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第05話 3馬鹿トリオの誓い


「われわれ小隊は、大ピンチである!」

大声で話すのは、『隊長』ことレオ=デュラン。

「大ピンチである!」

テンションが高いのは、『ラジオ』ことケン=マッケンジー。

「ほんとに大ピンチだよ!」

一人だけ状況を理解しているのは、『ハカセ』ことレクサ=ヘリス。

とある山の中の岩壁の前で、まだ幼年部の子供達が円陣を組み話し合っている。


暗い中、辺りを見回しても何処が何処だか見当もつかない。

星座を見れば、方角は解るのだが、そんな知識は彼らには無い。

月のないこの世界では月光はなく、星明かりだけであるが、魔素発光現象がある為に夜空は少し明るい。(文末参照)

だからと言って、子供達が夜中に歩くのは危険である。

まして、それが山道なら問題外である。

そんな理屈が解らないのは、当の本人達だけだが、幼いのだから仕方がない。


「お家に帰るぞ!」

すっくと立ち上がった隊長は、歩き出そうとして途方に暮れる。

どっちに行っていいか解らないのだ。

さすがの隊長も、前言を撤回して座り直すしかなかった。


「どうしよう? ママに怒られる」

少し泣き言をいう隊長。

今更それに思い至るなら、山の入り口付近で気付いてほしかったが、後悔は先に立たないものである。

「大丈夫だよ、『知らない場所で迷ったら、じっとしてなさい』って、お母さんが言ってたもん。ぜったい探しに来てくれるよ」

ハカセが、実に的確な意見を述べる。

「隊長、上がってきたんだから下りればいいであります。お母さんに怒られるのは嫌であります」

ラジオのアホの子丸出しの意見は、本当に危ないからやめた方がいい。


「でかした、ラジオ。村に帰るぞ!」

隊長は、どうやら共感する部分があったようだ。

アホの子の中でも少しましなハカセは、驚いて反対する。

「ダメだよ。あぶないよ。魔物が出たらどうするの?」

「魔物なんて、僕の爆裂パンチでいちころさ!」

隊長は、子供向け映画ヒーローのまねをしてポーズを決めるが、もちろんそんな力は無い。


「隊長カッコイイであります」

ラジオのテンションは相変わらず高い。

そうして最後の命令が下る。


「われわれは、村に帰るのだ。お国のためである」

「ためである」

「やめようよ~」

暗い山中に居たくないのと、もう無理だが、親に怒られたくないと言う理由だけで、3人は危険な賭けに出る。

チップは彼らの命そのものだ。


3馬鹿トリオは、手を繋いで心細げに山道を下りて行く。

いや、下りているのか上っているのかも解らないが、ただ早足で前に進む。

彼らが幸運だったのは、この山には魔木がほとんど存在しなかった事であろう。

魔獣も、こんな岩山にはほとんどおらず、別に夜行性では無いので近付かない限りは襲われる心配などない。

ただ、数は少ないが中型の肉食獣は存在しているし、何より山道自体が大変危険なのだ。


2時間程も歩いていたであろうか。

3人の目の前には、深い谷が立ちはだかった。

谷の幅は50m以上はあり、谷底の様子は見えないが、どうやら川が流れているようだ。

水音が谷間に反響し、静かな山の中であるので子供達にもかすかに聞こえる。


「のどが乾いた。水が飲みたい」

隊長が、ぽつりとつぶやく。

「僕もだけど、下りられるのかな?」

ハカセも同様にのどがカラカラなようだ。

「僕はへいき。でもお魚が見てみたい」

人間族であるラジオは、飢えやのどの渇きには強いが、別の理由で谷底に下りる事を希望する。

さすがにこの頃になると、子供達はすっかり元気が無くなり、テンションは最低ランクだが、泣き出さないだけ偉いと言えるだろう。


3人は谷沿いをトボトボ歩き、下に降りられる場所がないか探すが、切り立った崖の為になかなか見つからない。

時間は夜の9時過ぎ、山に入ってから既に三時間以上が経過している。

一つ間違えれば死に直結する境界線沿いを彼らは慎重に歩いて行く。

暗い山の中に、水音と彼らの息遣いだけが聞こえている。

すると、幸運だかどうかは知らないが、谷底に下りられそうな入り組んだ場所に出くわす。


「下りられそうだね」

ハカセの声が弾む。

「のどがカラカラだ」

早速、隊長が駆けだした。

崖のきわまで来ると、恐る恐る下の様子を覗きこむ。

ラジオとハカセも横に並びたち、落ちないように膝をつき、顔だけを突き出して谷底の様子を確認する。

幸いにして、この場所では下まで20m程、川幅は10mくらいで谷幅も狭いが、岩が崩れて入り組み、川面に突き出し、下りる事も水を汲む事も出来そうだ。


3馬鹿達は、喜び勇んで崖を下りて行く。

暗い中なのに危なげのない足取りは、子猿のように軽快だ。

数分で谷底に着くと、まずは、のどの渇きを潤す。

