表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】ニート ワイ、異世界でチートなし ~しかも1日12時間以上屋内にいたら爆発する呪いかかってるンゴ~  作者: 毒の徒華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/19

【悲報】ギルドを追放されたンゴ




 森の虫との死闘から数時間後――――……

 ワイは、ようやく森の中から町の入り口にたどり着いた。


「うおおおおお! ついに文明圏や! 人がいる! 建物がある! トイレがあるぅぅぅ!」


 道中、森の中やから当然トイレはないし、飯もない。

 安価したら虫って言われるにきまっとる。

 だから安価はせんかった。


 虫より町の残飯の方がまだええ。


『ナビゲーター:「良かったなイッチ。これでやっと虫生活ともおさらばやな」』

「ワイ、もう虫見たくないンゴ……目ぇ閉じるとカマカブトが浮かんでくるんや」


 で、ワイは町に入ろうとしたら、門番に止められたんや。


「そこの貴方、止まってください」

「ファッ!?」


 前に入ったときは話しかけられなかったで?

 なんで声かけられたんや?

 まったくわからへんままワイは指示通り止まったやで。


 歯向かったら持ってる槍で殺されそうやと思ったからや。


 ワイに近づいてきた門番は、急に鼻をつまんで後ずさりしたンゴ。


「クッサ!」


 くっさ? 草?


『ナビゲーター:「イッチ、臭い言われとるで」』


 ワイが草かと思ってたところ、ナビゲーターの「臭い」という言葉でやっと理解できたんや。

 でも、ワイは臭くないで!

 そんなこと言われるのは心外や!


「う、嘘やろ……! たしかに森で風呂入っとらんけど、そんなヤバいか?」

『ナビゲーター:「体中ドロと虫汁まみれで、しかもワキガ。つまり最悪や」』

「ファッ!? ワイ、ワキガやないし!」

「町に入ったらすぐにお風呂に入りなさい。苦情があったら町から出て行ってもらいますよ」


 そんなこと言われても、風呂に入るには金がいるんやないか?

 ワイ、今無一文やで……?


 それでも、とりあえず町には入れてもらえた。

 門番は「関わりたくない」って顔してたけど……それはこっちから願い下げやで!


 風呂よりもとにかく、冒険者ギルドや。

 働きたくないけど……金がないのは大変すぎるンゴ。


「ここでクエスト受けて、金稼いで、風呂入って、飯食って、女の子とイチャイチャして――――」

『ナビゲーター:「妄想は自由やけど、現実はただの臭いデブやで。女が寄り付く訳ないやろ」』

「やかましい!」


 ワイはナビゲーターの煽りを無視して意気揚々とギルドの扉を開ける。


 中に入ると、やけに周囲の奴らがワイを見てくるような視線を感じたんや。

 なんやろ? やっぱりワイって異世界人やし、目立つんかな?

