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ツバメと王子


 なんだかにぎやかな気がして目を覚ますと、王妃様がいらっしゃいました。しかもここ、王子様の所です。

 あれ? 今夜は王様の所にお泊りしていたはずなのですが?


 王子様に尋ねたのに、王妃様が答えてくださりました。

 王妃様がわたしにお話してくださるなんて――びっくりです。というかですね、


「王妃様は歩けるんですか?」


 なんて事が気になりました。だって王子様も王様も台座から動けないのに。魔法使い様も傍にはいらっしゃいませんし。

 …いらっしゃいませんよね? 見回してみてもわたしの視力では見えないです。


「それも含めて今から話すの」


 お話を聞くんですね。分かりました、静かにしてます。



 ただいま、王子様のお膝の上でお勉強中です。クッションの代わりにベッドのタオルを敷いていただいています。

「……王妃様は王子様達と違う?」

「そう。彼らは記憶を写しただけで、私には私の魂そのものがこの身体に込められているの」

 お月様が綺麗に輝いているおかげなのか、夜の割にお顔がはっきり見えました。青銅色だけの王妃様のお顔は苦笑していらっしゃいます。


 噛み砕いていただいたご説明曰く、王妃様は元々この世界の方ではないそうです。

 黒色の髪と瞳で、珍しい容姿をしていた、というのは王子様のお言葉です。居ないわけではないそうですが、両方とも真っ黒と言うのは珍しいそうです。


 この世界では、魂は巡って生まれ変わる? そうです。けれど、王妃様の魂は元々違う世界のもの。だからその理には当てはまらなかった結果、魔法使い様が王妃様の魂を銅像に入れる事にしたそうです。以前王妃様が魔法使い様にあげてしまったたくさんの魔力と共に。


 魂があるから王妃様が王様や王子様と違うという事ですね。


 今の夫は私の為に作られた夫で、真実本物の夫とはちょっと違うの――そんな説明も王妃様はしてくださったのですが、それはよくわかりませんでした。

 だって、「王妃様、王様の事本当は好きじゃないんですか?」ってお聞きしたら、「いいえ、どんな姿でも夫である事に違いないもの。大好きよ」っておっしゃるんです。

 同じじゃないのに、王様である事に違いはない? …王妃様むずかしすぎます。


「こら、ちゃんと話を聞きなさい」

「ひゃい!」

 わたしが一生懸命に考えている間、王妃様のお話が続いていたようです。大きな声にびっくりして声をあげると、ちょっとだけですが笑い声が聞こえました。王子様、聞こえてますよっ!

「わ、笑うなんてひどいです!」

「酷くない。そもそも人の話を聞かないお前が悪いんだろう」

「二人共、よ?」

 ちょっと王妃様の声が低くなりました。それにびっくりして静かにします。お話聞きます。王子様もすぐに静かになさっていました。唇が動いてはいらっしゃいますが、声は出しておられません。

 なんておっしゃって――あれ、どうしてわたし、王子様の唇の動きが分かるんでしょう?

 真ん丸お月様のおかげで、確かに今夜は明るいです。でも、お体の金色とおめめの色が違うくらいしか夜のわたしは分からないはずだったのに。金色一色の唇なんて分からないはずです。お口の中も金色ですから。

「あれ? どうしてお口の動きが見えるんでしょう?」

「だから、話を聞けって言ってるの」

 先程同様の女性ではなかなか珍しい低音でのお言葉でした。言葉遣いも含めて、なんだか男の人みたいです。

 びっくりして固まるわたしの目の前で、王妃様は咳払いを一つなさいました。

「話を続けますね」

 はい、どうぞ。

「まどろっこしいから端的に話せ。結局自分には生前と変わらない位に魔力があるって自慢だろ?」

「あのね、私は使い魔の為に説明してるの。知ってる人は黙ってなさい」

「長くなるのは迷惑だから今回は簡潔に済ませろ。どうせその説明が本題じゃないんだろ」

「それは…そうだけど」

「ほらみろ。こんなにとろとろ話してたら、説明が終わる前に夜が明ける。いいか? 王妃は昔、ものすごい魔法使いになれるだけの力があったんだ。色々あってそれをこの間来た魔法使いに譲ったんだが、銅像になった時に魔法使いにあげていた力を取り戻した。公園の中を自由に出歩けるのも王妃がすごい魔法使いだからだ」

