12話 夕焼けとシグルスの失態
何故か別の話の修正をしていたら、3話が12話とすり替わってた。
なんでだろう、本気で焦りましたとも、執筆中小説に修正の為にバックアップとってたのも忘れて半泣きで焦りましたともorz
食堂から出たシグルス達は、中央通りの商店街を散策しながら今後の生活において、必要となりそうな物を物色していた。中でも最優先で調達しなければならないのがルミアの服装だ。
服屋を何件か見て回ったルミアは、黒いキュロットスカートと白の長袖のシャツにフード付きの白いローブを購入したようだ。ローブは野営などをする際に防寒着としてや、炎天下の際に日差し避けとして重宝するらしい。シグルスも彼女に習い自分用のローブを購入したようだ。
ついでに替えの下着やシャツなどを数点購入し、店内の試着室で新しい服に着替えさせてもらったルミアとシグルスは店を後にする。
そうして商店街を散策しながら色々な店で歯ブラシや手拭いなどの日曜品を必要な分だけ買うと、二人は買い物を終了した。
今の所はシグルスが冒険者の仕事に慣れるまで、この町に滞在するつもりなので旅に必要になりそうなテントや携帯用調理器具や食器類などは今回は購入を見送った。なぜなら、当初日本円にして40万円程あった二人の所持金は残り金貨1枚と銀貨8枚、銅貨が15枚となっていた。日用品や衣服などは、そこまで高くはなかったのだが、いかんせんローブがそれぞれ銀貨8枚と中々に高額だったのだ。
買い物を終えた二人は中央通りの先にある公園のベンチに座り、出店で買った飲み物を飲みながら一息ついていた。飲み物の代金銅貨1枚と言われた時には、ぼったくり価格じゃないかとシグルスは思っていたが、ルミアに魔法で飲み物を冷やしていると聞き、納得したようだ。
「ふう、なんとも疲れたわい、このように活気のある所を歩くのは久しぶりじゃからのう」
軽く溜息を吐きながらシグルスが言葉を漏らす。体力的には全然余裕があるのだが、久しぶりの人混みに精神的に疲れたようである。
「ふふ、シグルス様でも疲れる事があるんですね、私、シグルス様は鉄か何かで出来ているのかと思っていましたよ」
ルミアが少し茶化しながらシグルスに答える、実際自分を抱えたまま小走りでルルの森から町まで走っても汗一つ掻かなかった男が人混みに疲れたなどと聞くと少し笑えてしまう。
「お主は一体儂の事をなんじゃと思っていたんじゃ…」
「え~と、現代の武士でしょうか?」
呆れ顔のシグルスに再びルミアがくすくすと笑いながらシグルスに答える、シグルスは罰が悪そうに頬をポリポリと掻きながら苦笑いをした。
「ありゃあ、周りのもんが勝手にそう呼んでただけじゃわい、儂はそんな大層な人間でもなければ、人格者でもないからのう…」
「そうだったんですか、私は女王にシグルス様を迎えに行くように命じられて、怖い人だったらどうしようと、結構不安だったんですよ。武士なんて聞くと融通が利かなくて固くて恐そうなイメージが強かったですからね」
今度はシグルスが軽く笑うとルミアに声をかけた。
「ふぉっふぉっふぉ、儂も神と言う存在が、かのように人間臭いとは知らなんだわい」
「ふふ、私だって元人間ですからね、そりゃあ人間臭くだってなりますよ。それに、この世界は私が暮らしていた現世ですからね、そういった感覚も余計に強くなるのかも知れません。
体があって頬を伝う風や、人々の活気、おいしい料理の香りや、その味を感じる事が出来る…。私は今、改めて生きるって事は素晴らしいと再認識しているところですからね」
笑顔でシグルスにそう答えると座っていたベンチから立ち上がり、シグルスに手を差出した。
「さあ、シグルス様。もうすぐ日も落ちてしまいます。宿に帰らないと私達の食事がなくなっちゃいますよっ」
元気よく差し出された手に、シグルスはふっと笑うと彼女の手をとって立ち上がった。
