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立ち入り禁止区域  作者: 白川れもん
5/6

文化祭

花月視点です

 神戸さんの餃子、凄く美味しかった!

大満足です。量は本当に多くて、本当に大満足でした。


 そう伝えると「良かった」と微笑む。

柔らかく笑うので、私も癒される。



 …………言ってみようかな?

 でも、神戸さん困るかな? 高校の文化祭なんて、行ってもつまらないよね。

 それに、忙しいかもしれない。ん? あれ?


「そういえば、神戸さんって、仕事してるの?」


「え? どうして?」


 にこやかに微笑む。


「いや、なんとなく、かな。この時間に、いるから」


「僕の仕事は、えっと、花月ちゃんの学校と、ほとんど同じ時間帯なんだ」


「そうなんだ。じゃあ土日は休み? どんな仕事?」


「……ペットサロンで働いているよ。ドッグビューティーって所。僕はトリマーじゃないけど、たまに働かせてもらっている」


 ふわふわとした雰囲気で話してくれるけど、少し困惑の色も見えたから、もしかしたら触れてはいけない内容だったのかな、と不安になった。けど、大丈夫みたい。


 でも、どこかで聞いたような気がする。ペットサロンの名前。どこだっけ? ……あ、もしかして!


「そのペットサロンって、私の家の近くにもある気がする」


「そうなの? ここから三駅先なんだけど……」


 神戸さんが教えてくれたその場所は、なんと、私の家の直ぐ近くだった! なんていう偶然!


 私、記憶力は良い方だと思ってる。でも確か、あのペットサロンは、あまり繁盛していないはず。

その上、オーナーを見た人はいないって噂が流れるくらい、外面が悪かったと思う。なにせ広告も宣伝も一切しないのだ。


 大丈夫なのかな、そんな所で働いて……でも、あそこで働いているなら、このビル生活も納得かも。

 神戸さん可哀想。転職した方が……。


「私、犬飼ってないから、機会無いけど……今度行ってみたいな。動物好きだから!」


「ああ、良いよ。僕が出勤する日は教えるね。お客さん少ないから、あんまり犬も来ないけど、そうだな……犬三匹連れてくる馴染みの客がいてね。その日に教えてあげようかな」


「犬三匹!」


 どんな人だろう? 三匹も飼っている人、近所にはいないから、きっとお金持ちなんだろうな。

 ふわふわで高級感溢れる服を来た、犬に違いない。


 そう伝えると、神戸さんは困った様に微笑んで「そんな犬じゃないよ。ただのチワワの雄、三匹だから」


「チワワなんですか。それも、みーんな雄?」


「そうだよ。飼い主がね、雄好きで。雌はどうも、無理みたい」


 飼い主も雄なのにね。と苦笑していた。

 犬を飼うのに性別は関係あるのかな? そういう言い方をされると、まるで飼い主は同性愛者なのだと聞こえる。

 そういえば、神戸さんは彼女いるのかな? もし、いるのなら、私めちゃくちゃ迷惑なのでは?


「あの、神戸さん?」


「ん? なあに?」


 少しドキドキしながら改めて、声を掛けたら、思いの外満面な笑みで返されてしまった。

 先程よりも鼓動が早まる。あれ、そういえば、私は何故ドキドキしてるんだろう?

 ただ、彼女いるのか聞くだけなのに……。


「その、彼女さん、とかは? い、いいいらっしゃるのでしょうか」


 どうした私? 変な日本語になった。どうして急に敬語? そして噛みまくった。恥ずかしい。顔に血が集まる。

 それは神戸さんも感じたのだろう。少し目を見開くと「どうして敬語?」と笑った。

 更に動揺する。


「あ、えっと、ええっと、私、邪魔かなと、思いまして。今更ですけども」


 そうだよ、今更じゃん。

 神戸さんは絶対モテそうだし、彼女いるに決まってる! それなのに、本当に今更だよ。もっとさ、気を使おうよ、私! 神戸さんの優しさと食べ物にテンション上げてる場合じゃない。

