8話 異世界の貨幣
説明会になりました。
森の木々の隙間から光が漏れ始め、木々に泊まっていた小鳥達が朝の挨拶を交わしあっている。
昨夜焚いていた焚き木は、燃えカスのみが残っている。昨夜は大分冷え込んだようだったが、現在は朝特有の肌寒い空気がむしろ心地よい程度ある。
そんな朝の微睡みの中、ルミアは目をゆっくりと開いた。目に映るのは現世の姿、昨日の事が夢でなかった事を思い出す。目をこすりながら体を起こしたルミアは近くにシグルスの姿がない事を悟り周囲を見渡した。そして―――
「キャアアアアアアアアアアアアァっ!!」
目の前に広がる光景に、彼女は驚き、絶叫した。
何故か目の前の大木の周囲を囲むように、上半身裸の男達がお互いの手と足を布で縛りあって輪になっていたのだ。
「どうしたルミアっ!? 何かあったのかっ!!」
ルミアの叫び声に、近くにあった小川で顔を洗っていたシグルスは飛び上がって彼女の元へと駆けつけた。
「シ、シグルス様…、あ、アレ、アレを…」
ルミアは恐る恐るといった表情で木を囲むようにお互いを縛りあった男達に指をさした。男達は罰が悪そうにうつむくばかりで、ルミアからすれば意味がわからない。
「ああ、なんだ、あれかの」
シグルスは何でもないといった表情で頷くと昨夜の出来事を包み隠さず説明し出した。途中ルミアが起きれずに寝ずの番を殆ど、シグルスにさせてしまった事にショックを受けていたが、概ね説明が終わると、今度はシグルスがルミアへ問いかけた。
「で、ルミアよ、モノは相談なのじゃがアイツ達はどうしようかのう?」
「此処から町までは歩いて5時間程なのでこのまま此処に縛り付けておいて町の衛兵に後を任せてみてはどうでしょうか?」
「なるほどのう、して、あ奴等の罰とはどれ程のものになるのかのう」
「そうですねぇ、軽くて強制労働5年から、人を傷つけたり殺めてしまっていた場合は最悪打ち首になるかと思います」
罰の重さとしては大凡日本と同じか、やや重い程度かと納得するシグルス、おそらく昨日捕えた連中は人を殺めたりはしていない筈だ、恐らくは強制労働程度のものになるだろう。
「あとはルミア、この世界の金の事について説明してくれるかのう?」
そういって懐に忍ばせていた昨夜連中から巻き上げた金をルミアへと手渡す。ルミアからしても女王に路銀などは預かっておらずまったくの盲点だった、あのままでは街に入ることすら出来なかった筈だ。しかし、それにしても、これではどっちが野盗か分かったものではない。
「野盗4人の所持金にしてはやたら多いですね? 日本円にすると40万円くらいありますよ? しかしまあ、何というか、これではシグルス様がならず者のようですね」
「お主の言いたいこともまあ解らんでもないが、金がないというのは何とも辛いもんじゃぞう? わしと婆さんはそれこそ終戦後の金も何もない日本で大分苦労したからのう…、まあ悪党から金を巻き上げて正しく儂が使うといのはそこまで悪いことでもあるまいて」
シグルスの言葉にルミアはこれ以上深く追求する事は早々に止めて話を貨幣の説明に切り替えた。彼女とて無一文、綺麗事ばかりもいってられないのは事実なのである。第一この国においてはシグルスの行動は罪にならない。犯罪者を捕縛した際の押収物の権利は捕縛した人物にあるのだ。
「それではこの世界、もといこの国、エルグランド王国での金銭の説明をさせて頂きますね。
まずはこの金貨はエルグランド王国金貨といって日本円にして約10万円程の価値があります。この金貨の表に描かれている男性はエルグランド王国初代国王のアーネスト・エルグランド王です。
次にこの銀貨ですが、こちらは日本円にしておおよそ1万円程の価値があります。表に描かれている女性は花売りと言う立場からエルグランド王国3代目国王の王妃にまでなったメイヤという女性です。エルグランド王都でよく演劇の演目となっていて世の女性から絶大な支持を受けています。
最後にこちらの銅貨ですが日本円にして約500円の価値があります。表に描かれているのは4代目国王のロメイン・エルグランド国王です。彼は世間では賢王と呼ばれていてエルグランド魔法技術学院の創立者として有名です」
「ふむ、なるほどのう、では金貨1枚で銀貨10枚、銀貨1枚で銅貨20枚くらいの価値という事かの?」
「ええ、そうです。ちなみにエルグランド王国内で貨幣の価値を統一したのも4代目国王のロメイン・エルグランド国王なんですよ」
「ほうほう流石は賢王といった所じゃの、まあ金銭の価値については大凡わかったが、物価が今一解らんので暫く金の管理はお主に任せても良いかのう?」
ルミアはシグルスの申し出に承諾して頷くと持っていたハンカチで貨幣を包むと懐へとしまった。男達が愛用していた巾着袋は何やら嫌な臭いがして使いたくなかったようだ。
「うむ、それではそろそろ行くとするかの、まずは何処へ向かえば良いのじゃ?」
「そうですねぇ、まずは一番近くにある町を目指すと言うことで宜しいでしょうか? ああ、あとあの人達は念の為に私の魔法で眠らせておきますね」
「ほう、魔法とやらは便利なんじゃのう。わしは連中を殴って気絶させようかと思っていたので丁度良かったわい」
シグルスが悪戯っぽく笑い木の周囲に縛り付けている野盗達を一瞥すると彼等は顔を真っ青にして小刻みに震えだした。昨夜みせたシグルスの腕力は彼等にしっかりと恐怖を受け付けていたようである。
野盗達は薄笑いを浮かべている青年の隣にいる銀髪の少女がいてくれて本当に良かったと安堵したのだった。
そうしてルミアは男達に丸1日は眠りにつくように魔法をかけるとシグルスと共に近くの町へ向けて歩みを進めていくのだった。