彼女の言う通り、すでに日は落ちかけて夕焼けが空を赤く染めていた。シグルスはこの美しい夕焼けを見る事が出来るのも生ある者の特権なのかも知れないなと、彼女の語った言葉を胸の奥で噛み締めていた。
二人が宿に戻るとエレンが出迎えてくれ、部屋の準備ができていると客室まで案内をした。客室はベットとテーブルくらいしか置いてなかったので二人は部屋の確認もそこそこに今日買ってきた荷物を下ろすと、食堂へと下り、食事を摂る事にしたのだった。
「おう、おめぇらが冒険者志望の宿泊者だな、これから暫く宜しくな」
食堂のカウンター席へと腰を下ろしたシグルス達に店の主人であるエレンの父親が挨拶をしてきた。エレンは細見の美少女であるのに対し、主人は大柄で厳つい顔をしているのが特徴的だ。エレンの母親は早くに亡くなっているそうで、現在シグルス達のいる宿、「月の兎亭」はエレンと主人の二人で切り盛りしているらしい。
「うむ、少しの間じゃが世話になる」
シグルスが主人に返事をすると、主人は料理を手際良く料理を作りシグルス達に振る舞った。
そうして食事を食べ終えた二人は手の空いたエレンや主人と世間話などをしながら過ごしたのだった。
そして、部屋へと戻ったシグルスに事件が起こった―――
お互いの部屋へと戻ったシグルス達だったが、幸いな事にこの宿には風呂が付いている事がわかった。この世界では風呂という習慣はあるにはあるが、風呂付の宿とは珍しいのだそうだ。
部屋の風呂場でジっと風呂釜を見つめるシグルス、風呂釜には蛇口らしきものはあるのだが、如何せん水の出し方も分からなければ、湯の沸かし方も分からない。
困り果てたシグルスは隣の部屋にいるルミアに声をかけ、風呂の使い方をレクチャーしてもらう事にしたのだった。
「すいません、説明を忘れていました。この世界では日常的に魔法が使われてまして、ここにもその技術が使われているんですよ。しかし、私のような魔術士は体内でや、言語や文字と記号等によって魔力を練り上げて事象を起こすのですが、これは一般の方に出来る事ではないのです。
それで、どうするかと言いますと、この蛇口の所にある石がありますよね? これは魔工士と言う職業の方たちが作った魔力回路となってまして、コレに魔力を通すと魔術士達が魔力を練り上げた時と同じような事象を引き起こす事が可能となるんですよ」
「なるほどのう、では儂がこの石に気、ああ、この世界では魔力か、を通せば水なり火が出ると言う事じゃの?」
得心がいったといったとシグルスは頷いた。彼女に軽く礼を言うと自らの魔力を魔力回路に通し始める。
「あ、ちょっと待って―――」
「ぬあぁあっごぼがぼがぼ!!」
突如大量の水が浴槽を溢れ出し、あっと言う間に浴場を水で満たしてしまった。幸か不幸かシグルスは彼女に魔力回路のレクチャーを受ける際に浴場の扉を閉めていた為、部屋は被害を免れたのだったが、当然の如く水の逃げ場のない浴場に大量の水が溢れれば、その空間を水が満たしてしまう事になるのは明白で、シグルスとルミアは水責めを受けるハメになってしまったのだった。
咄嗟にルミアが魔法で水を何処か別の場所へと転移させ、事なきを得たのだったが、二人はずぶ濡れになってしまったようである。
「あー、なんと言うか、その、すまなんだ…」
「い、いえ、私ももう少し早く説明をしていれば良かった訳ですし、こちらこそすいません。シグルス様の魔力は強大すぎるので、こうなっちゃうのも仕方ないんですよ…」
お互い非があったと謝る二人。そしてシグルスは濡れた衣服が肌に張り付いているルミアに申し訳なさそうに声をかけた。
「あー、後の…、その…、服が、透けておるぞ?」
「ええ!? きゃああぁあ」
顔を赤くして蹲ってしまったルミアにシグルスはもう一度すまんと声をかけた。ルミアは真っ赤になったまま魔法で周囲の水分を抜き去ったのだった。
その後、シグルスが彼女の機嫌を直す為に小一時間程を要したのは言うまでもない。
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