一息つくと、隊長はハカセに相談する。


「船を作って、村まで行けないかな?」

確かに村のすぐ近くに川が流れているが、この川とはつながってない事実を彼らは知らない。

そもそも、材料も道具も無いくせに、思いつきでそんな事を言っても実現不可能である。

それ以前に、それは自殺行為に等しい。

「船は無理だけど、丸太船なら出来るかも?」

そう言ってハカセが指差したのは、岩の間に挟まっていた長さ1m程の流木だった。

隊長とハカセは流木に近づき、二人で持ちあげる。

直径が20cm以上もあるので、子供達にとっては結構重い。

岩の上に、転がらないように丁寧に下ろすと、手をパンパンとはたいて汚れを落とす。


「これ一個だけじゃ、全員はムリだな。ハカセ行くか?」

ハカセはとんでもないという様子で、両掌を前に出しブルブルと振る。

「僕は泳げないよ。隊長は?」

「僕も泳げない。ラジオはどうだ?」

二人から離れて川の中を覗き込んでいたラジオは、当然話など聞いちゃいない。


「お魚いないよ。暗くて見えない」:

「嘘つくなよ、川には魚がいるってパパが言ってたぞ」

流木を放り出して、ラジオの横に行き、隊長も魚を探す。

ハカセも仲間はずれは嫌とばかりに横に並び、水面を覗きこむ。

3人は、しばらく無我夢中で魚を探すが見つからなかった。


しばらくすると、真っ先に飽きた隊長が急に大声を出す。

「この場所は気に入った。僕達の秘密基地にする!」

「「おぉー」」と思わず拍手をする二人。

「いいか、ここは秘密基地一号だ」

「賛成!」

「賛成の反対の賛成!」

3馬鹿達は、大声で笑い合う。

これにて目的は達成されたのだ。


興奮してひとしきり盛り上がった後、何となく3馬鹿は大岩の前に集まり、ガリガリと何だか真剣な表情でやっている。

用事が終わると、3人はハイタッチをして楽しげな歌を歌う。

その後は直ぐお開きになり、二度とは来れないだろう秘密基地を後にして、3人は崖を上っていった。


彼ら以外は誰も知らない秘密が、今日は二つも出来た。

一つはお気に入りの秘密基地が出来た事、もう一つは秘密基地内にある一番大きな岩に、石をこすりつけて書いた秘密だ。

『レオ』『レクサ』『ケン』の名前の後に『永久に友達』と書かれた親友の誓い。

例え雨風にさらされ、その文字は消えても、彼らの心には文字通り永久に残るだろう。


―――――――――――――――――――――――――


時間は少しさかのぼる。

ステラ村では、大騒動が起こっていた。

まず最初に異変に気付いたのは、ケンの母親であるルル=リンクであった。

午後6時半を過ぎても帰ってこない我が子を心配して、デュランの店に迎えに行ったのだ。

応対に出た主人は、息子の不在を彼女に伝えた。

「腹がへったら帰ってくるさ」

確かにそうだとは思ったが、虫の知らせだろうか、どうにも不安がぬぐえず、次にレクサの家に行く。

その時、時刻は7時を回っていたので、辺りはもう暗くなっており、レクサの母親も心配していたそうだ。

「心当たりを探して見ます」と言ってくれた。

ルルも、思いつく限りの息子達の遊び場を探してみるが、当然見つからない。

さすがにただ事ではないと感じ始めた時に、ステラ村に警報が響き渡った。



夜の八時過ぎに、ステラ村の集会所に大人達が集まっていた。

ステラ村の村長である人間族の男、ムトンボ=デュクラは椅子に座り、重苦しい表情を浮かべている。

その前で、必死に頭を下げて謝る今日の警備担当の獣人の男がいる。

「頭を上げなさい。確かに君のした事は完璧な対応ではないが、それほど非難される物では無い」


その時、集会所のドアが開き、レクサ=ヘリスの両親が現れた。

レクサの父親は、村長の前に立つと報告を始める。

「村長、恐らく間違いない。東側の空堀に子供達の足跡が残っていた。子供達は村の外だ!」

更に深刻な表情をする村長は、重々しく話し出す。

「親御さんたちは、3人が何処へ行ったか予想がつくかね?」

この場所には、3人の両親が勢ぞろいしていたが、誰からも意見が上がらない。

まあ、予想がつかないのは当然だろう。

村の外に行きたいという子供はいるが、子供だけで行くなんて場合は親に言ったりしない上に、彼らの思考は独特なのだ。


村長は、親達を見回すとレクサの父親に向かい質問する。

「どちらの方角に向かったか解らんのかね? 足跡は残っていなかったのかね?」

「はっきりした事は解りませんが、足跡らしきものが山に向かっていました。恐らく間違いないと思います。」

「と言う事は、子供達は山に居るのだろうね。何のため?と言うのは彼らの場合は考えるだけ無駄だろう。結界に反応があったのは、午後5時を少し超えた辺りと聞いている。3時間ならそれほど遠くに行っていないだろう。山の中を移動していなければだが」


