ピアノ
わたしが通っていた幼稚園では、通常の保育時間のあとに、そのまま園で習い事をする子が大半だった。
男の子は体操やサッカー、女の子はビアノかクラシックバレエ。
わたしは親の意向でピアノを習わされていた。
バレエは週2回だったけど、ピアノは週3回だったからだろう。
延長保育代わりに習い事をさせる家庭が多かったが、うちの親は間違いなくそれが目的で、バレエより1回多いピアノにした気がする。
母は自分の兄妹の中で唯一ピアノを弾けないので、そういうコンプレックスからわたしにピアノを習わせたのかもしれない。
ピアノのレッスンが始まる頃になると、いろんなお母さんたちが一人、また一人とやってきて、子供のレッスンの様子を見ている。
わたしの母は、たまにしか来なかった。
それでも来た時はうれしかった。
いつもは一人で帰るけど、その時は一人で帰らずに済んだから。
ピアノのレッスンは毎回宿題が出て、次のレッスンの日までに練習してできるようになっておくのが望ましい。
うちには、わたしを殴るためのクッキーの缶があった。
金色の缶で、赤茶色の文字が斜めに等間隔で書かれている四角い缶だった。
父がいる時にピアノの練習で間違えると、その缶で殴られた。
たまに、頭が切れて血が出ることもあった。
だけど泣くともっと殴られるから、必死で堪えた。
いつの頃からか、父がいる時は動悸がして、手が震えるようになっていた。
父が家にいるだけで、過呼吸も起こるようになった。
だから、ピアノは嫌いだった。
リラックスミュージックはピアノの音楽が多いけど、わたしにとってピアノの音は、リラックスとは程遠い。