 説明にわたしの理解が追いつきません。目をくるくる回しかけていたわたしを見て、王子様は「王妃がすごい魔法使いだってことだけ分かれ」と仰いました。

了解です。

「魔法使いは大抵使い魔を従えるものなのよ。ツバメが会った魔法使いにも居るの」

「フクロウさんの事ですか?」

 わたしよりもずっと大きな鳥さんでした。ちょっと怖かったです。

 フクロウさんの姿を思い出して、ぶるると身震いしてしまいました。

 おんなじ鳥のはずなのに、わたしとは全然違います。

「そう。アレが魔法使いの使い魔。私にも同じように使い魔を従えていたの。黒猫とツバメ―――あなたの先祖のね」






 わたしのご先祖様は、魔法使いでもあった王妃様にお仕えしていたという事らしいです。

 跡継ぎには王妃様の魔力の色の脚環が生まれた時からあるのだとか。そしてわたしの脚にあるのがその脚環だという事は、

「わたし、王妃様にお仕えするってことですか?」

 脚環を見ながら説明を聞いていましたが、気付いた可能性に視線を王妃様へと向けました。仕える――なんてした事ないです。

「そんな小さな体で雑用が出来るとは思わないわ。お花を摘みに行くのが精々でしょう。傍にいておしゃべりの相手をしてくれればいいわ」

 なんと、お仕事ができないって言われてしまいました。小さいのは事実ですけど……。

「好きでちっちゃいわけじゃありません」

 半べそになりながら主張します。役立たずと思われるのは嫌です。

「小さいのは仕方ないのよ。あなたの魔力、使い魔にしては多すぎるんだもの」

「は?」

「魔力…わたしの?」

 ため息を吐いて仰った王妃様の言葉にぽかんとしました。王子様も驚いていらっしゃる様子です。

「脚環は確かに私の使い魔である印よ。でもね、それなら仔が生まれた後に付ければいいの。それを子孫への強制永続契約にしたのはツバメ側にも理由があったからよ」

「理由…? 面倒だっただけじゃないのか?」

「アニスにはしなかったわ。カレーゼだけよ」

「アニス? カレーゼ?」

「王妃の初代使い魔の名前だ。黒猫の名がアニス。カレーゼはツバメの名前だ」

 王子様のお話をコクコク頷きながら聞きました。

「カレーゼもあなたのように小さな体だったわ」

 小さかった?

「理由はあなたと一緒よ。身体に見合わない位に魔力を産生してしまって、成長に使われるべきエネルギーを確保できなかった。ただただ産生しても垂れ流す魔力の為に栄養を盗られてばかりだったからあの仔もやっぱり小さかったわ。元々そういう血筋だったのよ」

「こいつより…?」

「いいえさすがにここまで小さくはないわ。カレーゼは獲物を採るのが上手だったから」

 王妃様の使い魔となったカレーゼ…おじいちゃん? おばあちゃん? どっちなんでしょう?

「私の脚環は、膨大に作りだす魔力を調整する役割もあるの。成鳥になって落ち着くまで……落ち着けば、脚環は本来の大きさになるわ。魔力の量に応じて、脚環は大きくなってしまうのよ」

 王妃様のおっしゃる調整というのが無ければ、魔力の産生にエネルギー消費とやらが使われ過ぎて、わたしが死んでしまう可能性もあるのだと言われました。

 よくわからず首を傾げるわたしとは対照的に、王子様の表情は優れません。って、

「それが夜なのに見えることに関係しているんですか?」

「魔力が安定し始めた証拠よ。使いこなせれば夜目も効くようになるわ。とりあえず問題は本契約ね」

「本?」

「永続契約は今説明した通り、ツバメの身体を守る事が目的なの。正真正銘私に仕えるという時には名をもっての契約を重ねて行うのよ」

 永続契約と言っても、ずっと王妃様が主人だったわけではないらしいです。魔力を魔法使い様に譲った後、銅像の王妃様になられるまでの間の主人は王妃様の魔力を持つ魔法使い様だったとか。ただ、その頃には当時の使い魔だったわたしのご先祖が既に行方不明になっておられたようですけれど。永続契約が途切れることなく続いていたという事です。調整が必要なくらいに魔力を持ったツバメにしか脚環が現れなかったから、わたしの家系も代々起こる現象だって言い伝わってないんだろうと言われました。理解はできてきませんが。

「契約、しなきゃダメですか?」

「嫌なの?」

 質問したら逆に聞き返されてしまいました。んー、と考えつつ、首を傾げます。

「わたし、名前ありませんよ?」

「好きにつければいいじゃない? 渋る理由はそれだけ?」

 名前が無い事については単なる確認です。

 なりたくないというよりは…なんでしょう。

「契約して、王妃様の使い魔になったら、ずっと王妃様の傍に居るんですか?」

「私の使い魔ですもの。夫と遊ぶのくらいは別にかまわないわ」

「…………王子様は?」

 王妃様は王様と遊ぶのは良いとおっしゃって下さいました。でも、それって王妃様が王様と一緒の所にいらっしゃるからですよね?