 鎧とか異世界っぽい服着てるわけやなくてスウェットやし。


「は? なんや……? ワイ、なんか目立ってる……?」


 もしかしてワイの近くにいる誰かかもしれないと思って見渡してみたんやが、周りには誰もおらん。


『ナビゲーター:「お前や」』

「ワ、ワイ!?」

『ナビゲーター:「他におらんやろ。風呂に入れ言われてたのに無視するからこうなるんや」』


 ギルドの空気が一瞬で悪くなった気がした。

 もしかしたらワイが気づく前に悪くなっていたのかもしれへんけど、ワイは周囲の視線が突き刺さって痛かったンゴ。

 誰かが鼻を押さえながら「毒霧か!?」って叫んでたけど、たぶんワイのせいや。


 受付嬢のところまで行くと、それでもギリギリ笑顔を保ったまま受付嬢はワイに話しかけてきた。


「お、お客様……その……少々お体から強い……えっと……独特な香りが……」

「い、いいいいい……」


 アカン、またワイ、うまく話せへんかった。

 ここまで人間と人間らしいやり取りしてた訳じゃないから、普通に話すのは難しかったんや。


「いや、あの、その……いや、それは虫と命のやり取りしてたせいで……」

「……申し訳ありませんが、ギルドの規則上――――」


 受付嬢は一呼吸置いて、露骨にワイから目をそらした。


「――――衛生的に問題のある方は、出禁になります」

「ファッ!?!?!?」


 ギルド全体がざわつく。

 ざわつくというか、ワイを嘲笑ってる感じや。

 腹抱えて爆笑しとるやつもいた。


 恥ずかしさと、怒りと、色々思ったけどワイは一歩も動けんかった。


「出禁!? 初来店やぞ!? ワイ、何もしてへんぞ!?」

『ナビゲーター:「してるやん。空気汚染」』

「ワイは生きとるだけで罪なんか……?」

「申し訳ございません、お引き取りください……」


 ワイの抗議も虚しく、屈強な冒険者2人がワイの両脇を抱えて外へ引きずり出した。


「いややああああ! まだクエスト受けてへん! 働きたくないけど働きたいんやぁああああああ!!」

『ナビゲーター:「どっちやねん」』


 ギルドの扉がバタンと閉まり、静寂しか残らなかった。

 ワイをつまみ出した冒険者は、ワイと接触した部分の服を脱いで臭そうにつまんどった。


 屈辱や。

 せっかくこのワイが、この世界のワイが少しでも働こうと考えを改めたというのに、なんて世間様は冷たいんや。


 一回人生のレールから外れたら再起させてくれへんのか?

 ニート差別か?


 ニートだって生きてるんや!

 同じ人間なんや!

 人権があるんやで!!


 そう叫びたかったけど、ワイは腹が減ってたし疲れてたから脳内で叫ぶだけだったンゴ。


「……出禁、されたンゴ」

『ナビゲーター:「まぁ当然や。風呂入ってへんデブが泥と虫汁まみれで突撃とか、ギルドもビビるやろ」』

「そんな……やっと町に戻ってきたのに……!」


 ワイの心が折れそうになる。

 けど、ここで諦めたらまたバッドエンドや。

 気合い入れ直さなあかん。


「せや、金や! 金があればなんとかなる!」


 ワイは再び地べたを這いずって、地面を探り始めた。

 爆死する前に漁ったあたりや。

 ループしてるなら同じ場所に落ちてるはずや。


『ナビゲーター:「まーたそんな方法か。進歩せえへんな」』

「ええねん! この世界、貧乏人には冷たすぎるんや!」


 そうして複数の場所の泥をかき分けると、前と同じ場所に数枚の銅貨が見つかった。


「おおおお! 拾い銭復活ぅ!!」

『ナビゲーター:「泣けるほど情けないな」』


 でも、合計しても宿代の半分にしかならん。

 それにまた宿に泊まったら爆死するかもしれん。

 とりあえず、仕方ないから野宿や。


 町外れの石畳の上で、ワイはドカッと寝転んだ。


「……硬いし冷たいンゴ……石畳、なんでこんなに敵意あるんや……」

『ナビゲーター:「そら地面やし」』

「ワイ、寝返りうつたびに骨削れてる気がするンゴ……」


 不意に空を見上げると、月みたいなのが綺麗やった。

 でも、全然ロマンチックやない。

 虫と泥の臭いが自分の周りに充満してて、本当に涙が出る。


「ワイ、なんで転生したんやろ……ワイの思い描いてた異世界転生と全然ちゃうわ……」

『ナビゲーター:「そら前世で社会的に死んだからやろ」』

「正論パンチやめろや! こっちは傷心中やぞ!」

『ナビゲーター:「でもイッチ、今回は爆死してへんやん。虫にも勝った。ギルドは出禁やけど、生きてるだけ進歩やないんか?」』

「……それ、慰めになってへんで」


 寝返りを打つたび、石畳の硬さが骨に響くンゴ。

 冷たい夜風が肌を刺すような感じがする。

 どんなに目を閉じても、眠気が来ないんや。


「ワイ、次こそはマジでまともな生活したいんや。働くのは嫌やけど」

『ナビゲーター:「あんな酷い目に遭っても結局働くのは嫌なんかい」』

「働いたら負けやと思ってるけど……生きるためには、ちょっとだけ……ちょっとだけ頑張るかもしれん……このままじゃ完全にホームレスやで……」

『ナビゲーター:「その“かもしれん”が、永遠に来ないタイプやな」』


 ナビゲーターと会話してるうちに、夜が更けていった。

 まともなもん何も食べてないからワイの腹も鳴る。


「……腹減った。虫以外の飯が食いたい……」

『ナビゲーター:「金ないし、ギルド出禁やし、飯屋も入れんで」』

「ワイの異世界ライフ、難易度ルナティックやんけ……ワイ、風呂入りたい……」

『ナビゲーター:「その願い、安価してみるか?」』


 冗談やない。

 絶対ろくなことにならんやんけ。

 今日はもうとにかく疲れたんや。


「もうええわ……今日はもう寝たいんや」


 でも、疲れ果てたワイは結局石畳が冷たいし硬いし眠ることもできずに夜を明かすことになったんや……悲劇やで。


【悲報】出禁デブ、文明圏で野宿。地面の硬さに敗北




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