13話 冒険者協会 その1
冒険者協会は昨日シグルスとルミアが休憩をした、町の中央にある広場の西側に面した位置にある。ここ、マグナの町の冒険者協会は、規模こそ小さいものの、仕事を依頼するもの、仕事を請け負うものとで連日賑わっているようだ。
月の兎亭にて主人が激励の意味を込めた少し豪華な朝食を摂り終えたシグルスとルミアはエレナに見送られ、冒険者協会へと向かったのだった。
昨日は昼を過ぎた頃合いに通った商店街は、朝市でもやっているようで、昨日とは違った賑わいを見せている、シグルスとルミアは賑わいを見せている商店街を通り抜け中央通りを中心に向けて歩く。
ルミアに案内され冒険者協会へと辿り着いたシグルス、協会は無骨な石造りの建物で、正面には鳥の翼らしきものを模したレリーフを掲げられている。
「おはようございます、今日はどういった御用件でしょうか?」
協会の中へと入ったシグルス達を扉の近くにいた女性が笑顔で出迎える。協会の中は銀行を思わせるような作りで、カウンター越しに数人が窓口として座っていた。
「ああ、今日は冒険者の試験を受けたくての、どうすれば良いかの」
「でしたら、一番左にある窓口へどうぞ、頑張ってくださいね」
女性はカウンターの左端にある窓口を指した、窓口では頭の禿げ上がった筋肉質な男が退屈そうにあくびをしながら、だらしなく座っている。シグルスは女性に礼を言うと窓口へと向かう。
「冒険者の試験を受けたいのじゃが?」
「んあ? 冒険者志望か、教習コースは金貨3枚だ、書類やるからあっちで書き込んでこいや」
男はシグルスとルミアを見やると教習コース希望と勝手に決めつけ、面倒臭そうに返事をする。
「いえ、私達は教習抜きで試験を受けたいのですが…」
ルミアが困ったように男性へと話かける。シグルスは男の様子を観察しながらルミアの言葉に頷いている。
「はあ、そっちの兄ちゃんだけならとにかく、嬢ちゃんもか? 怪我すんぞ、悪い事は言わねぇ、大人しく教習でも受けときな」
男は困ったような表情で、二人を見やると手をヒラヒラ振りながら彼等に声をかける。一発試験は模擬戦とはいえ、現役の冒険者が試験官を務めるのだ、下手をすれば大怪我しかねない。
「ええから早うしてくれんか? 大丈夫じゃ、お主が思っているような事にはならんよ」
「ちっ、俺はお前ぇ達を心配して言ってんだがな、まあ良いや、でも怪我だけはしないように気を付けてくれ」
男性は仕方がないといった表情でシグルスとルミアの試験の受付を行う。今日の試験官を務めるのは自分だ、他の連中ならともかく、自分なら手加減してやれるだろうと考えたようである。
冒険者協会では、その働きや戦闘能力によって、下は10級から上は特級へと等級が振られる。その等級が6級から3級の冒険者は3年に一度、一月程度に渡って冒険者協会の試験官を務めねばならない事が定められているのだ。
一発試験を望むものは中途半端に腕が立つものが多く、6級程度の実力の人間であれば上手く手加減が出来ず受験者に大きな怪我を負わせてしまう事が多々ある。だが3級の自分であれば多少の手加減はしてやれる筈だろうと男は考えたようである。
男は万が一、試験中に大きな怪我や死亡してしまった際、協会はその一切の責任を負わないと言った書類に二人に拇印を押させるとシグルス達に声をかけた。
「じゃあ、これで手続きは完了だ。お前さんが剣士のシグルスで、そっちの嬢ちゃんが魔術師のルミアか……。
俺は今日の試験官を務める冒険者のガライだ」
「うむ、宜しく頼むぞ」
「よろしくお願いします」
男はシグルス達の提出した書類に目を通すと彼等と軽く挨拶を交わす。一発試験の受験者は先にも言ったが中途半端な実力をもったものが多く、その為か態度の悪いものが多い。ガライはシグルス達の礼儀正しい振る舞いに関心すると、正直、気は重いがまだ救われるなと思いつつ、シグルス達を試験場へと案内する。
「じゃあ俺に付いて来てくれ、協会の裏に訓練場があるからそこで試験を行うぞ」
そういってガライは協会の裏にある訓練場へとシグルス達を連れて行った。
訓練場は約500㎡程の広さで周囲を壁によって囲まれていて、多少暴れた所でビクともしなさそうである。
「よし、それじゃあ試験を始めるぞ~、シグルスはどっかその辺に置いてある練習用の刃を潰した武器を取ってきてくれ、嬢ちゃんは魔術師だから後で得意な魔法を見させてくれよ」
シグルスは壁に立てかけていた、木で出来た長剣を手に取りガライの前に進み出る。ガライも適当にその辺にあった棍棒を手に取りシグルスと向き合った。
「よし、それじゃあ始めるか、嬢ちゃん済まねえが合図してくれるか?」
ガライの言葉にルミアは大きく息を吸うと、戦闘開始の合図を二人に送った。
そうして協会に所属する上級冒険者と、冒険者志望の現代の武士の戦いが幕を開けたのだった。
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