 王子様は王妃様達から少し離れたところにいらっしゃいます。王妃様の傍にずっといなくちゃならなくなったら、王子様の所にはこられなくなっちゃいます。

 堪らず視線を王子様へと向けていました。

 ただ、言葉は続きません。王子様はわたしが視線を向けた事にちょっと驚かれた様子でしたが、それだけです。

 会えなくなるのは嫌、と思うのはわたしだけのようでした。

 そうですよね。寝穢いとかおっしゃっておられましたものね。わたしが居ない方が清々されるんですよね。

「この子にも『時々』会いたいの?」

 王妃様、にっこり笑っての質問です。

 時々…時々? 毎日、じゃ、なくて、2・3日に一回くらい?

「十年に一度くらい」

「長すぎますっ!!」

「ツバメの最長寿命が8年って分かった上で言ってるだろう」

 王子様が王妃様に何かおっしゃっておられますが、それどころじゃありません。

 十年――が、実際にどれくらい長いかはわかりません。でも、わたしまだ一歳の誕生日過ぎてないんです。十年って、わたしが生まれてから今日までの長さの感覚を十回以上繰り返すって事ですよね? そんなの会えないとの一緒ですっ!

「そんなに会えないのやー!!」

 ボロボロこぼれた涙に構う余裕はなくて、慌てて王妃様から逃げました。捕まったら、連れて行かれてしまうに違いありませんっ!

 バスケットの中に逃げ込んでいてはダメです。籠城していても、バスケットごと連れて行かれてしまう可能性高すぎます。

 逃げるなら外、ですけど、今の時間は魔法の所為で公園の外には出られません。

「王子様、かくまってください」

 王妃様の目の前で匿ってくださいと発言している時点で匿ってはいないのですが、それに気付く余裕はありませんでした。

 幸いにも王子様が快諾してくださるようでしたので、差し出された手のひらの上に乗ります。スーッと移動して、

「はれ?」

 ガポンと、視界が黒くなりました。しかも狭い…王子様? かくまってくださいと言いましたけど。

「ふ…あ、あはははっ」

 状況の把握に努めているわたしの耳に、王妃様の笑い声が聞こえてきました。壁一枚隔てている所為かちょっと声が遠く感じます。

「面白い、傑作すぎる」

 でも、笑い声は聞こえ続けています。その間に聞こえた言葉は、説明か何かでしょうか?

「台座から逃げられないクセに本気で匿おうとか…王冠の中に隠すとかどれだけベタ惚れなの?」

「うるさいっ!」

 唸るような王子様の声にあわせて、ぐらりと足元が揺れてよろめきました。王子様が喋られた時に身体が動かれたようです。

 王妃様と王子様の応報が絶えず聞こえて続けています。

 王妃様の声からは剣呑とした感じはしないですけど、気になります。






 王冠と王子様の頭の隙間からわたしがこっそり顔をのぞかせたのは、お二人の口げんかがひと段落ついてからでした。

 王妃様がからかって、王子様がそれに反論して、を1サイクル。それを何度も繰り返した後の事です。

 王妃様、なんだかすっきりされた表情なさってます。対する王子様はピリピリしてるみたいです。まだ王子様の頭の上に居るので、ちゃんとお顔が見えませんが。

 …大丈夫ですか?

「おい」

「ぴゃい!?」

 にゅっと伸びてきた王子様の手につかまれて、王冠の下から連れ出されました。

「目の前で、嫌だって言え」

「いや? 何にです?」

「王妃に、「お前の使い魔になるなんてまっぴらごめんだ」って言え」

「嫌っていうんじゃないんですか?」

 ものすごく言う事が増えています。それに、王妃様をお前って呼ぶのはダメですよ。

 さっきは随分と取り乱してしまいましたけど、王子様の王冠の中に居る間に少し落ち着きました。

 使い魔になったら王子様に会えなくなるのは嫌ですけど…でも、王妃様の脚環がわたしにある以上、本契約とやらをしなくても王妃様と一緒に居るのが自然なんでしょうね。

 すりっ…と顔をすり寄せた王子様の感触は当然ながら硬いです。温かいから暑いという季節にそろそろなりますが、時間が経っている所為か、普段から日陰にいらっしゃるからなのか、そんなに温かくはないです。王様は夕暮れだと結構温かいんですよ。

