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「うるさいっ!!」
綺麗なボーイソプラノの声が、荒く乱れてわたしの脳裏に鳴り響きました。
開いたはずの視界は暗くて、しかもどうやらぼやけているようでした。鳥目なはずなのに視界がぼやけているのが分かったのは、暗闇でも微かに金色の物体が見えたからです。ぼやぼやですが。
「…王子様?」
「お前、寝穢いしうるさい」
「いぎたないってなんですか?」
首を横に振って眦にたまった涙を払えば、視界の潤みは少しマシになりました。
「寝相が悪いって意味だ」
不良すぎる視界をそれでも凝らしてみれば、確かにと頷かずにはいられませんでした。
思いの外王子様の近くにいます。記憶が確かならば、もっと端で眠ったはずです。寝返りを打ったんです、と言い訳するにしても、移動距離が……わたしの身体五つ分くらい、ここよりも端で寝ていたつもりなのに。
それでも、夜の間、台座にさえ触れていれば自由に動ける王子様の活動範囲への侵入はしていませんでした。王子様の手も足もまだ届かない範囲なので直接的にご迷惑はおかけしていないと思いますが、お目汚ししたのだと言われればそうなのかもしれません。
「寝てるくせにぐずぐず泣いて、うるさいったらないな」
それ以上にお耳を汚してしまったようです。
すみません、と謝った声は鼻声で、それがご不快だったのか王子様のサファイアが細くなりました。満月が半月になるくらいの変化でした。王子様の胸のあたりでしょうか、ぶんぶんと揺れるルビー…杖を振っていらっしゃるご様子。
ご不快にさせてしまっただけではなく、怒らせてしまったのかもしれません。
「おい、なんで泣いてたのか」
「も、申し訳ありませんでしたっ」
ものすごく居たたまれなくて、何か言おうとした王子様を遮って丁寧なごめんなさいを伝えて、今がまだ夜で、わたしが鳥目である事は充分わかっていたのだけれど、気付けば王子様のいる方向とは真逆に飛び出していました。
だからどうか、あなたもわたしの事をいらないとは言わないで。