「本当にすまん事です。あの時、わしが気付いていれば、こんな大事には!」

何度も頭を下げ、最大級の謝意を表す警備担当の獣人の男に対し、ケンの父親であるダン=マッケンジーが近付き、その肩に手を置き頭を上げさせる。

「謝る必要はありませんよ。外から来る魔物に気を付けるのがあなたの任務だから、中から外に出る子供に気付かないのは仕方ありません。そんな馬鹿は、普通はいませんから。でも、馬鹿な子供でも親にとっては可愛いんです。息子達を探すのを出来れば手伝ってくださいませんか?」

「もちろんです!」


その様子を見ていたデュクラ村長は、決断する。

「山狩りを行う。捜索は、飛行魔術が得意な者を中心とする。公用車を含め、飛空車は全て徴用する。それ以外の者は、チームを組んで指示を待つように。さあ、始めるぞ!」

集会所に集まった大人達は、「おう」と声を上げ、それぞれの役目をこなすべく、その場を後にした。


―――――――――――――――――――――――――


夜十時を過ぎると、さすがに三人とも疲れ果て、村に帰るのをあきらめて比較的大きな木の下に座り込んでいた。

「ねむたい。少しさむい」

ハカセが一番疲れているようだ。

「僕も、ちょっと寒い」

ラジオは、一番元気かもしれない。

「僕もねむたい」

一番眠たいのは、隊長のようだ。

幸いにして今は夏の終わりで気温も高いはずだが、山の上が少し寒いのは仕方がない。

3人は寄り添って暖を取る。


「女神様が呼んでいる」と突然話すラジオ。

「おしっこくらい普通に言えよ」

「女神様はおしっこしないよ」

隊長とハカセの突っ込みを受けて、ラジオは不安そうな表情で話す。

「いっしょに来て」


普通なら連れションしただろうが、二人はもうへとへとだった。

「おしっこくらい、そこでしろよ」

「ごめん、ラジオ。僕もう寝る」

寂しそうな表情で、その場を立ち去るラジオ。

一人で行くのは不安だったが、仕方なしに少し離れた場所で用を足す。

寂しくて、『トイ○の神様』の歌を歌っていたのは、二人には秘密だ。

日本語で歌っても、2人には意味など解らないだろうが。


すっきりした後、仲間の元に戻ろうとした時、茂みがガサガサと音を立てているのに気付く。

「だれ?」

すると、ほんの5m先に、子鹿に似た獣が姿を現した。

視線が合うと、子鹿は一目散に逃げ出した。


「まって、鹿さん」

ラジオは、その後を必死で追いかける。

夢中で走るが後姿も見えず、それでもあきらめられずに走っていた彼の足場が突然消えた。

ラジオは、死に直結する境界線を踏み越え宙を舞う。

ドボンと言う水音と共に、彼は深い水底に沈んで行った。

辺りには人影も無く、彼の悲鳴は誰の耳にも届かなかった。


―――――――――――――――――――――――――


夜11時を過ぎた頃、捜索隊は木の下に寝ている2人の子供を発見した。

残り一人が何処に行ったかを聞きと、「トイレに行った」との返事に周辺を探すが見つからない。

夜を徹しての捜索で、見つかったのは片方の靴だけ、それは谷底にある深い川の岸辺に引っ掛かっていた。

懸命の捜索は続いたが、昼を過ぎてもケン=マッケンジーの行方は要として知れなかった。


設定および解説

魔素発光現象とは、単に発光現象とも呼ばれ、宇宙に満ち溢れる自由魔素が、太陽からのエネルギー(主に電磁波)よる影響で発光する現象である。

この為、夜空はぼんやりと明るいので、夜歩く程度なら支障はない。

地球の満月の夜よりは遥かに明るく、地球での明け方前程度と設定している。

この世界での照明器具には魔素発光現象が応用され使われている。

(電磁波を使わなくても、魔術回路を組めば魔素発光現象は起る)

イメージは蛍光灯に近い物であり、数カ月に一度、自身の身体魔素を補給してあげれば恒久的に使えるものだが、衝撃に弱く、持ち運びには不便である為に備え付けが主流であり、値段も数万ギル程度と少々高い。

懐中電灯やスポットライトに似た魔道具もあり、それほど高価でないので広く普及している。

魔道具のエネルギー源は魔石(日本で言う蓄電池)や魔素燃料(プロパンガスの様な物)が一般的である。



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