「ああもう本当に」

「?」

「話が進まない。もういいわ。下手に出てお願いするのが見たかったんだけど、どれだけかかるか分からないし」

 王子様の手の中に居る私の周りに、おぼろげな光の帯が現れました。

 くるくるとわたしの周りを回って消えたと思ったら、今度は足元に光。帯じゃなくて、模様のようなものが輝いて、そして消えてしまいました。

 王妃様がなされた事だとは分かるのですが、なんだったのでしょう?

「何した?」

「何よその目、失礼ね。お礼を言われこそすれ、睨まれるような事はしてないわ」

 何が起きたのでしょうか?

 瞬きしながら自分の姿を見下ろしてみますが、特に変化はありません。

「拘束力は弱いけど、この国の気候に適応できるための魔法をかけてあげたの。感謝なさい」

「魔法を、ですか?」

「あなたたちツバメがこの国に永住しないのは何のため?」

 う? 質問ですか?

「えっと、寒くなってくると、暮らせないからです。ゴハンも採れないし」

「だから、その問題を解決する素晴らしい魔法をかけてあげたのよ。食事に関しては定期的に届けてもらえば済むけど、寒さはタオル程度じゃ防げないでしょう」

 定期的に届けてもらうって魔法使い様の事ですよね?

「そんなに寒いんですか?」

 この国に四季と言うものがあって、秋の後に冬が来るという事を教えてもらいました。去年わたしが居たのは夏の終わりから秋の初めの頃。王妃様が寒いとおっしゃられる冬は未経験です。

「本契約すればその辺も無条件で私の魔法で加護する事が出来るんだけど、この子が嫉妬して面倒だからこれだけね? これでもう渡る必要はないわ。後の問題は寿命かしらねぇ」

「何とかしろ」

「簡単に言わないでちょうだい。カレーゼの時にもしなかったんだから」


 ……………話についていけませんが、どうやらわたし、最終手段としては王子様達のように銅像になる運命のようです。今日は、随分と難しいお話ばかりで疲れました…眠い…。







 次第に眠そうにしていたツバメが眠りに落ちたのは、王妃像がツバメに魔法を掛けてそんなに時間が経っていない頃だった。王妃像が連れて来た時に寝ていたはずだが、どうやら寝足りなかったらしい。

 バスケットからタオルを取り出して、それを脱いだ王冠の中に敷いた。その上にツバメを寝かせるとバスケットの食糧と相部屋のベッドとは違う、ツバメの為のベッドが完成する。

 今の季節なら大腿にタオルを敷くだけでも良いが、冬にはこれでも寒いだろう。

 王妃像がツバメに加護を与えたと告げたのはつい先ほどの事。

 それが『凍死はしない』程度の加護なのか、そうではないのかはまだ聞いていない。

 雨避けがあってもここは野外。冬になれば空気は冷え込むし、北風も吹き込んでくる。もう少しタオルか何かを魔法使いに用意させよう。

「ふふ…こうしてみると童話みたいね」

「童話?」

「ええ。元居た世界では割と有名だったんじゃないかしら? 金と宝石でできた王子の像と渡ってきたツバメの物語よ」

「そのままだな」

 まるで俺達の事を見ているようだと呟けば、王妃像はそれはないと断言しつつ、首を横に振った。

「人間だった私が元の世界で生まれる前から浸透してた童話よ。界渡りした事例が私以外にないし、ありえないわ。第一」

「第一?」

 思わずといった様子で口ごもる王妃の姿は、記憶にある娘の頃の彼女の姿と重なった。愚痴を聞かせに来てはなんだかんだ騒いでいく彼女が、一人でいる俺を王像共々心配しているのは知っている。相手が絶対に本心を出したりしないし、こちらもそれを感謝しているなどという事は絶対に言わないが、お互い特異な身という事で仲間意識みたいなものがあっちにはあるらしい。

 魔法使い以外の仲間が時の流れに従って老いていく姿を過去に見たから、訪問する彼女らが安易に逝ってしまう存在でない事が気を安らげるのは確かだった。

 降って湧いた問題とすればツバメだ。最終案は銅像に――となったが、それは記憶を重ね写すだけで、肉体も魂も死ぬことには変わりない。

「どんな内容だったんだ?」

 王妃像――魂をしっかり持っている彼女には、生前と変わらない名で呼ぶのが本来は相応しいが、「おい」とか「お前」とかしか呼んだ事の無かった俺は、呼びなれないから呼ばない。名を呼ぶことを禁じられてはいないが、呼ばない事を咎めないのだから俺と彼女はこの気安い関係が丁度いい。

 童話の王子とツバメはどういう結末を迎えたんだ?

