俺と彼女の罪状認否
即興小説から。お題は「ラストは冤罪」で、制限時間30分でした。
俺と彼女は先輩と後輩の間柄だった。とはいえ、同学年だ。趣味は写真で、俺たちは同じカメラサークルの仲間だった。俺は二年の途中から唐突に写真に目覚めてサークルに飛び込んできた立場で、彼女からはアングルや光源など様々な技術を教えてもらったのだ。
彼女の写真は綺麗だった。決して斬新ではないけれど、日常の中でハッとするような一瞬をとらえるのが得意だった。何よりも彼女自身が、瞬間瞬間でハッとするような綺麗な表情を見せるので、俺は一時期写真よりも彼女の綺麗な瞬間を見逃したくない一心でサークルの会合に足しげく通っていたほどだ。
思い余って告白をしたのが半年前。
「私たち、友達同士の方が上手くいくと思うわよ。大体、私には彼氏がいるし」
あっさりフられた。
あまりにあっさりとフられてしまったので、あとくされがなかった。俺は自分でも意外に思うくらい写真にはまっていたようで、女にフられたからといって辞めるなんて悔しいしもったいないと思えた。コンペに送った写真の結果もまだ知らなかったし。まぁ、選外だったわけだけど。そんなこんなで、なあなあのまま俺はサークルに居座り、彼女ともただの友達のままずるずると付き合いを続けていた。
そんな関係が変わったのは、彼女が恋人と別れてからだ。
「もう、あいつ酷いのよ! あいつの方から言い寄ってきて、それで付き合ったのに、昔好きだった子に告白されて心が動いたから別れるだなんて!」
撮影会帰りの飲み会。さっぱりとした性格の彼女には珍しく、かなりくだをまいていた。ぐちぐちと言っても、めそめそ泣いたりしないのは彼女らしいとも言えるが。
「男ってそうよねー。相手が自分に気があると思ったら、急に気が大きくなるのよ!」
女子のサークルメンバーが、口々に彼女の元恋人に文句をつけながら酒を煽っている。他人の失恋で酒が美味いようだ。
心変わりをしたことについては俺がどうこう言うことでもないが、新しい恋人に乗り換える前に前の恋人との関係を清算していく辺りは、ある意味誠意を見せている気もする。
「ねぇ、あんたらも何かコメントしなさいよ」
だいぶ酒が入ったせいか、女子の話題の矛先が急に男子の方にも向けられた。
「え、いや……まだ二股する野郎じゃなくて良かったんじゃねーの?」
サークルリーダーが大体俺と似たような見解を述べたが、案の定女性陣からは大ブーイングだった。うわぁ、面倒くせぇ。
「あんたも何か言いなさいよ」
もしかして納得いくコメントが出るまで男子全員を問い詰める気かよ。若干の面倒くささも感じつつ、そんな流れに当の彼女が若干困惑気味の顔をしていたので、俺は答えてやることにした。ずっと言いたかったけど、言えずにもやもやしていたことを。
「俺としては……そうだな。俺のことをフっておいて今でもオトモダチのままでいる君も大概罪な女だと思うね」
まさか飲み会の席でそんなことを言われるなんて思わなかったのだろう。彼女は顔を真っ赤にして言い捨てた。
「え、冤罪よ」
「どうかな」
「冤罪だってば。私、彼氏がいた時には告白されてもフったでしょ!?」
「彼氏いなかったらOKだったんなら、きちんと君との関係清算した彼のこと、責められなくない?」
ついでに、今だったらOKともとれるけど?
女子連中がなんのかんのと言ってきたが、顔を真っ赤にした彼女を見られて溜飲が下がったのでよしとしよう。
彼女はもう、恋人がいない。
俺が彼女に再アプローチしたところで、それを責められるのは冤罪というものだ。
まぁ、二股かけなかったら、いいんじゃない。どっちも。