7話 シグルスの誤算と男達の啜り泣き
書き直し版7話です。
問題だった7話8話をなくして物語を書き換える事としました。
ご迷惑おかけしています。
月の明かりも届かない程の深い森の奥で、4人の男達は千鳥足で歩いていた。彼等はこの森を縄張りにする野盗であり、野盗達は今夜も昼に襲った商人から奪った酒で酒盛りをしていたのだ。
男の一人が小便をしようと酒盛りをしている開けた場所から少し森へ入った時、ふいに視界の端に光が見えた。
「お~い、こっち来てみろよ~何処ぞの阿呆が焚き木を焚いてるみてぇだ」
男は仲間を呼び光がある方を指さす。
「おー本当だ、ありゃあひょっとしたら。いいカモなんじゃねえか?」
男達は焚き木と思われる光を見ながら相談を始めたようだった。今日の商人は酒の入った馬車だけを置いてさっさと逃げてしまったので、本日の稼ぎは酒だけで残念ながら肝心の金が手に入らなかったのだ。
「ふむ、ちょっと行って様子見てきて見るか?」
「そうだな、こんな所で焚き木するなんて、きっと旅慣れてない奴らなんだろうぜ」
そうして男たちは、まだ酔いが回っている状態で、フラフラと森の中をシグルス達の焚き木の明かりを頼りに進んでいった。
一方その頃、シグルスは連中に気付いた素振りを見せないまま薪を火にくべながら、少々呆れていた。連中は全然気配を消せてない挙句に、物音まで立てながら近づいて来ているのだ。
ふうと一つ溜息を吐いて寝ているルミアに視線を向ける。―――良く眠っているようだ。
「ふむ、可愛そうじゃからルミアが起きんように気を付けるかのぉ」
そう静かに呟くと、シグルスは立ち上がって背後に振り返ると男達に声をかけた。
「何か用なのかの?」
声をかけられた男達は、自分たちが様子を伺っていた事に気づかれ、少し驚いた表情をしていたが、例え相手が少々強かろうと自分達は4人いるのだから問題はないと判断したようだ。下品な笑いを浮かべながらシグルスへと声をかける。
「いや、なに有り金全部とそこの嬢ちゃんを置いてって欲しんだわ」
男達の言葉に一瞬にしてシグルスの表情が凍りついた。
(っしまった、そういえば女王から路銀など預かっておらんよな? 儂、無一文じゃないか?)
シグルスは服のポケットを手探りで路銀が入っていないか確かめる。しかしやはりと言うかそこには一銭たりとも金のようなものは入ってなかった。
シグルスのそんな様子を見ながら、男達はほくそ笑んでいた。彼等にはシグルスが恐怖で表情を硬めて自分達に金を差し出すべく懐を探っているように見えたのだ。
「おらぁ、早くしろや兄ちゃんっ! こちとらガキの使いじゃねぇんだぜっ!」
シグルスの様子から自分達より弱いと判断した野盗達は更に強気になって声を荒げる。シグルスはそんな彼等を見てふと何かを思いついたようだ。
「のうお主ら? 有り金全部置いていけば命までは取らんぞ?」
シグルスの野盗顔負けの言葉に野盗達は一瞬呆けていたが、すぐにその表情は怒りの色に染まり怒声を上げる。
「そりゃあコッチのセリフだろうがっ!」
「ふむ、そうかのう? では仕方あるまい」
不適な笑みを浮かべて野盗達にかかって来いとばかりに手招きするシグルスは少し楽しそうだ。その仕草を見ていた野盗達は更に逆上し彼に襲いかかる。シグルスは先ほど彼等にも言ったとおり命まで取る気はないので刀は握っていなかったのだが…
激しい破壊音が聞こえ、夜の森にいた鳥達が一斉に慌てて飛び出す。音の先には先ほどシグルスに絡んでいた野盗達の一人が倒れた木々の間で倒れていた。
「ありゃ…? やり過ぎじゃのう…。 死んだかの…?」
拳を突き出した状態で固まっているシグルス。残った野盗達3人は口を開いたまま唖然としていた。一瞬の事で何がなにやら理解が追い付いていないのだ。シグルスは流石に殺す気のなかった男を殺してしまったかと大いに焦っていたが幸いにして男はギリギリ息がありシグルスはホッと胸をなでおろした。シグルスはつい自分はまだ年寄のつもりだったので、うっかりと手加減を間違ってしまったのだ。
「テ、テメェ、良くもやりやがったな…!?」
「ふむ、まだやるかの?」
内心やり過ぎたと思いつつシグルスは野党達に鋭い目つきで問いかける。彼等はさっきので完全に負けを悟ったようである。
「ひっ、すいませんでしたっ! どうかご勘弁をっ」
「うむ、よかろう。それじゃあ有り金を全部頂こうかの、あとお主らは縛らせてもらおう」
そうして渋々と小汚い巾着袋を差し出した男達3人だったのだが、シグルスは、どうにも疑わしいと男達に視線を向けた。
「本当にこれだけかの? ちと少なくないかのぉ?」
勿論この世界の金の事を知らないシグルスだったが、男達の態度からどうにも怪しいものを感じたらしく厳しい表情で男達に問い詰める。
「旦那ぁ、本当ですって、だから見逃して下さいよぉ」
「ふむ、お主ら、ちょっとその辺りで飛び跳ねてみよ」
自分達に拒否権がない事を知る男達は、シグルスに言われるがままに辺りを飛び跳ねたのだった。
―――チャリン、チャリン
「ほれ、まだ持っておるではないか? それも出さぬか」
そうして有り金全部を巻き上げられた挙句に自分達の衣服で縛り上げられてしまった男達の啜り泣きは夜の静かな森へと響き渡っていったのだった。