22話 貴族の四男の事情
すいません。
家庭の事情+引っ越しで更新がストップしてました。
まだ、あまり落ち着いてないので、執筆速度は遅いままなのですが、この作品は必ず完結させるつもりではいるので、もう皆さんに見放されているとは思いますが頑張らさせて下さい。
何も言わず勝手に更新をしなくなった事、申し訳ありませんでした。
また書かせて頂いてもよろしいでしょうか?
また、自分の文章のつもりで書いてはいるのですが、何か雰囲気が変わってしまっているかもしれません。
徐々にリハビリしつつ、修正していきたいと思います。
アレフ・メル・シビアルと言う男は、現在シグルスがいるマグナの町を収める子爵家の四男として生まれた。
子爵家では原則的に長男以外は家を継ぐことは適わず、次男以降の息子等は成人するまでに何処かの兵士として勤めるなり、町で職を探さねばならないので、あまり恵まれた境遇とはいえなかった。
彼の父は政略結婚の道具にすらならない息子を疎み、彼の母は自身に似た長男以外の子を愛するつもりはなかった。
アレフが物心つく頃には、彼の相手をする人間は彼につけられた専属の従者一人しかいなかった。従者の名はザイルと言い、将来的に家も継げないアレフに敬意を払う事はない。
アレフが15歳になった頃、彼の父親は久しぶりに彼に声をかけた。
曰く、そろそろ職を見つけて18歳までに家を出ろという事らしい。
このエルグランド王国では、18歳から成人として扱われる。アレフもあと3年で成人である。そろそろ職を見つけて家から出て行かなければならない。
しかし、アレフは一兵卒として城に勤める事も、市井の平民のような暮らしをする事も御免だった。
自分は曲がりなりにも、貴族の息子である。今まで貴族としてそれなりに贅沢な暮らしをしてきたのに、今更、平民暮らしは耐えられない。自分にはもっと相応しい職があるのではないかと根拠のない自身にも似た感情を持っていた。
そんな中、特に何かをする訳でもなくアレフはザイルを連れてフラフラと立ち寄った町の広場で旅の吟遊詩人の語る冒険者の英雄譚を耳にした。
アレフは決断した。自分は冒険者になるのだと。
連れていたザイルには無理だと言われたが、彼はザイルの意見には耳を貸さなかった。彼の父は反対などせず、金貨10枚を彼に準備金として渡し、冒険者になって住む家が見つかったら家を出ろとだけ彼に伝えた。
そうして、約3か月に渡る教習をザイルと共に終えたアレフは駆け出しの冒険者となり、そこで初めての恋をした。
一目ぼれだった。
傍に男が居たが関係ない。自分は貴族の生まれで、これから冒険者として名を馳せ英雄となるのだ。あの男より自分は優れている訳だから、この美しい女性は、自分にこそ相応しいと思った。
最初に声をかけた時は、連れの男がトイレへ走ってしまった為に挨拶すらちゃんと出来なかった。
次に、彼女等が町の外へと薬草を取りに行った時にも彼女等が出て行った門の所で彼女の帰りを待っていたが彼女が帰ってくる事はなかった。
そして、翌日、彼女等が荒野へ向かうと聞き耳を立てて知ったアレフは彼女等の後を追う事にした。
しかし、どうした訳かいくら進んでも彼女等においつく事が出来ない所か、荒野を抜け這竜が住まう山岳地帯まで足を延ばしてしまっている。
アレフはそこで初めて魔獣を見た。魔獣は体調メートル程の弱そうな子竜だ。
これくらいなら、将来英雄となる自分には容易い相手だろうとアレフは判断した。普段から馬鹿にしたような態度を取ってくる従者にも格の違いを見せつける時が来たのだ。
そして、結果、子竜を傷つけられた這竜の怒りに触れ、彼らに追われる事になる。
