15話 冒険者協会 その3
「あの、お体は本当に大丈夫ですか? かなり激しい衝撃だったと思うのですが……?」
「な~に嬢ちゃん、コイツに負けたとはいえ、俺だってこれでもベテラン冒険者だ。そんな柔な鍛え方はしてねぇよ」
ルミアの問いかけに対し、シグルスに手を借り立ち上がったガライは豪快に笑いながら答えた。当然の如く、先程まで自分が死にかけていた事など、まったく知らないガライは鍛え方が違うんだ、と誇らしげである。
「う、うむ、そうじゃ、男はそうでなくては、のぅルミアよ?」
「そ、そうですね」
危うくガライを転生させてしまう所だったシグルスは非常にバツが悪そうで、ガライの言葉を肯定しながらも苦笑いを浮かべている。ルミアもやや不安そうにガライの表情を観察し、特に苦しそうでも痛そうでもないガライを見て少し安心する。どうやら内臓などにダメージはないようだ。恐らく死因(死んでいない)はショック的な何かだったのだろうと考えるルミア。
「そういえば嬢ちゃんも冒険者志望だったな、魔術師なら試験内容がちょっと異なるもんでこっちへ来てくれないか?」
ガライがふと思い出し、ルミアに声を掛けた。まだシグルスの試験しか終わっていない、試験は毎日ある訳ではないのだから、出来れば今日中に終わらせやりたい所だとガライは考える。
「大丈夫なんですか? 別に無理に急いで頂かなくても結構ですよ?」
「な~に遠慮すんな、片割れだけ合格してるっつうのも嫌なもんだろ? 何回も言うが俺はそんな柔じゃないから大丈夫だ」
心配そうにしているルミアにガライが安心させようと声を掛ける。ルミアは「柔だった、大丈夫じゃなかった」と思いつつも、現在ガライの身体は大丈夫そうだし、こうも言ってくれている事だ、まあ良いかと頷き彼の後についていく。
ガライに連れられたルミアは、訓練場の脇にあるブルペンのような場所に備え付けられている魔力測定器という魔力回路がある所まで案内された。魔力測定器は大体2メートル程の黒い円柱に的を付けただけのもので、的から15メートル程離れた指定の位置から魔法を打ち込み、測定した魔力によって黒い円柱がその色を変えるといったシンプルなものだ。
「魔術士の試験はこの魔力回路に得意な魔法を当ててもらうだけの単純なものだ」
ガライが魔力測定器をコツンと手の甲で叩きながらルミアに説明する。ルミアは過去にもこの試験を受けた事があるので余裕の表情だ。
「わかりました。じゃあ始めますね」
ガライに一言断ると、ルミアが手を振りかざし魔力を全身に駆け巡らせる。ルミアの手に拳程の大きさの火の塊が出来上がり、風船のように徐々に大きくなっていく。
「って、無詠唱っ!?」
ルミアの様子を近くから見守っていたガライが驚愕の声を上げる。通常、魔法と言うものは詠唱や、魔法陣等に魔力を通す事によって行うのだ。
魔法とは、一定の法則で魔力をコントロールする事によって引き起こされる事象である。魔法陣や詠唱と言うのは、いわば偉大なる先人立が努力と研鑽の果てに開発した魔力のコントロール方法。扱いが比較的容易である事に加え、一定の威力を誇るものが詠唱や魔法陣なのだ。しかし、それは逆に言えば予め決められた事象しか引き起こせない事を指し示す。
無詠唱とは魔力の流れ、コントロール方法など、魔法の知識を完璧に理解し、その上で完璧に自身の魔力をコントロールできて初めて使う事の出来るものなのである。決してこのような少女に使いこなせるようなものではない。ガライは困惑した。自分は夢でも見ているのかと、それとも先程の気絶(臨死体験)に際し、頭でもぶつけていたのだろうかと、すっかり呆けてしまっていたのだ。
「い、いかん……! 何を呆けておるのじゃ!!」
少し離れた所から試験の様子を眺めていたシグルスが、慌ててガライに叫び駆けだす。ルミアの手で魔力を吸いながら膨らんでいた火球は、ルミアの身長と同じくらいまで成長した後に、今度は徐々に小さくなっていく。込められた魔力と熱をそのままに圧縮された火球は、黒く小さく燃える魔力の塊となりルミアの手を離れた。
焦った表情のシグルスがガライの手を掴もうと必死に手を伸ばす。ガライは茫然と黒い小さな炎が魔力測定器に向かって飛んでいく様を見続けていた。
「くっ、間に合わんッ!!」
目標に着弾した小さな黒い炎は一瞬にして、周囲の空気を巻き込み大爆発を引き起こす。魔力計測器は蒸発し、一呼吸遅れてから爆発による衝撃が周囲のものを吹き飛ばす。シグルスは腕をクロスさせて衝撃に耐える。
爆風が収まった訓練場に佇むルミアと腕を交差させたまま顔を上げたシグルス。二人の視線が交錯した。
「……あ、あはは、張り切りすぎちゃいました」
「……張り切り過ぎ、なんてレベルじゃなかろうが」
呆れた顔のシグルスに、引き攣った笑いを浮かべたルミア。彼女は申し訳なさそうにシグルスに謝罪すると周囲を見渡し疑問を口にする。
「あれ? ガライさんはどちらへ行かれたんでしょうか?」
キョトンとしたルミアの呟きに、シグルスが焦った表情で呟いた。
「しまった! 忘れておった、あ奴は何処まで飛ばされたんじゃ……?」
自身が爆風に巻き込まれる直前、先に衝撃をもろに喰らって何処かへ飛んでいくガライを視線の端に映していたシグルスは、こうしてはいられないと駆けだす。幸いガライはすぐに見つかった。丁度魔力測定器があった所の反対側の端まで飛ばされたようで、ボロ雑巾のように転がっていた所をシグルスが発見したのだ。
「あわわわ、どうしようっ、どうしようっ」
パニックになるルミアを後目に、ガライに跨り心臓マッサージを繰り返すシグルス。
「ええい、戻れっ!! 戻らぬかッ!!」
「ガホッ!! ゲホッ!! 痛てて、ん? ここは……?」
「ほっ、戻って来おったか……」
痛みに顔を歪ませながら目を覚ましたガライ。ホッとした表情のシグルスはグイっと額に掻いた汗を袖口で拭う。
変な所で切れました。
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