敗北、強大な力を持った人は天の神に懐柔された。

 神は地上に封印された。それが意味するのは、いまだ神が生きているという事実。神が最後に残した言葉は、後世に渡り恐れられることとなるだろう。

「いつか、必ず復讐する。地上も天も関係ない。地の底、地獄から這い上がって、必ずこの世を絶望で染めてやる」

それからまもなく二千年。未だ、その言葉が現実になることはなかった。

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