ほんとうのJoker①
「あら、きれいな飾りね。」
「はいっ!」
お茶の席でかけられた言葉にライラシアは立ち上がってくるりとまわって見せた。
いずれ自分の息子の嫁になるであろう少女の愛らしいしぐさに王妃は笑みを深くする。
「シェリが作ってくれました。」
「シェリ?」
私の侍女です。そう告げるとライラシアはさみしげに笑う。
王妃様は優しい。王妃様の侍女も優しい。でもシェリは違う。むろん優しいが優しいだけじゃない。
かけがえのない人なのだ。
このことをほかの人に伝えることがライラシアにはまだできない。
それ故にもどかしく、また立場上侍女としか言えないことにライラシアの気持ちは沈んでしまう。
「お姫さんはあの侍女さんがすきだねぇ。」
のんびりとした口調で口を挟んだのはエイルート伯爵家の次男ウィルターだ。
ローエン家は由緒正しき侯爵家だが、その家には使用人は2人しかいない。そうシェリだけだ。
かつて何十人といた使用人は昔に皆ロワルが解雇してしまった。
その理由ははっきりとはわかっていないが、妻を失ったロワルに待っていましたとばかりに侍女たちがいい寄ってそれに辟易したせいだとか、また逆に男の使用人があまりに愛らしいライラシアに邪な思いを抱いたからだとか憶測が飛び交った。
しかし、一番の理由はライラシアの母親、かつてのロワルの妻の死因に使用人達が関わっていたという話だ。とはいえ本人の口からきいたわけではないからこれもまた憶測に過ぎない。
とはいえ、ライラシアが物心ついたころにはロワルとの二人の生活が当たり前であったし、ほどなくしてシェリがきたから全く不自由がない。ロワルに至っては本当に貴族か?と疑われるほどほとんどのことを自分でこなしてしまうため、生活は滞りなく営むことができた。
ただ一つ、困ったことがあった。
こうしてライラシアが王宮に訪れるとき、ライラシアに付き添う者がいないのだ。
シェリは身分の問題で王宮の門を通ることは許されない。かといってロワルは日々忙しい職務に追われていて、こうした席に付き添うことは不可能だった。
この状況に手を差し伸べてくれたのがウィルターだった。
若く、また次男故に家を継がないウィルターは王宮で仕事をしていてもさほど重要な役職には就いていなかった。
そのため、自由に行動することができた。
そんなウィルターの好意に甘えて、こうした付き添いが必要な茶会などにはライラシアはウィルターに付き添ってもらう様になったのだ。