 ツバメの今後を考える参考になればと尋ねた俺に、王妃像は険しい表情を浮かべて見せた。

「……言わないわ」

「なぜ?」

「悲話だからよ。知る必要もないしょう? もう…芽生えもしない可能性だわ」

 そう言われてしまえば頷くしかなかった。自分達の身の上と似ているらしい物語の結末が楽しいものでないのなら、それは知る必要などない。童話と同じ状況が起こりえないと王妃像が断言するならなおの事だ。


「童話に限った事じゃないけど。私、ハッピーエンドが好きなのよ」

 ぽつりとこぼす王妃の言葉を聞きながら、熟睡しているツバメの身体をそっと撫でた。

「はっぴーえんど?」

 聞き慣れない言葉は、王妃が元居た世界の言葉か。

「最後に「幸せに暮らしましたとさ」で締めくくる展開の事よ」

「ふうん?」

「本当は私の傍に居させたいんだけど、当人があなたを気に入ってるみたいだから諦めてあげる。私には夫が居るしね」

 にやりとした笑いには、言外に感謝しろと告げている。

 そう態度をあからさまにしなければ、素直に感謝の言葉位は継げるんだが…。

「登場人物も多いし、何より童話には魔法が出てこなかったしね。童話と同じ結末にはなりっこないのよ。だからそう、締めくくるなら」

「幸せに暮らしましたとさ?」

 王妃像の言葉を先回りして言えば、彼女は同意しかねると考え込んでいた。

「うーん、なんか違うわ。たしかにそれが締めに使われる童話は多いけど、しっくりこないのよ。王子様がお姫様とくっつく様な童話で多用される印象があるからかしら? 本契約をすればツバメを人化させることもできるけど」

「そんな事が出来るのか?」

 さらりと述べられた情報に驚いた。長く交流がある相手からもたらされた初耳情報だ。驚きを隠せずに問いかける。人化できるようになるというのなら本契約も案外悪くないのかもしれないと考える自分は現金だ。ツバメの性別はよく考えれば今だ知らないが、外見が俺よりも大人にはしないでもらおうと思いつつ、ツバメが人化する姿を想像した。

 想像力を働かせていた俺の顔がにやけてしまっていたらしく、こらえきれないと言った様子で王妃像が噴き出した。

「ふふふふ…悲話、なんて絶対ありえないっ」

 屈託なく笑う彼女は、「逆だわ」と告げる。

 告げられた『締めの言葉』を俺は幼子のように繰り返して言の葉に乗せた。




 ――――それはそれは、しあわせな、王子とツバメのものがたり―――――と。




王妃像「仮に本契約しても人化するかは見極めてからね? ヤンデレ化してつがいを探すのに支障をきたすようならツバメに申し訳が立たないから」

王子像「ヤンデレってなんだっ!?」



************

 これでこのお話は完結になります。はじめての企画モノ参加。一話目の投稿ですら遅刻ギリギリでしたが、夏の間に書き上げることができた己をとりあえずほめておきます。最後は駆け足で書き上げた感が否めませんが…。

 【童話パロ企画】ということで最初に浮かんだのがオスカー・ワイルド作 「幸福な王子」 ツバメとツンデレ王子という構図が書きたかった保高の煩悩の塊が「それはそれは、しあわせな?」となったわけですが、ツンデレ……? 残ってますかね? 最後の最後になぜかヤンデレという言葉も出てきましたが…。ツバメの性別については結局書かずに終わらせることにしました。書いても何ら支障はないのですが、ご想像にお任せします。たぶん皆さんの想像通りです。そういえば名前も…ツバメの名前は王子が一生懸命悩んでつけるんでしょう。王の愛称も王妃の名前もそういえば書かなかった。


 何はともあれ完結ですのでここでお礼を。企画を立案なされましたナツ様・花ゆき様、そしてこんな拙い作品を時間を割いて読んでいただいた物好…奇特な方、本当にありがとうございました。



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