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「だから余は王子様ではなく王だ」
「王…様…」
「様などつけずともいい。何なら名前で呼ぶか?」
王様、王様。人間社会の偉い人!
わたしの持っている少ない知識の中でも、辛うじてそれだけわかりました。
ぶぶぶんっと首を横に強く振って、めっそうもありませんというのを体現します。
…王子様も、偉い人ですね。
色々と足りない子だなって事を自覚しました。
勢い良すぎて、バランスを崩して転がってしまいましたし。
わたしの転がった姿が面白かったらしく、王様は笑っていらっしゃいました。一度は声を堪えようと成されたんですけど、こらえきれない程に面白かったみたいです。まぁ、笑われたと言っても、王様の笑い方は「くっ」って堪える程度でしたけれど。そういえば王子様もおんなじようにしてこの前笑っていらっしゃいました。確かに笑い方、似ていらっしゃいますね。
「王様が、良いです。お呼びしやすいのです」
「そうか? まあ、余の名というかオリジナルの名は長いし、愛称は二人きりの時に妃にしか呼ばせぬと約束しておるから無理か」
「お妃様…?」
王様のお言葉通りなら、お妃様がいらっしゃるという事でしょうか? きょろきょろと見回しますが、王様以外の青銅色は見えません。鳥目だから、というわけではないみたいです。
「妃は今浮気中だ。当てつけのごとくデートだと言っていたからな。ツバメ。時間があるなら余の話し相手にならんか?」
「え、でもあの」
「そなたの話を聞いてやったのだ。余の話を聞いてもばちは当たらんと思うぞ? それに、大泣きして飛び出してきたというのに今すぐ王子の所へ帰るのか? そのそも余の顔も満足に見えとらんその視界で帰れるのか? 今度何かにぶつかっても、余は助けてはやれんぞ?」
畳みかけるようなお言葉には、この場の辞退を引き止めるものと、わたしの力量が含まれていました。
…やみくもに飛んでて、王様に激突しかけたんですよね。わたし。
頭からぶつかっていったのを、激突寸前につかまえてくださったわけです。首の骨が折れたら痛いじゃ済まないとも教えていただきました。
王子様の所と違って、雨避けの無い台座。金の一欠片も、一粒の宝石もない銅像の王様のいらっしゃる場所は、見上げれば夜空がよく見えます。
暗いばかりだったはずの空は、一部が本当に微かに白みはじめていて、夜明けが僅かながら近づいていることを教えてくれていました。
少しだけお話を聞いて、わたしが飛べるくらい明るくなったら、森へ行きましょう。ゴハンを食べに。それと家族を探さなくちゃ。
わたしはそう決めて、王様の手のひらの上にきちんと座りなおしました。
王子様の所へ帰るという予定は、まだ組み込む事が出来ませんでした……。




