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魔王の産声(旧:翁な青年の異世界冒険記)  作者: 亜狸
第2章 冒険者として
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17話 二日酔いと横恋慕

 日間ランキング90位、応援して下さっている皆様本当に有難う御座います。

 シグルス達が受けた冒険者協会での説明会は、冒険者協会の成り立ちや、理念、基本概念などで、その後、冒険者の権利や禁止事項の説明などがなされると、最後は仕事の受け方や、ミッション失敗時の罰則などを説明され、説明会は終わりとなった。本日付けでシグルスとルミアを含む6人が、新たに冒険者として、冒険者協会に登録されたのだった。


「…終わったかの?」


 少し顔色が悪く、いつもより厳しい表情のシグルスがルミアへと問いかける。ルミアは何故か少し機嫌が悪そうに頬を膨らませながら答えた。


「終わりましたけど……、もう! 結局説明も殆ど聞かないで、知りませんよ?」


 実は昨日、シグルス達が月の兎亭へと帰ったら、宿の主人とエレナが冒険者試験合格のお祝いの用意をしてくれていたのだ。その際、店主の奢りで初めてこの世界の酒を飲んだシグルスは、調子に乗って店主と共に、店の酒を飲みつくしてしまったのだ。


「いやのう、若い頃はもっと酒に強かったように思ったのだが……? 大戦中は消毒用アルコールを飲んだ事もあったしの……?」


 シグルスが、吐き気を堪えながらルミアに呟く、ルミアは呆れ顔で彼に答えた。


「当たり前でしょう、一体どれだけ飲んだと思ってるんですか? とにかく、暫くシグルス様は禁酒して下さいね、大変だったんですからね、シグルス様を協会まで運ぶの」


 ルミアは朝、月の兎亭一階食堂の床にぐったりと転がっているシグルスを無理矢理立たせると、肩を貸して冒険者協会まで連れて来たのだ。そうしてシグルスは朦朧とする意識で冒険者協会の説明を受け現在に至ると言う訳だ。

 ちなみにシグルスと共に倒れていた、月の兎亭の主人は、朝方黒い笑顔を浮かべたエレナへ、どこかに引きずられて行った。その姿たるや、まるで売られていく子牛の如し。シグルス達の合格祝いに便乗して大酒を飲んでいた店の常連は、今頃まだ床の上で呻いている事だろう。


「う、うむ、わかった。わかったから、そう怖い顔をするでないわ。ほれ、可愛い顔が台無しじゃぞ?」


「…まったくもう、気を付けて下さいね」


 腰に手をあて、小さい子を叱るかのように「めっ」としていたルミアは、シグルスが大人しく禁酒を約束してくれた事にか、可愛いと煽てられた為にか、機嫌を直し、柔らかな笑顔を見せる。ルミアの機嫌が良くなった事に少しホッとしたシグルスは彼女に、もう一度「すまなんだの」と謝り、小さく微笑んだのだった。


 と、そこに話掛けて来る者がいた。シグルス達と一緒に教習を受けていた、中世の貴族風の衣装を身に纏う男だ。男の赤を基調とした装飾過多の衣服は、二日酔いのシグルスの目に痛い。


「ねえ君たち、教習へは参加していなかったよねぇ? ひょっとして、一発試験を通ってきたのかぁい?」


 男は男にしては、やや甲高い声でルミアに話しかけた。どうやら男はルミアに興味があるらしく、手前に、ぐったりと座っているシグルスの頭を通り越して、ルミアにウインクを投げかけた。

 ルミアは「はあ…」と曖昧に返事をし、シグルスの方をチラリと見る、相変わらず顔色が悪い。男がシグルスの事を無視して、そのまま少々困り気味のルミアに話しかけようとした所で、シグルスが不意にスッと立ち上がり男に詰め寄った。


「な、なんだい君? 僕は今そちらのレディと話してるんだ、用があるなら後にしてくれないかい?」


 突如立ち上がって詰め寄るシグルスに、男がやや後ずさりながら声を絞り出す。


「…邪魔じゃ! どけいっ!」


「シグルス様? まさか……?」


 突如男を無視して、駆け出すシグルス。彼の顔色は今最高潮に悪い。駆けだしたシグルスの後を追うルミアは心配そうだ。シグルスの目的地は厠、現代風に言うのであればトイレである。

 ルミアに話掛けていた男は、自己紹介も出来ぬままに一人ポツンと取り残されてしまったようである。


 説明会の会場から出たシグルスは廊下の端にあるトイレまで、一心不乱に駆ける。ようやく目的地につくと直ぐに石をくり抜いただけの便器に突っ伏し、嘔吐した。


「ちょっと、大丈夫ですかシグルス様?」


 ルミアは優しくシグルスの背中をさすりながら、声をかける。


「おうっぷ、ゲッホ、ゴッホっ! うう、すまんのう…」


 ようやく、胃の中の残留物を、全て吐き出したシグルスにルミアがハンカチを差し出す。


「あっちに、洗面所があるんで顔を洗ってください。酷い事になってますよ?」


「あー、うん、大分楽になった、有難う」


 ハンカチを受け取ったシグルスが、ルミアに礼を言いつつ、よろよろと洗面所へと向かう。ルミアは そんなシグルスの様子に不安を覚え、寄り添うようにシグルスの体を支えた。





 その様子を遠くから観察する影が2つ。男の一人が隣にいる背の低い人物に話しかける。


「ねぇ、坊ちゃん? ありゃあどう見ても出来てますぜ? 横恋慕は恰好悪いんで止めときません? さっきもなんかダサかったし……」


 背の高い男が坊ちゃんと呼んだ人物、先程ルミアに話しかけていた甲高い声の男が、ややヒステリックに返事をした。


「うるさい!! 僕はあの子が気にいったんだ‼ お前はどうしたらあの子が僕に振り向いてくれるかでも考えてろ! 」


 二つの影は何度か会話を繰り返すと、洗面所の前で寄り添う二人を遠くからもう一度眺めると、どこかへと消えて行ったのだった。

 

ご意見・評価など下さりますと狂喜乱舞致し〼。あと感想には必ずハイテンションにてお返事させて頂きますので、何卒よろしくお願いします。

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