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魔王の産声(旧:翁な青年の異世界冒険記)  作者: 亜狸
第2章 冒険者として
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14話 冒険者協会 その2

更新が遅くなってしまいました。

今年の夏はやたら忙しかったです。

「それでは、始め!」


 ルミアはすうと息を吸い込むと、やる気がなさそうに棍棒を肩に担いだガライと、長剣を下に向けゆらりと構えたシグルスに戦闘開始の合図を送ると後ろへと下がった。

 ガライはシグルスの試験と言う事もあり初手は彼に譲るつもりのようでだらしなく棍棒を担いだまま彼の様子を観察している。シグルスはガライが初手を譲ろうとしている事を悟ると、呼吸を整え丹田で魔力を練り上げた。


「ふむ、ではまずは小手調べといかせてもらおうかのぉ」


 そう呟いたシグルスは軽く跳躍すると一足飛びにガライとの間合いを詰める。ガライは突如光の如き速さで自身の間合いに現れたシグルスに驚き目を見開いた。ハッキリいって油断しきっていたガライは一瞬何が起きたのか解らず固まってしまっていたのだが、次の瞬間、彼は猛烈な嫌な予感に襲われ咄嗟に防御の姿勢を取る。


―――ガキィィン!!


 ガライが防御の為に頭上に構えた棍棒に激しい斬撃が撃ち込まれ、ガライの手に強烈な衝撃が走る。棍棒を持っていた両の手は痺れ、太い棍棒の半分近くまでシグルスが片手で振り下ろした長剣がめり込んでおり、衝撃を支えた彼の足もまた地面にめり込んでいる。冷や汗を流しながら、この姿勢のままでは不味いと感じたガライは舌打ちをし、シグルスから距離を取るために回し蹴りを放つ。シグルスはガライの回し蹴りを足の裏で防ぐと、その反動を利用し、棍棒にめり込んでいた剣を剥がし後方宙返りでガライから距離を取り、ふわりと音も立てずに地面に着地する。

 

「痛てぇぇぇぇぇぇええ、マジかお前、本当に受験生かよっ」


「ふぉっふぉっふぉ、今のを防ぎよるとはのう、中々やるのうお主」


 シグルスから距離を取ったガライは片手をプラプラさせながら叫び、シグルスは楽しそうに呟いた。シグルスの知る限りでは今の斬撃を防げる人間など、道場を譲った孫くらいのものだ。

 楽しくなってきたシグルスはガライに視線を寄越したままニヤリと笑う。ガライには先程までの油断はなく、上段に棍棒を構え、シグルスとの戦いに意識を集中させている事が見て取れた。なんだか楽しくなってきたシグルスが叫ぶ。


「さあ、掛かってくるが良いッ!!」

 

 シグルスの言葉を合図にガライが動き出す。ガライは上段に構えていた棍棒にありったけの力を込めて駆けだした。


「舐めんじゃ、ねぇッ!!」

 

 ガライの怒気と共に渾身の力で振り降ろされた棍棒は轟音と共にシグルスへと襲い掛かる。ガライの最高にして最大の技であるこの一撃は単純だが、通常の者であれば逸らす事も受ける事も敵わない。


(ふむ、強い、強いが……、まだまだ荒いのう)


 シグルスはガライの渾身の一撃を剣の腹の部分を使ってそらす。強制的に力の方向を変えられてしまったガライの棍棒は空を裂き地面を抉り粉々に粉砕された。渾身の一撃を逸らされたガライは体制を崩し、シグルスは体制の崩れたガライの水月へと膝蹴りを打ち込む。膝が水月を抉る鈍い音と共にガライの視界は暗転し、前のめりに倒れそうになった所をシグルスによって支えられた。


「ふむ、終わりじゃの……」


 シグルスはガライを片手で支えたまま、ふっと息を吐き満足そうな表情で勝負の終わりを告げた。

 そんなシグルスの様子を離れた所から見守っていたルミアが何やら慌てた表情で駆けだしてくる。心配してくれていたのだろうかと微笑ましく思ったシグルスはガライを支えたままルミアに手を振ったのだったが……


「し、し、シ、シシグルス様、試験官の人を殺しちゃ駄目ですよッ!?」


「人聞きの悪い事を言うでないッ‼ 意識を刈り取っただけじゃ」


 妙に慌てているルミアを安心させる為、ガライへと視線を落とした。白目を剥き、腕をだらんと垂れ下げているガライに息がない。シグルスの表情が固まる。


「あれ…? こ、これお主、息をせんか……! 目を覚まさぬかッ!!」


 慌てたシグルスがやや白くなってきたガライの頬をパチンパチンと叩きながら呼びかける。


「い、いやぁぁぁ!!」


「あ、慌てるでないっ」


 焦った表情のシグルスがガライを座らせる形で背後から支え、膝を使って彼に気合を打ち込む。


「ゲホッゲホ、あれ、ここは……どこだ……?」


 気合を打ち込まれた事によって、呼吸を再開したガライは咽ながらも周囲を見渡し、疑問を述べる。シグルスとルミアは二人して息を吹き返したガライにホッと胸を撫で下ろした。


「おかしいな、さっきまでやたら綺麗な花畑にいて、それで…、そうだ何か変な服きた姉ちゃんに青い船に乗るように促されて……? それが何でこんな所に……?」


 ルミアは彼の言葉に再び青ざめる。ガライは間違いなく死後の世界に片足を踏み入れ、あわや転生してしまう所だったようである。


「う、うむ、まあ、お主は夢でも見ておったのじゃろう。気を失っておったようだからのう」


 苦笑いを浮かべながら、ガライに声をかけたシグルスはルミアのジト目に気付かない振りをしつつ、無理矢理話題をかえようと更に言葉を続ける。


「それで、試験はどうなのかの、儂は合格なのか?」


「試験…? ああ、そうだった、あんたの試験を行っていたんだよな?」


 ガライが気を失う前の記憶を辿っていく。記憶は自身の渾身の一撃を逸らされた所で止まっているが、恐らくその後の自分はシグルスに負けてしまったのだろう。若干の悔しさを滲ませながらもガライはシグルスに言葉をかけた。


「合格、だ…。まさか3級冒険者の俺をのしてしまうなんて、な」


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