 いくら友達でも、生物学的に、男女な訳だし、ね。


「ふふ、本当に面白いね、花月ちゃん。大丈夫、僕に彼女なんているわけ無いよ」


 本当に嬉しそうに、笑いを堪えているみたいだった。


「え、いないんですか?」


「うん。恥ずかしいけど、僕、モテないんだ」


「はぁ、え、ん?」


 モテない? 何を、どんな顔の人間が言った? いやいやいや、モテるだろう。嘘つけ。

 そう思っているのが伝わったのか、顔に出ていたのか、神戸さんは「だって」と告げた。


「だって僕、告白されたことないもの。僕からも、したこと無いけどね」


「え、冗談、ですか」


「いや? 本当にモテない。好かれないのかもしれないね。だから、友達は初めてなんだ」


 ふわり、と花が咲くかのように健気な微笑みを見せた。

 ああ、そんな事言われたら、私、彼女とか気にしてたの馬鹿みたい! 恥じろ、己の醜さを恥じろ、花月。

 神戸さんは純粋なんだよ、友達として頑張ろう、私。全力で尽くそう!


「神戸さん! 私たちは一生友達だよ。何かあったら、直ぐに、何でも言ってね!」


「え、う、うん」


 それは困るかな? と呟いていた神戸さんの手を取り、硬く握り締めた。

 気押されていた神戸さんも、私の熱意が伝わったのか「ありがとう、末永くよろしくね」と笑った。



 外が薄暗くなった頃、神戸さんはまた駅まで送ってくれた。

 もうすぐ駅に着く。そんなとき。


「今日、学校の授業何だったの? 英語かな? 懐かしいなー」


 神戸さんの言葉で、思い出した、文化祭の存在。


「今週末、文化祭なんです。だから、今は勉強無くて」


「文化祭? それも懐かしいなー。何かやるの?」


「うん。お化け屋敷なの」


「お化け屋敷? 怖そうだね」


 そう言いながらも、全然怖がっていない横顔を見て、なんだか怖がらせてみたい。

 神戸さんに怖いものなんてあるのかな?

 身体も細身だし、筋肉もそんなに無さそうにみえるけど、怖がる想像は出来ないかもしれない。いつも笑っているからかな?


「私、脅かす役なんだよ!」


「え? 花月ちゃんがお化けなの? 見てみたいなあ。僕も行こうかな」


「神戸さん来る? いいよ! 案内する!」


「本当? じゃあ、お願いしようかな」


 友達が私の学校に来るなんて! 初めてだ。

 友達ってどう接するか分からないけど、たぶん案内とかするんだよね?

 わぁ、私の方が楽しみだ!

 神戸さんが来てくれるなんて!


「じゃあ、また後で連絡するね。気を付けて帰るんだよ?」


「はーい!」


 笑顔で手を振ると、私は改札を通った。



 家の近くにある、神戸さんが働いていると言っていたペットサロンの前。

 ドッグビューティー。

 こんな所に勤めているんだなあ、と思って見上げていた。


「…………」


 ん? 誰かの視線を感じて探すと、髪の長い人が立ってこちらを見ていた。


 ひっ! 声が出そうになるのを堪える。

 真っ黒。何かが光ったと思ったら、眼鏡を掛けているらしい。


 誰だろう? 身長的には男性だろうか。でも、髪の長さは女性だ。

 ただひたすらにこちらを見ている。たぶん。髪で目が見えないが。え、私、何かした?


「あ、あの?」


 何か用事があるのかと思い、なんとか声を掛けた。ヤバかったら走って家に逃げよう。ここから直ぐだし。


「……大変だな」


「え? わ、私ですか?」


「……何でもない」


 それだけ言うと、素早い動きで建物へ入って行った。


 え、ドッグビューティーに入ったけど、まさか、あの人。

 噂のオーナーさん?


「…………いやいや、無い、よね?」



 でも、あの見た目なら、どんなに経営が悪くても神戸さんを雇い続けるのは納得。

 神戸さん愛想良いし。


 神戸さんも大変だな。


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