21話 魔獣討伐依頼 その3
どうも亜狸です。お世話になっております。
今回はちょっと難産だった為、ぼちぼちと修正をすると思います。
「さて、追っ払ってやると言ったものの…、どうしたものかのう」
迫り来る怒りに満ちた竜を見据え、シグルスが呟いた。呑気に這竜達の数を数えながら、さてどうやって戦ったものかと思案しているようだ。
シグルスからすれば、這竜は討伐対象ではないし、ルミアの話では危害さえ加えなければ害などは無いようだ。そのような存在の命を無駄に奪うのは気が引けるし、何より数が多すぎて全てを倒すのは不可能だ。
やはりここは基本に戻って……などと良く意味の解らない一人言をぶつぶつと呟くシグルス。
「ちょっと、アンタっ!! 何ぼーっと突っ立ってんですかっ!? 早く逃げないと這竜達に殺られちまいますよっ!!!」
と、そこでシグルスに助け起こされた男が、迫りつつある這竜達を見ながら慌てた様子でシグルスに喚きだした。男の苦情を聞きいれたシグルスは男の怪我の具合を目で確かめると男に問いを投げかける。
「お主、足の怪我はどうじゃ? 見た所そこまで深くは斬られておらんと思うのじゃが」
「え、あぁ、はい。そこまで深くはなさそうでやすが……、って前、前を見て下せぇっ! って、…ぐ、ぐえぇ、え、なんで俺の襟首掴んでるんすか?」
「ちょっと痛むかも知れんが、なに、死ぬ事を思うたら楽なもんじゃ。我慢せいよ」
そう男に声を掛けると、シグルスはおもむろに男の襟首を掴むと、男を付近の背の高い岩山へと放り投げた。男は突然の事に混乱し、恐怖と痛みで悲痛な叫び声を上げる。
無事(?)背の高い岩の上へと頭から着地した男はその場で頭と足を押え悶絶し、転げまわっていた。
「おい、お主、コレを持っといてくれ」
シグルスは腰から村正を鞘ごと抜くと、男に向かって投げる。男は慌ててそれを掴むとシグルスに叫んだ。
「あんたっ! 武器も持たねぇでどうするつもりなんだっ!! 」
だが、男の声はシグルスには届かない。既に這竜の群れはシグルスの目と鼻の先の位置まで来ているのだ。男がいくら叫んでも、這竜達の地鳴りのような呻り声と、大地を揺るがす咆哮によって男の声はかき消されてしまうのだ。
「さあ、掛かってくるが良いっ!!!」
這竜達に向かって、敢て挑発的に怒鳴ったシグルスは、全身に魔力を巡らせながら直立不動で這竜達の突進に備える。
そして、次の瞬間――――
激しい呻り声と共に、這竜達の激しい突進を受け止めたシグルスは、這竜の群れの中へと飲み込まれていった。
「シグルス様っ!!!」
遠くからシグルスを追いかけて来ていたルミアが悲鳴を上げ、その様子を固唾を呑んで見守っていた男はもう駄目だと目を背ける。
慌ててシグルスを飲み込んだ竜の群れへと駆けだすルミアだったが、そこで這竜達の様子が何処かおかしい事に気付く。
通常、這竜達は一度怒り狂うと、怒りが納まりきるまではその歩みを止めない事が知られている。だが、現在の這竜達はと言うと、シグルスを飲み込んだ直後、歩みを止めてほぼ全ての者が群れの中心部、恐らくシグルスがいるであろう場所を睨み付け、低い呻り声を上げているのだ。しかも、それどころか群れは徐々に後退していっているようだ。
「ふっふっふ、草食のトカゲ程度の牙で、この儂に傷をつけれるとでも思うたか」
這竜の群れの中心部からシグルスの不適な笑い声が響きわたる。ルミアはシグルスが生きていた事にホッとしつつ、シグルスがいるであろう群れの中心部へと目を向けた。
そこには、両腕を顔の前でクロスさせたシグルスが、3頭の這竜達に足や腕を嚙み付かれたままジッと耐えている姿があった。
シグルスは口元に笑みを浮かべ、必要以上に殺気を周囲に撒き散しながら這竜達と睨みあっていた。
「…傷どころか、血だらけじゃないですかっ!!! 」
「来るなっ」
ルミアが慌ててシグルスに叫び、駆けだそうとするが、未だ這竜と睨みあっているシグルスによって制される。
シグルスはルミアを遠ざけ、血を流しながらも、まるで痛みなど感じていないかのように振る舞い、殺気を込めて這竜達を睨みつける。
やがて、シグルスに嚙み付いていた這竜も徐々に後ずさっていき、やがては目を逸らした。
「退けっ!!」
最後にシグルスが更に強い殺気を放ち這竜達に怒鳴りつけると、這竜達は後退し、踵を返すと住処のある山岳地帯へと退いて行ったのだった。
「まったく、こんなに痛い思いをするのは久しぶりじゃわい」
這竜達が去っていくのを見届けたシグルスもそのまま自身の血で濡れた大地へとしゃがみ込み、愚痴を漏らす。その様子を見ていたルミアが慌てて駆けだした。
「まったくもうっ!! 無茶しすぎですっ!! 」
慌てて駆け寄ったルミアがシグルスを叱り付けながら、先日購入した非常時用のサラシでシグルスの怪我を手当していく。シグルスは怒るルミアに小さくなりながらも黙って手当を受けるのだった。
「いやのう、動物相手ならあの方法が一番穏便かつ楽に決着がつくのじゃよ。奴達は睨み合いに負けると逃げていくからの。儂の怪我も大した事ないし、まあエエじゃないか。まともに戦ったら何頭かは取り逃がして町の方へ向かったかもしれん訳じゃし」
「それは、そうなんでしょうけど……、だからって、シグルス様が、こんなに怪我をして……」
ルミアは、内心ではシグルスがいなければ、ここまで被害を抑える事は出来なかったであろう事は重々理解しているのだ。だが、しかし、理屈と感情は別問題なのだ。
「うん、心配かけて済まなんだ」
シグルスは小さく笑いを零すと、ルミアの頭を優しく撫で、彼女に謝罪の言葉を口にしたのだった。
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9月10日修正。