男友達三人に彼女がいると知った翌日、数人の女子が髪をほどいた。
俺こと『ラーメン好き』柳本は、たった一言で思ってもいない影響が出ることを知った。
それは昨日の昼休み。
昼食を食べ終わった後、友達四人と会話していたときのことだ。
「新しい彼女ができたぜ!」
友達の一人、サッカー部の佐藤がにやけ顔で報告してきた。
「……」
「三日で振られるに学食Aランチ」
「一週間で浮気するに唐揚げ定食大盛り」
「一ヶ月後に元カノを巻き込んで修羅場になるにジャンボスペッシャルラーメンセット」
俺たち男三人は、もちろん心の底から佐藤を祝福した。
「振られないし! 浮気しないし! 修羅場にもならない!!」
どうやら佐藤は男友達からの祝福がお気に召さなかったようだ。
男の友情とはなんとも儚いものだと思う。
「それで、お前らはいい感じの相手はいないのかよ」
『裏切りのサッカー小僧』佐藤が、勝ち誇ったかのように俺たちを見下していた。
「……実は、バイト先の先輩に告白してオッケー貰った」
高橋が照れくさそうに頬をかいていた。
「実は僕も、同じ塾の女子に告白されて付き合ってる」
眼鏡のフレームをつまみながら井上は視線を反らしていた。
まさか『バイト戦士』高橋と『国立大志望』井上もあちら側に行っているなんて、思ってもいなかった。
「「「「……」」」」
無言で俺を見つめる八つの瞳。
「お、俺だって……」
これが昨日の話。
そして今日。
俺が教室に入ると、小さな悲鳴が響いた。
そして、数人の女子が俺に向かって駆け寄ってくる。
「私たち絶対前の髪型に戻さないから!」
「本当だからね!」
「わ、私は彼氏がいるから!」
誰かに聞かせるかのように声を張り上げている女子たち。
みんないつもと違い、髪をほどいている。
状況がわからず混乱していると、友達が教室に入ってきた。
「……」
いつもと様子の違う友達と目が合う。
「……おはよう」
「お、おう、おはよう」
驚いた。
鈴木から挨拶されるとは。
彼女の声を久しぶりに聞いた気がする。
俺の唯一の女友達、ボブカットの『雄弁な無口』鈴木は、言葉を話すのが苦手で声を聞く機会が少ない。
「す、鈴木さん、昨日のメッセージみたよ……」
「ご、誤解しないでね!?」
「わ、私たち鈴木さんのこと応援してるから!!」
「…………」
俺に詰め寄っていた女子たちに向かって、嬉しそうにコクコクと首を縦に振る鈴木。
鈴木は無口ではあるが表情豊かで、メールやチャットなどの文字では、豊富な語彙を駆使して畳み掛けてくるようなマシンガントークを繰り出してくる。
おそらく彼女たちは、昨日鈴木のメッセージ爆撃を受けたみたいだ。
鈴木との話が終わったのか、そそくさと離れていく女子たち。
気づけば鈴木が俺の目の前に立っていた。
俺の視線は彼女の髪に吸い寄せられる。
「もしかして、それ……昨日の」
「……そう」
昨日、恋人持ち三人に打ちのめされて、苦し紛れにこぼした強がり。
『お、俺だって……す、すぐに三つ編みが似合う可愛い彼女ができるし……』
思わず教室を見回す。
普段は二、三人いる三つ編み女子が、今日は一人しか見当たらない。
「…………どう?」
顔を少し赤くした鈴木が、俺の答えを待っている。
一つ息を飲み込み、俺は鈴木の瞳に向き合った。
「すごく、似合ってる」
「………………うん」
ボブカットから編み込んだ短い三つ編みが、ゆらゆらと小さく揺れている。