アレフは必至に逃げた。心の中で、何故こんな目に自分が合わなければならないのかと悪態を付きながら走る。アレフは冒険者になる為の教習でも、最後の講習でも這竜について、重要事項として説明を受けていた筈なのに、覚えていなかった。真面目に聞いていなかった上に、普段から道楽生活を送っていた為に一般常識にも欠けていたのだ。
―――そうだ、この従者が自分にキチンと這竜の危険性を説明しなかったのが悪いのだ。
アレフは自らの失態をザイルに責任とし、更には彼を犠牲にして助かる事を思いつく、思いついたら即行動だった。アレフは走りながら剣を抜き、ザイルの足を切りつけ、這竜に餌はここだと叫ぶ。もはや自分が助かる事しか考えたくなかったのだ。
そこへ、一人の男が現れた。
自分が思いを寄せる女性、ルミアの近くにいる憎き男だった。名前はシグルスと言うらしい。
「まったく、いくら自分の命が惜しいからと言って、腐っておるのう……」
腹が立った。何故貴族の生まれであり、将来英雄となる自分がこのような出自も解らぬような一冒険者に悪態を付かれなけばならないのか、と。第一、この竜達に追われる事になったのは、従者が説明不足だったせいで、自分は悪くないのだ想い、すぐに反論しようと口を開きかけるが、シグルスは彼にまったく興味がないかのように、彼の横を素通りするとザイルを助け起こした。
そこからの事はあまりアレフの記憶には残っていない。シグルスがザイルを高い岩の上に放り投げ、這竜の群れに飲み込まれたあたりで彼は気絶したのだ。
「テメェッ! なんて事してくれやがったんだッ!!」
体を揺すられているような感覚に目を覚ましたアレフが最初に見たものは激昂したザイルの顔だった。アレフは訳がわからず、従者が主人の胸倉を掴むなどと文句を言おうとした所、ザイルによって強く殴られる。
ガンッと言う音と共に、頬に走る強い衝撃、アレフは殴られた衝撃で後ろに下がりながらも、なんとか踏み留まる。
「き、貴様、主人である僕を、な、殴るなんて、何を考えているんだッ!!」
「うるせぇッ! テメェなんぞ殴った所で、何がどうなるってんだッ!」
アレフは頬の痛みに耐えながらも、怒り、顔を紅潮させながらザイルへと怒声を上げる。アレフからすれば目が覚めたばかりで、状況が全くみえてこない。
ザイルはそんなアレフの様子を見て、更に怒り追撃を与えるべく、斬られた足を引きづり、再びアレフへと暴力を浴びせた。
アレフも反撃しようと拳をあげるが、まったく適わず、ザイルによって一方的に痛めつけられるのみだ。
「し、シグルス様? あれ、止めなくても良いんですか?」
ザイルの手当をしたルミアは暫くは二人の様子を見守っていたのだが、段々と不安になってきたらしく隣で胡坐をかいて座っているシグルスへと問いかけた。このままでは、あの殴られている方の青年。先ほどザイルの手当中に聞いたアレフという男は殺されてしまうのではないかと不安を覚えたからだ。
「ふむ、そうじゃのう。……と、いかんの」
シグルスはそう言うと、座った姿勢から一足飛びで村正を抜刀して一閃。ザイルが抜き、振りかぶっていた剣を叩き斬った。
「ほれ、その辺で勘弁してやれ。 お主の怒りも分からんでもないから黙っておったが、流石にやりすぎじゃぞ?」
シグルスは村正を鞘に納刀しながら、剣を叩き斬られた事に驚き目を見開いてるザイルへと声をかける。
ちなみに、アレフは殴られている間に再び気絶してしまったらしい。
流石にアレフを放っておいたまま、帰る訳にもいかず、かといって足を怪我したザイルと気絶したアレフを抱えて歩くのは少々しんどいし、既に日も暮れかけている。
なんだかんだ言って、一番の重傷者はシグルスなのだし、シグルスは野宿する事をルミアに伝え、準備を始めたのだった。
薬草採取と魔獣退治の仕事だったと言うのに、とんだ一日になってしまったものだとシグルスは焚火を眺めながら、ため息を吐き、無駄になってしまった月の兎亭の宿泊代はこの男等に請求するかと思案するのだった。




