【第1章】魔法と能力
その後の食事の味は覚えていない。
考えてみれば当然だ。
俺はミーナとの修行のときに右手で剣を構えて訓練していた。
当然魔法は使用していない。
俺が戦うところを見ていたミーナは当然その違和感に気づいただろう。
そして今。
俺は寝室でミーナと向かい合いどう説明するか考えていた。
「能力は左手から発動するはずです。しかしアルトさんは右手から炎を出していた。これはどういうことですか?」
思わず黙り込んでしまう。
「別に責めてるわけではないんです。アルトさんは私の恩人ですし、何よりもあの戦いは本当にかっこよかったですから。ただ普通の人と違う何かがあるんじゃないかと思ったんです」
もう全てを話してしまったほうがいいのだろうか。
下手にそういう能力だと言い張ったところで左手の紋章を確認されたらバレる。
ミーナを保護してから1ヶ月もたっていないが、それなりに信用できると思う。
むしろ俺以外の他人とまともに話そうとしないところを見ると魔法の話が漏れてしまうことはほぼないだろう。
だが
「・・・一つだけ。君に条件がある」
ミーナが無言で見つめてくる
「これから俺が話すことを君が聞けば君には俺と共にくるか、死ぬか、選んでもらう。」
「・・・え?」
「俺の能力はそれくらい重大なことだ。君がもし俺の能力が他人にばれるようなことがあれば全て口止めさせてもらう」
ミーナが驚愕と困惑ですごい顔をしている。
少し脅しすぎたか?
今はバレたくないだけでもっといろいろ分かってきたら研究書にして誰かに使わせてみるつもりなんだけど。
下手に軍とか教会とかに目をつけられると怖いし。
しばらく思案していたミーナが決意の宿った瞳でこちらを見据える。
「分かりました。これから聞くことはアルトさんの許可がない限り絶対に誰にも話しません。もともとあなたに助けられた命です。最後まであなたについていきます!」
ちょっとドキッとしてしまった。
これは魔法のことであって決して他意はない。
プロポーズみたいにとれなくもないがそうじゃない。
落ち着け。
よし。
「わかった。俺の本当の能力について話そう」
そういって左手の革手を外し、手の甲をミーナに見せる。
「え・・・?紋章が・・・?」
「そうだ。俺は『能ナシ』だ」
「じゃああの炎は・・・」
「あれは・・・『魔法』と呼ばれる力だ」
「ま・・ほう・・・?」
「能力と決定的に違うのは体のどこからでも発動できるし、複数の力を使うことも可能だ」
そういいながら左手と右手を胸の前で近づけ、電流を起こす。
パチッパチッと小さな火花が散る
「俺がどこでこの力を手に入れたのかはまだ話せないがこれが俺の能力の正体だ」
「魔法・・・すごいですね。能力よりもずっといろいろなことができそうです」
「実際君を助けたときもオークの足止めをしたのは土魔法だったからな。どんな力があるのか俺も全部は知らないんだけど」
「俺は冒険者をしながらこの『魔法』について研究している。魔物は実験台にちょうどいいしな」
「なるほど・・・では冒険者証は?」
「ギルドの個人情報管理なんて杜撰だからな。発火能力で通してるよ」
「そうですか・・・」
「改めて言うがこのことは・・・」
「分かっています。話したりしませんよ」
ミーナならたぶん大丈夫だろう。
この子はなんだかんだといいながらも真っ直ぐな子だ。
約束は必ず守る。信じよう。
「さて、明日こそクエストを受けないとな」
「ふふっ、そうですね」
「そのためにも今日は休もう。ミーナも疲れてるだろうから早く休め」
「ええ、それではおやすみなさい。アルトさん」
「ああ、おやすみ」
ミーナはなんだか嬉しそうに寝室から出て行った。
さて、俺もそろそろ寝よう。
ベッドに寝転がるとすぐにアルトはまどろみの中に落ちていった。