兄のこと
わたしには、5つ上の兄がいる。
兄には、発達障害がある。
わたしが物心ついた時には、その様子は既におかしく、異質で、恐ろしかった。
だけど兄に障害があることが正式にわかったのは、兄が中年になってからである。
わたしが小学校高学年の頃、母に、「お兄ちゃん、自閉症なんじゃない?」と言ったところ、母は半狂乱になり、熱したアイロンをわたしの左足に押し当てて、「自分のお兄ちゃんをキチガイみたいに言うなんて、おまえこそキチガイじゃないの!?」と言った。
それ以来、わたしは兄について両親に言うことは無くなった。
母は兄には愛情があるから、わたしの言ったことが許せなかったのだとその時は思ったけど、今はわかる。
母は、兄に障害があることがわかると、自分が子供たちを置いて自由に外泊できなくなることが怖かったのだろう。
大人になった兄は、職場に馴染めず、キレて暴れて、上司から「おまえ、おかしいんじゃないか!?」と言われたのをきっかけに、自分で病院に調べに行ったという。
結果、アスペルガー症候群だった。
兄は人の気持ちを察したり考えたりすることができず、兄自身、人間の感情のようなものがあまりない。
子供の頃、兄はいつも虫を殺していた。
虫を捕まえてきては部屋に籠り、薬品に浸けて保存したり、手や足を取ったり、羽を取ったり、解剖したりしていた。
わたしは、いつか兄が人間を殺すようになるのではないかと思っていた。
そうなったら、わたしは殺人鬼の妹になる。
そのことが怖くて、見張らなきゃいけない使命感に駆られ、学校が終わったら急いで家に帰った。




