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魔王の産声(旧:翁な青年の異世界冒険記)  作者: 亜狸
第2章 冒険者として
24/27

閑話 シグルスの休息

章管理を始めました。

これで、2章は終了となります。

 5日後、シグルスは這竜に襲われた怪我が、自分で考えていたより遥かに重症だった為に、月の兎亭にて、休養を取っていた。


 あの日、ザイルとアレフが目を覚ましてから、町へと戻った。シグルス達は町の南門の前で二人と別れ、その足で冒険者協会へと向かい、這竜に関しての一連の事情を説明し、既に採取の終えていた薬草採取の依頼の報告を行い、達成が困難となった魔獣討伐依頼を破棄した。


 一連の事情を説明した事により、シビアル子爵の四男アレフは不用意に這竜に攻撃を与え、町の住民を危険に晒した事により、冒険者資格をはく奪された後、自宅に王国騎士団の監視つきで軟禁される事となった。

 実際の被害はシグルスが怪我をし、ザイルが足を斬られたという程度のものだったので、アレフは軽い罰で済んだようだ。まあ日本でいう所の保護観察処分のようなものかとシグルスは解釈した。


 ザイルは、家督を継ぐ事が出来ないとはいえ、貴族家の四男に暴行を働いた罪に問われかけたが、事件が公に出る事を嫌った子爵の計らいにより、最終的には無罪放免となったようだ。


 シグルスは、ふと去り際のアレフの表情を思い出していた。

 最初に会った時から、這竜に追われていた時、ザイルに殴られていた時から考えると、たった一晩でまるで中身が入れ替わったかのようにシグルスは感じたのだ。


 シグルスは、去り際に見た、彼の空虚な目に、言い様のない不快感を感じた。

 まるで、蛇が下半身から這い上がってくるかのような、そんな、えも言われない不快感を感じたのだ。



「ま、今考えてわからん事は、いくら考えた所でわからんわい。第一、あの気はあの男のもので間違いなかったし、人の中身が入れ替わるなぞとゆう漫画みたいな事が起こる訳はないじゃろうて。

 ……第一、もう会う事もあるまいしな」



 シグルスは自分の存在を半分否定するかのような事を言いながら、酒の杯を口元へ持っていく。

 彼自身、年寄の体から若かりし頃の自分の体へと中身を移し替えている事を完全に忘れているようだ。


 ちなみに、現在ルミアは街へと出ている。何でも、消耗した物品の補給や、その他の必需品の買い出しに出かけるとの事だ。シグルスは絶対安静を言い渡されているので、部屋でおとなしく(?)している。



「くっくっく、まさか、このような、『ちゃんす』が巡ってくるとはのう。時に怪我というものも、悪くないものじゃ」



 そう、シグルスはルミアによって禁酒を言い渡されているのだ。前回の大失態の際にルミアに迷惑をかけてしまったので、シグルスも納得済みで禁酒を誓ったのだが、如何せん、一週間以上も飲んでいないと体の調子が悪くなってくるような気がするのだ。


 ルミアが買い物に出かけた時点で、シグルスはこれぞチャンスとばかりに、同じく娘により禁酒を言い渡されている月の兎亭の主人と目配せ一つで交渉を成功させ、酒を入手した。


 そして現在に至る。



「戻りましたー、シグルス様ー、ちゃんと寝てますかー?」



 予定より大分早いルミアの帰宅に心底慌てるシグルス。まずは落ち着けと自分に言い聞かす。そう、まずは時間だ、時間がいる。



「……ルミア、実は儂、今ちょっと着替え中での、ちょっと、……待っててくれるかのう」



 なんか女々しい言葉を吐いてしまったような気がするシグルス。しかも完全にセクハラである。



「あ、はい、解りました。そしたらまた後で来ますね」



 何とか第一の危機を脱したシグルス。


 しかし、第二の危機は意外にもすぐにやってきた。



「シグルス様、一人で着替えなんて不便でしょう? 手伝いますよ」



 シグルスは一応は重症なのだ。あまりにもピンピンしているから、つい忘れがちだが、骨は数か所も折れており、何か所か体を縫っているのだ。

 

 実際、ここ数日、ルミアはシグルスの着替えの手伝いや、体を拭く手伝いなど、甲斐甲斐しく世話を焼いている。基本的にシグルスは、「手伝いはいらない」、「年頃の娘が」、「年寄り扱いするな(?)」、と一々抵抗はしていたのだが、基本的にはいつも根負けして、大人しく世話を焼かれているのだ。


 自分が死ぬ間際に来ていた押しの強いヘルパーさんのようだ、とルミアにはやや失礼な感想を抱く程である。



「って、シグルス様、その手に持ってる杯はなんですか? 」



 シグルスの悪巧みは、あっさりとバレたらしい。

 冷たい目を向けるルミアに素直に謝罪するシグルスは、その後、ルミアの説教を聞くハメとなった。



「別に、禁酒だって言っても、シグルス様の楽しみをいつまでも奪うような事はしませんよ。

 けど、今、シグルス様は怪我してるじゃないですか、怪我してるのにお酒なんか飲むと、傷の治りが遅くなるのですから、少なくとも怪我が治るまでは我慢してくださいね」



 こう締めくくられ、酒を没収されたシグルスは今度こそ、大人しく横になった。

 医者には数か月かかると言われた怪我だが、すでに骨は繋がりかけているし、傷ももう殆ど閉じている。禁酒終了まではあと僅かのようだ。


 一週間後、傷は治ったと言いはり、浴びるように酒を飲んで再びルミアに説教されるのは、また別のお話である。



 

感想など頂けますとうれしいです。


次話から「3章 再開」に入ります。

ここからは週一更新目指して頑張ります。

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