のりちゃんおねえちゃん
のりちゃんおねえちゃんは、時々うちにいる人だった。
大人になったわたしが今、彼女について知っているのは、彼女が父の浮気相手で、何かの病気の副作用で髪が無く、いつもウイッグをつけていたらしいということぐらいだ。
幼稚園や小学校から帰ると、のりちゃんおねえちゃんはうちのお布団に、パパと一緒にいて、楽しそうに話していた。
二人はお布団にいるのに眠っていなくて、のりちゃんおねえちゃんと一緒にいる時のパパは、別の人みたいにいつも笑顔だった。
のりちゃんおねえちゃんはいつも水色のベレー帽を被っていて、グレーの毛むくじゃらの犬を連れてきていた。
のりちゃんおねえちゃんはわたしに優しくて、犬の散歩にわたしを一緒に連れて行ってくれた。
近くのスーパーの前には焼き鳥屋さんやクレープ屋さんや今川焼き屋さんが臨時でよく出ていて、散歩中にそれを買ってくれては「おいしいね!」と言って一緒に食べた。
その時間がすごく好きだった。
わたしの小学校入学の時の給食袋や手提げバッグも、のりちゃんおねえちゃんが作ってくれた。
のりちゃんおねえちゃんが来ている時のパパは優しくて、いつもみたいにわたしに怒鳴ったり、叩いたりしなかった。
母がたまに帰ってくると、母はわたしに、のりちゃんおねえちゃんがうちに来たかどうか聞いた。
そして、のりちゃんおねえちゃんのことをとても悪く言った。
「あの女はキチガイだから」と。
そして母は、のりちゃんおねえちゃんとパパがお布団で何をしているのか、とても細かく、とても嫌な顔で、当時4〜5才だったわたしに話して聞かせた。
二人はお互いの体を舐めたり触ったりしているのだと。あの女は淫乱なのだと。
その時のわたしには、それがどういうことなのか全然わからなかったけど、何だかすごく汚くて、嫌な感じがした。怖かった。
そして何よりも、その話をわたしに話しているときの母の顔が、何よりも、誰よりも、汚く見えた。
「のりちゃんおねえちゃんはとってもやさしいよ?」
そう言ったわたしに、母はさっきよりも更に汚い顔をして言った。
「おまえもいんらんだからね」
「おまえもキチガイだから」
「おまえもあのハゲ女に似たんだね」
母は、父の体を舐めるのりちゃんおねえちゃんが羨ましかったんだろうか。
それとも、父に体を舐められるのりちゃんおねえちゃんが羨ましかったんだろうか。
わたしが小学校3年生になった頃には、のりちゃんおねえちゃんはいつの間にかもう来なくなっていた。




