花の色
赤、青、黄色、橙に緑ー。
床に所狭しと鮮やかな色が舞っている。その中央に咲く金色の花。
その花が腕組みしながら眉間にしわを寄せている。
その様子にシェリはクスリと笑みをこぼす。その笑みを目ざとく見つけた金色の花がみるみる不機嫌なオーラを纏うのを見て、あわててシェリは本題を切り出した。
「そうですねー。ここ最近はずいぶんと暖かくなりましたし・・・。」
独り言のようにつぶやきながら、床に舞っているドレスを選り分ける。
「こっちのドレスはだめなの?」
次々と分けられていくドレスの中には彼女お気に入りの赤いドレスが入っている。
少し未練がましくドレスを見つける少女にシェリはにっこりと微笑む。
「最近暖かくなってきましたし、明日はお天気もよさそうです、となればきっと王妃様はお庭にお茶の席を設けるでしょう。今の時期はアスライの花が見ごろです。きっと王宮の庭にも多く咲いているでしょう。」
アスライの花は朱色の美しい大輪の花だ。早春になると咲く花で、どの花より先に咲くことから春を告げる花としても有名だ。
「ならば、赤色のドレスはやめましょう。お花と同化してしまいます。」
ドレスの束から赤色のものをはじく。
「かといって青のドレスは春には合いませんし、葉の緑とは相性が悪いですから、青もやめておくのが良いでしょう。同化するという点で葉の色とかぶる緑も良くありません。」
これだけだいぶドレスが絞られる。その中から王妃の好きな色、同じく呼ばれている貴族がよく好んでいるものなどの情報を材料に1枚のドレスを選んだ。
「これぇ??」
選んだのは淡いクリーム色のドレスだ。
普段この色はあまり着ない。雪のように真っ白な美しい肌と色素の薄い淡い金糸の髪の少女にこの色はぼやけてしまうのだ。
「ではこうしてみては?」
濃い赤色の生地をドレスのウエストの部分に巻く。後ろの部分を紐を使ってきれいに束ねていく。
「すごぉい。」
「ドレスのメインにしなければ、花と同化する心配はありません。むしろ挿し色になって全体的に締まります。」
前のめりに覗き込んできた少女の髪に、さらに同じ布で作った花のかんざしを挿す。
きょとんとしている少女の前に鏡を掲げる。
「すごいっ!すごいわ!さすがシェリ!」
抱き着いてくる少女を抱きしめながら、シェリはこっそり準備していたサプライズが成功したことにほっとする。
小さな小さな大切な主。
シェリの人生において、彼女ほど大切なものはいない。
あの日からシェリの人生は彼女ー、ライラシア・キャシス・ローエンのものになったのだから。